素敵なお昼のハンバーガーセット8
「バカな……バカな! こんなはずが……なんで、なんでこんなものがこんなに美味いのだ! ありえん!」
言って、自分がかじったハンバーガーの断面をにらみつけるローマンさん。
どこに秘密があるんだとばかりにチェックしはじめます。
「パンも、肉も、チーズもレベルは高い、が、到底わしらが負けているとは思えん! いや、だが、そうか……ソースか! なんなんだ、このソースは!? ありえん……美味すぎる!」
ええ、そうでしょう。そうでしょうとも。
美味しいに決まってます。
だって……そのソースは、あの、マクドナルドのビッグマックソースを元にしたものなのですから。
ビッグマックソース。
言わずとしれた、マクドナルドが誇るハンバーガー、ビッグマックに使われているソースでございます。
前世の私はこのソースが大好きで、なんとありがたいことにネットでレシピが公開されていたので、それを元に再現してみたことがあったのでした。
今回は、その経験が生きました。
その材料は、マヨネーズ、刻みピクルスにマスタード、玉ねぎやニンニクのパウダーなどなど。
と、名前を並べるのは簡単ですが、今回あらためてお出しするには、素晴らしいお肉などに負けないよう、このハンバーガー専用の調整が必要でございました。
こんな話があります。
さるバーガーチェーンが、テリヤキバーガーを出すにあたって、最高のテリヤキソースを開発したそうでございます。
ですが、これがなぜかあまり売れず。
なぜか、を突き詰めていくと……それは、ソースが美味しすぎて、肉やパンが負けていたのが理由だったそうな。
それ以後、そのバーガーチェーンはソースの濃さなどを調整し、全体のバランスを調え、無事テリヤキバーガーを人気商品に昇華させたとか。
そう、ソースとは、強すぎても駄目、弱すぎても駄目。
他の食材と溶け合い、取りまとめ、全ての美味しさを引き出すためのものなのでございます。
しかしそれは簡単なことではありません。
なので、今回私は他の作業を皆様に任せ、このソースとドリンクの開発に専念させていただいていたのでした。
「そうであろう。余も、そのソースは本当に素晴らしいものだと思う。ローマン、たしかにお主の料理のほうがレベルは高い。宮廷料理として相応しいだろう。だが、悪いがその点では、このハンバーガーが遥かに上を行っておる」
「ぐっ……ぐうっ……。馬鹿な、どうやってこれほどのソースをっ……」
悔しそうに呻くローマンさん。
そう、今回の勝負。
キモとなるのは、そこであろうと私は考えました。
試食したローマンさんの料理は素晴らしいものでしたが、ただ一点。
かかっているソースだけは、弱いと判断したからでございます。
人類は、はるか昔から食材を焼き続けてきたので、どの時代にも焼きの名人はいたことでしょう。
ですがソースとは、料理の歴史そのもの。
数多の料理人が色んな食材と出会い、時には交流し、時には争い、改良したレシピを伝え繋いでいくものなのでございます。
歴史とともに広まり、常に進化し続けるもの。それがソース。
ですが、この時代、他国のこともろくに伝わらないような時代においては、どうしても進化しきれないものなのでございましょう。
私は、そこに勝機を見出したのです。
そして、ローマンさんはちらりとこちらの方を見た後、うなだれて言ったのでした。
「……わしの、負けだ。負けを、認める……」
その瞬間、シェフの皆さんも、がっくりと肩を落とし。
本当に、勝敗は決したのでした。
向こうでは、メイド長も珍しく笑顔を浮かべ、執事さんも満足そうに笑ってらっしゃいます。
ああ、良かった……どうにか。
どうにか、皆様の期待に答えることが出来ました。
……と。ここで終われば、纏まりが良いのですが。
そこで、決着の空気を切り裂くようにして、おぼっちゃまが声をお上げになったのです。
「……ところで。もちろん、ハンバーガーはまだあるのであろう? コーラもだ。余はまだ満足しておらぬぞ、次を頼む!」
そうして、ハッと浮かれ気分から引き戻された私達は、「はい、ただいま!」とお返事して、わたわたと動き出したのでした。




