素敵なお昼のハンバーガーセット6
(ふう……。炭酸飲料が上手くいってよかったわ)
お二人が楽しそうに食事を続けるのを見ながら、ほっと一安心。
美味しく作るのにかなり苦心しましたが、どうやらコーラは大成功です。
いえ、成功してしまいました。
こうして私は、「お子様にコーラを教える」という、食の七つの大罪の一つを犯してしまったのでございます。
ちなみに、他の大罪には、「人の唐揚げに勝手にレモンをかける」や、「なんにでもミルクを注ぐ」などがあります。
いや、しかしお二人とも実に良き食べっぷり。
先程までの、貴人としての優雅なお食事とは大違いで、無心で楽しんでらっしゃいます。
ハンバーガーやポテトだけでなく、サイドメニューもきゃいきゃい言いながら楽しんでくださっているお二人。
そこにいるのは、笑顔で食事を楽しむ、前世で見慣れた少年少女なのでした。
(やっぱり、ハンバーガーにして正解だったわっ……!)
そもそも私がハンバーガーをお出ししようと思ったのは、前世のテレビの影響でした。
そこに映っていたのは、とある国に現代も残る、さる王室の王子様。
毎日高級店で食事ができる身分ですが、しかしなんと、彼の一番好きな食べ物はハンバーガーだというのです。
もちろんそれは、チェーン店ではなくお高い専門店のものでしょう。
ですが、それはハンバーガーというものが、それほどお子様の味覚にマッチしている食べ物だということの証明なのです。
私には、高級なフレンチなんて作れません。
料亭の芸術的な和食も、豪勢な中華料理も、私には作れません。
でも……かつて、私を幸せにしてくれた料理なら作れるのです。
家族と一緒に行ったハンバーガー屋での、素晴らしくも楽しいあの時間。
それを、お二人にも味わっていただけたなら。
それはなにより最高のことでしょう。
そして。
やがて、お二人がハンバーガーセットをぺろりと平らげた後。
緊張した面持ちで、ジャクリーンがデザートを運んだのでした。
「こっ……こちら、デザートにございます!」
並べられたそれを見て、おぼっちゃまは少し驚き顔。
グラスに入ったそのデザートを見ながら、不思議そうに「これはドリンクではないのか?」とおっしゃったので、私はこうお答えしたのでした。
「おぼっちゃま。こちら、いちごシェイクというデザートにございます!」
いちごシェイク。説明するまでもないですよね。
ストロベリーソースとアイスなどを組み合わせたもので、冷たくて胃がすっとする、ハンバーガーショップの素敵なメニュー。
デザートなのか、ドリンクなのかという議論はあるでしょうが、私的には最後にこれを食べるのが最高のシメなのでした。
それに、このシェイクはジャクリーン班の特別製。
上にクリームと、シャリシャリに凍らせたいちごのかけら、そして飴細工の飾りがついた芸術的な一品。
お嬢様はそれを見て、「綺麗……」と、うっとりとした声でつぶやいたのでした。
「シェイク……シェイクか。また奇妙な名をつけるな。どれ」
いっぽう飾りに興味がないおぼっちゃまは、スプーンでとっとと飾りをよけ、シェイクをパクリ。
すると……予想通り、ゆるゆると、そのお顔が緩んでいったのでした。
「これは……余の大好きなアイスと、ドリンクの間の子か! 素晴らしいぞ、なんとも恐ろしいことを考えるものだ!」
そのまま、スプーンとストローを巧みに使って、嬉しそうにシェイクを食べすすめるおぼっちゃま。
一方のお嬢様もひとしきり見て楽しんだ後、それはもう嬉しそうにシェイクを楽しんでくださったのでした。
こうして、こちらの用意したものは一通り出し終えました。
そして満足そうなお二人に、ローマンさんが愛想笑いを浮かべながら問いかけます。
「ど、どうでございましたか、ウィリアム様、アシュリー様。本日のランチは、どちらがお気に召しましたか……?」
恐る恐る尋ねながらも、その顔には「そうは言っても、わしらのほうが美味しかったでしょう?」って書いてあります。
しかし、おぼっちゃまはそこで考えるようなそぶりをした後、ぱっと笑顔を浮かべ、こうはっきりとおっしゃったのでございます。
「うむ、そうだな。今日、この一食でどちらだと聞かれるのならば……すまぬが、余は、メイドたちのほうが美味しかった!」
「っ……!!」




