素敵なお昼のハンバーガーセット5
もう何度目かわからない驚きの声を漏らすローマンさんをよそに、取り憑かれたようにストローに吸い付くおぼっちゃま。
そしてまたたく間にコーラを飲み干すと、私の方を見て「おかわり!」と言ったのでした。
「はい、ただいま!」
そう答えて次のコーラが入ったグラスを置くと、すぐに口をつけるおぼっちゃま。
「ううむ、しゅわしゅわとして、喉が気持ちよく、甘くていくらでも飲みたくなる……! これは素晴らしい、素晴らしいぞ、シャーリィ!」
大絶賛。大絶賛でございます!
おぼっちゃまは氷の入ったコーラをカラカラと鳴らしながら、本当に嬉しそう。
そして続いてハンバーガーにかぶりつき、ポテトを頬張り、そしてコーラ。
更にハンバーガー、ポテト、コーラ。
どうやら、おぼっちゃまは早くもこの至福のトライアングルを自分のものにしたようでございます。
「なるほど。味の強いハンバーガーと、油っぽいポテトのあとにこれを飲むと、実に具合が良い。そのためのドリンクというわけか。本当に、不思議な味わいでくせになる。シャーリィ、コーラのこの味はどうやって作っておる?」
「はい、おぼっちゃま。コーラは、何種類ものスパイスと柑橘類を煮詰めて作ってございます!」
そう、コーラとはカルダモンやシナモンなどのスパイスと、レモンやしょうがなどを砂糖と煮込み、できたコーラシロップを炭酸水で割ったものでございます。
爽やかなのはなにも炭酸のおかげだけでなく、それらの効果も大きいのでした。
また、最初はちょっと不安だった金属製のストローですが、試してみたところ飲みにくいなんてことは全然なく。
むしろグラスの冷たさが伝わってきて、すごく良いものなのでございます。
さすがアントン様、良い仕事をしてくださいます。
ええ、まあ。私も、こっそり自分の分をいただきました。はい。
「ね、ねえメイド……私の分は?」
最初は嫌そうだったお嬢様が、コーラを羨ましそうにしながらおっしゃるので、私は「はい、ただいま!」とグラスをお出しします。
「……またウィリアム様のものと、違うのね」
「はい、お嬢様はブドウのジュースが好きだとお聞きしたので、そちらで作らせていただきました!」
するとそれを見たお嬢様がおっしゃるので、そう説明を。
お嬢様にコーラはちょっときつすぎるかな、と思ったので、別のものを用意しておいたのです。
ブドウで作ったジュースに蜂蜜などを加え、炭酸水で割ったジュース。
そう、それはまさにあれ……ファンタグレープなのでございます!
お子様大好き、ファンタグレープ!
お嬢様は「そ、そう、気が利くわね」なんて言って、可愛いお口でストローをちゅうっと吸い。
そして、一瞬驚いたものの、そのままグラスの半分ぐらいまでを一気に飲んでしまったのでした。
「わっ……悪くないわね! ふ、ふうん、こんな感じなんだ!」
お嬢様はグラスを大事そうに抱え、しげしげと見つめています。
ファンタグレープのその色合いも気に入ったのでしょう、ストローでカラカラと氷を回しながら嬉しそう。
ですが、ここからが重要です。
私は何食わぬ顔でお嬢様の側に控え、その時を待ちました。
やがて、嬉しそうなお嬢様が「うっ」と声を漏らし、瞬間。
私は手にしていたナプキンをさっとお嬢様の口元に添え、声を上げたのでございました。
「お嬢様、お口元を失礼いたします!」
そのまま、お嬢様の口元をふきふきする私。
それは、ある現象を誰にも悟られないためでした。
そう……炭酸飲料を飲むと、出ますよね。
げぷっ、てあれが。
それは宿命でありましたが、お嬢様のそれをおぼっちゃまに聞かせるわけにはいきません。
恋する乙女にそんな恥をかかせるなんて、あってはならないこと。
初めて飲んだのなら、それが出るなんてわかりませんし。
ですので、私が食い止めねばなりません。
口元を覆い、私の声で誰にも聞かせない作戦でしたが、どうやらうまくいきました。
すると私の意図に気づいたのか、お嬢様は赤い顔でこちらを向いて「あ、ありがと……」と小さく呟きます。
それに私は「とんでもございません」と答えて、続いてシュバッとおぼっちゃまの口元を拭ったのでした。




