素敵なお昼のハンバーガーセット4
「……コー……ラ……?」
グラスに注がれた、氷を避けるようにブクブクと泡をたてている、黒いコーラ。
それを見て、おぼっちゃまが不思議そうにその名を呼びます。
その目には好奇心が光っていましたが、しかし隣に座るお嬢様は完全にドン引きし、そして悲鳴のような声を上げたのでした。
「なっ、なによこれ! 真っ暗で、なにかブクブク上がってきていて、シュワシュワと変な音もして! まるで、魔女の毒薬じゃない!」
魔女の毒薬。
なるほど、そう思うのも無理ないかもしれません。
何も知らないで、老いた魔女がコーラの入った鍋をグルグル回してるのを見たら、ヒエッてなりますもんねきっと。
この誤解は解かねばなりません。
コーラに怪しきものなしとメイド長が確認済みですが、たこ焼きの一件のこともあります。
この世にまだないものを出す時には、細心の注意が必要だということは学習済み。
説明大事に!と自分に言い聞かせながら、私は話し始めました。
「毒などではありませんわ! こちらの飲み物は、炭酸水を使用した、炭酸飲料でございます!」
炭酸水。その名の通り、炭酸ガスを含む水のことでございます。
炭酸飲料はそれに味付けなどを行ったもので、飲むとしゅわしゅわ、お口を爽快にしてくれる大人気商品。
そんな炭酸飲料を大量生産するにあたっては、人工的に炭酸ガスを入れたりしているらしいのですが。
私はその方法に詳しくなく、自分で作るのは難しいことでした。
ですが、問題ありません。
なぜならば、炭酸水は自然界にも存在しているものだからなのです。
なんと、炭酸泉と呼ばれる場所では、ブクブクと天然の炭酸水が湧き出してくるというではないですか!
日本でも、珍しいですが、炭酸の含まれた水や温泉が湧き出す場所があるのだとか。
そして、それに味付けしたものを炭酸泉サイダーとして売っていたそうにございます。
そんな炭酸水が、エルドリアの領土内にある山麓で湧いていることを知った私は、いつか手に入れたいと切望していて、今回晴れてメイド長に仕入れる費用を出してもらったのでした。
とはいえ、炭酸水をそのまま汲んで運んでも、途中で気抜けしてしまうことでしょう。
なので、私は今回、塔の魔女ジョシュアにお願いして、密封する容器を作ってもらったのでした。
「炭酸水……? ああ……そういえば、聞いたことがあるわ。一部の地方の者はぶくぶく泡の出る地下水を飲んだりするって。でも、なんで真っ黒なわけ……?」
と、一度は理解を示しつつも、コーラの黒さに不安が隠せなさそうなお嬢様。
ですが、そんな流れをおぼっちゃまが遮りました。
「まあ、そのあたりはよいではないか。シャーリィの出すものが変わっておるのはいつものこと。とにかく、これは美味しいのであろう?」
「はい、間違いなく」
ただ事実だけを答える私。
そこから私の自信を読み取ったらしきおぼっちゃまは、ニヤリと笑うと、コーラに手を伸ばします。
ですが、そこでグラスに、金属製の丸くて長い筒がついていることに気づかれました。
「……なんだ、この奇妙なものは? シャーリィ」
「はい、おぼっちゃま。そちらはストローにございます!」
ストロー。
そう、ハンバーガーセットのコーラには、ストローがついていなくてはいけません。
ですが、プラスチックや紙のストローはさすがに用意できません。
なので、今回私は鍛冶師のアントン様にお願いして、金属のストローを作ってもらったのでした。
前世の世界におけるストローの歴史は古く、昔は金属製のストローを使って、沈殿物を避け、酒の上澄みだけを飲んでいたのだとかなんとか。
遺跡から、それが発掘されることもあったそうです。
ですが、このエルドリアでは濾過技術がしっかりしているためかそれは使われておらず、存在すら知られていなかったようでございます。
「ストローに口をつけて、すーっと吸うと飲料が上がってきて、美味しく飲めますわ。私のおすすめでございます!」
「どれどれ……」
私がストローの使い方をレクチャーすると、おぼっちゃまは興味深げに口をつけ、すっと吸い上げました。
「ふ、ふん、馬鹿め。あんな不気味な飲み物、美味しいわけがない……」
引きつった顔で呟くローマンさん。
ですがおぼっちゃまは、しばらくコーラを味わった後、目を見張り、そして信じられないといった様子で呟いたのでした。
「……なんだこれは。馬鹿な。余は、こんな美味しい飲み物、飲んだことがない……!」
「んなっ!?」




