表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍・漫画化しました!】異世界メイドの三ツ星グルメ ~現代ごはん作ったら王宮で大バズリしました~【旧題・美食おぼっちゃまの転生メイド】  作者: モリタ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/278

素敵なお昼のハンバーガーセット3

「はい、なんでございましょうお嬢様」


 なにか手違いがあったかしら、と慌ててお側にいくと、お嬢様は自分のハンバーガーを手にしたまま、困った顔をして言ったのでした。


「こ、これ、私の分。ウィリアム様のものと違うのだけど、なにか手違いではないの?」


 たしかにお嬢様が手にしているハンバーガーは、おぼっちゃまとは違う種類でした。

ですが、それはわざとしたこと。私はにっこり笑ってこう答えたのです。


「お嬢様。お嬢様は野菜が好きだとお聞きしたので、それらも挟ませていただきました」


 そう、お嬢様のハンバーガーとおぼっちゃまの物との違いは、野菜のあるなし。

おぼっちゃまの分は抜きましたが、私的にハンバーガーは野菜がしっかり入ってるほうが好みなのでした。


 なのでお嬢様の分には、これでもかとそれらを盛らせていただいたのです。

その内容は、厚切りトマトにシャキシャキレタス、そしてたっぷりの刻みタマネギ。


 それらが真っ赤なミートソースやチーズと絡まり、断面からのぞく風景は、中々に暴力的。

そう、こちらのバーガーは、かのモスバーガーを参考にして作ったものなのでした。


「ああ、そういうこと。……ふ、ふん。じゃあ、一口だけ……」


 そう言って、そっと大きなハンバーガーにかぶりつくお嬢様。

もしかしたらトマトに抵抗があるかな、と思いましたが、大丈夫だったようです。

そして、じっくりと噛み締めた途端……その瞳が、キラキラと光を灯しました。


「っ…………! ん~~っ……!」


 口の中が幸せでたまらない、とばかりに声を上げるお嬢様。

あられもなく椅子の上でバタバタするその姿は、完全に、大好きな物を初めて食べた子供の姿でございました。


 まあそれはそうでしょう。

野菜好きのお子様が、このハンバーガーを食べたらそうなりますとも。


「なにこれ、おいっしい!! パンもお肉も美味しいし、野菜がそれにすっごくあってるわ! この赤い野菜、大好きっ! ほのかに何かが酸味を出してるのもいいし、それに、このソース、滅茶苦茶美味しいわ!」


 たっぷり余韻を味わった後、大絶賛してくださるお嬢様。

やったぜ、と思わず手を握りしめてしまいますが。

そこで、ローマンさんが呆気にとられた様子で見ているのに気づいたお嬢様が、ハッと正気を取り戻しました。


「っ……。まっ、まあ、あくまで、あっくまで、まあまあだけどもねっ! ふ、ふん。で、途中でお芋をいただくのがマナーだったかしら?」


 そう言ってポテトに手を伸ばしたお嬢様は、一口食べるなり、また目をキラッキラに輝かせたのでございました。

ああ、わかりやすい。


 ですが、そこでふと。おぼっちゃまがお嬢様の方を見ていることに気づきます。

どうなさいましたか、と私が尋ねると、おぼっちゃまは少し困った顔でおっしゃいました。


「シャーリィ。あの、野菜を挟んであるハンバーガーはそんなに美味しいのか」


 ……ああ、なるほど。

そりゃ気になりますよね。

だって、お嬢様の分はおぼっちゃまの分とだいぶ違いますもの。


 食いしん坊なら、当然気になります。

私だって、前世でレストランに行った時は、隣の人の食べているものが気になって仕方なかったですもの。


「はい、お野菜とのバランスも考えて調整してございますわ。……試してご覧になりますか?」

「……」

 

 ものの試しに聞いてみると、おぼっちゃまはしばしお悩みになられました。

ですがやがてふるふると首をふると、こうおっしゃったのです。


「いいや、今はいらぬ。余には余の分がある。野菜はいつかでよい」


 そう言って、自分のハンバーガーに戻っていくおぼっちゃま。あら、残念。

でも、お野菜に興味が出てきたのは良いことです。


 いつか、そのままの野菜を挟んだハンバーガーを楽しんでいただけたらいいな。

なんてことを考えていると、そこで、おぼっちゃまがテーブルを見回し、こんなことをおっしゃったのです。


「……おや、飲み物が見当たらぬな。シャーリィよ、お主、これに合わせた飲み物は用意しておらぬのか?」

「っ……」


 その言葉を聞いた瞬間、私は、自分の心臓がドクンと跳ねるのを感じました。

ああ……ですよね。ハンバーガーとポテトを食べていると、喉が渇きますよね。

もちろん……もちろんご用意してありますとも。


 ですが、それを出すのにはかなりの勇気がいりました。

部屋の隅で控えているメイド長に、すっと視線を送ります。

すると、メイド長はこっくりとうなずいて、私にGOサインを出したのでした。


「……はい、おぼっちゃま、もちろん最高のものをご用意しております! 今、お持ちしますね……!」


 やや上ずった声で答え、飲み物の入ったグラスをトレイに載せる私。

ああ……ついに、この時が来てしまった。


 罪を犯す、この時が。


 これを出すことは、本当はいけないこと。

そうわかっていても、出さずにはいられません。


 だって、ハンバーガーセットにはこれが必要だから……ううん、それは言い訳でしょう。

ハンバーガーは、今できる最高のものを用意できたと自負しています。


 ですが……それだけで、本当にシェフの料理に対抗できるかはわかりません。

だから。


(勝ちたいっ……! 私は、どんな手を使ってでも……!)


 勝つために、全てをなげうちます。

皆と、笑っておやつタイムを続けるために。


 そのために、私は──黒い悪魔と、契約したのでした。


「おぼっちゃま、お待たせしました!」


 そう言って、私はおぼっちゃまの目の前に、黒くて、しゅわしゅわと音を立てる奇妙な飲み物が入ったグラスを置き。

そして、その名を告げたのでございます。


「こちら、コーラにございます……!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ