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【書籍・漫画化しました!】異世界メイドの三ツ星グルメ ~現代ごはん作ったら王宮で大バズリしました~【旧題・美食おぼっちゃまの転生メイド】  作者: モリタ


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ランチタイム・ウォー9

 ミアさん……。なんて……なんて、良い人なんでしょう!

きっと私たちに気を使って、手を回してくださったのでしょう。

手伝えない代わりに、せめても、と。


「ありがとうございます……ありがとうございます!」


 トレイを掲げるようにして、出来得る限り頭を下げます。

本当に、本当に頭が上がりません。ミアさんにも、この方にも。


 すると、執事さんは少し困ったような顔をしていましたが、おほん、と咳払いを一つして、こんなことをおっしゃいました。


「私のような立場の者が、このようなことを言うのは良くないこと。それゆえ、他言無用に願いたいのですが……」


 そして、彼は口に手を当てて、ヒソヒソ声で続けたのです。


「君がおやつを出すようになってから、おぼっちゃまは毎日とてもご機嫌だ。あの方がお生まれになった時から仕えている私が言うのだから、間違いない。どうか、勝負に勝って、これからもおぼっちゃまを笑顔にしてあげてください」


 そして、チャーミングなウィンク一つ。

ああ……この人、すごく良い人だ。

こんな良い人が、毎日おぼっちゃまについてくださっているなんて、なんだか私まで嬉しくなってしまいます。


 だから私は、「はい! おまかせください!」と元気にお答えしたのでした。

そして、去っていく執事さんを頭を下げたまま見送って、やがてその姿が廊下の向こうに見えなくなった、その瞬間。


 私は、ばっと扉を閉めて、トレイを抱えテーブルに一直線。

わたわたと皿を一面に並べ、もう一度、その凄すぎる料理たちを見下ろしたのでした。


「凄いっ……凄い、凄い!」


 それは、まさに一皿の芸術。

器の上に考え抜かれて配置された、色とりどりの料理たち。

前世の世界のフランス料理のように、見た目まで配慮された見事な品に、よだれが止まりません。


「あああっ、そういえば前世では、滅多にフランス料理のお店になんていけなかったのよねええっ……!」


 思い出して、歯噛みしてしまいます。

私は、庶民的な料理も、お高い料理も大好きです。

ですが前世ではさほど生活が豊かでなかったせいで、美食巡りとは中々いかなかったのでした。


 あのお店に行きたかった、このお店も行きたかった。

そんな無念が胸いっぱい。ですが、今はそれは横に置いていきましょう。

だって、今、目の前に華麗なる宮廷料理が並んでいるんですもの!


「ああっ、もう我慢できない! いただきまーす!」


 目的も忘れて、私は椅子に座り、満面の笑みでナイフとフォークを手にします。

どうせ試食でお腹いっぱいになるから、とお昼を抜いていたのが功を奏しました。


 まずは当然、肉でしょう!と、焼き加減を見ただけでご飯が進みそうなお肉にナイフを通します。

すると、すっ、と刃が沈んでゆき、中になるほど赤みが残った見事な断面が姿を表しました。


 ふわあああっ、となりながらもフォークを突き刺し、お肉を口へと。

すると、噛んだ瞬間肉の旨味が大爆発して、私の口内を暴れまわったのでした。


「……うんまあああああい!!」


 美味しい。美味しい!

つい、あられもない声をあげてしまうほどです。

おそらくオーブンでじっくりと焼いて、旨味を閉じ込めたのであろうそれは、本当に最高の焼き加減なのです!


 外のカリッとした焼き目の触感と、中の赤い部分が抱きかかえた美味しい肉汁が互いを高め合い、私の脳天を突き抜けどこまでも駆け上がってゆく。

ああっ、すごいっ……凄い! 美味しすぎる!


「ほっ、他のもっ……他のも食べないと!」


 わたわたと慌てながら、他のお皿にも手を付ける私。

テーブルマナー的には完全アウトでしょうが、それどころではありません。


 こんな豪華な食事を楽しめるという事態に夢中で、誰かに取られてなるものか、と必死に抱え込む私。

誰かが取るわけもないでしょうに。


「凄い、凄いわっ……どれもこれも、焼き加減が絶妙! これが、一流シェフの技……!」


 ひとしきり口にして、感動してしまいます。

本当に、肉でもエビでも焼き加減が素晴らしく、どれもこれも食材の味が引き出されているのでした。


 なるほど、ローマンシェフは焼きの名人のご様子。

そもそも人類とは、ずっとずっと食材を焼き続けてきた生き物。

焼きに関しては、どの時代にも名人と呼べる人がいたでしょうし、おそらくローマンさんもその一人なのでしょう。


 そして食後に残るのは、溢れんばかりの幸福感。

ですが、同時に絶望感も感じてしまいます。

これが、私の対戦相手。

こんな本格的な腕を持つシェフと、勝負しなくちゃいけないんだ……。


 なるほど自信があるわけだ、と唸ってしまいますが、しかしそこで私はあることに気づいたのでした。


「あれ……これ、もしかして」


 ナイフとフォークを置き、お皿にそっと指で触れる私。

そして、その指を(お下品なのは自覚しつつも)ぺろりと舐めて……そして、私はこう呟いたのでした。


「……これ……。もしかしたら──勝てる、かも」

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