ランチタイム・ウォー1
「ふんふんふーん♪」
なんて、鼻息混じりに王宮の正門近くで立っているのは、もちろん私、シャーリィ。
今日はとっても楽しみにしていた荷物が届く日で、私は待ちきれずここで待っているのでした。
「まだかなー……まだかなー……」
少し背伸びなんかしたりして、じっとその時を待ちます。
すると、やがて荷馬車がやってきて、私はたまらず小走りで駆け寄ってしまいました。
「わー、こっち、こっちです! シャーリィ・アルブレラ宛ての荷物ならこっちです!」
両手をブンブン振って、存在をアピールする私。
あれは間違いなく、お父様の商会の馬車です。
するとこちらに気づいた馬車が、目の前で止まってくれたのですが……その御者台に乗っているのが誰か気づいた途端、私は思わず声を上げてしまいました。
「げっ……」
なにしろそこにいたのは、私がよく知っている奴だったのです。
そいつはこちらを見て、ニヤニヤと笑みを浮かべながら御者台から跳び下り、キザなポーズをとりながらこんなことを言ったのでした。
「やあ、シャーリィ。必死にアピールして、そんなに僕に逢いたかったのかい。しょうがない子猫ちゃんだ」
「ひえっ……」
全身をサブイボが駆け上がってきて、身震いしてしまいます。
言うに事欠いて、子猫ちゃんときましたか。子猫ちゃんて。
相変わらず、言葉のセンスが酷い!
そこにいたのは、変なデザインの服を身にまとい、いかにもナルシストでございといった笑みを顔面に貼り付けた、私の一番苦手な相手。
幼馴染みの、アルフレッドだったのでございます。
「なんで、あんたがこんなところにいるのよ……。その馬車、お父様のものよね? なんであんたが乗ってくるの」
「おや、知らなかったのかい。僕は今、君の父上、アラン親方のところで働いてるんだよ。ちょっと、この国一番の商人にでもなろうかと思ってね」
「なんで? あんた、世界一の吟遊詩人になるとか馬鹿なこと言ってなかった?」
「それはもう過去のことさ。いや、実はいつまでたっても楽器が演奏できるようにならなくてね。そしたら、僕の才能をアラン親方が欲しがってるって両親が言うもんだから、特別に働いてあげることにしたの、さっ」
なんて、似合ってない長髪をふぁさああっとなびかせながら、馬鹿なことを言う馬鹿なアルフレッド。
……なるほど。親のスネをかじり倒して一向に働かないバカ息子を、うちのお父様に押し付けたということですか。
いい性格してます、あそこの親も。
しかし、それを受け入れるなんて、お父様も本当に人のいい……。
どう考えても、アルフレッドが商人に向いているとは思えません。
「まっ、僕ほどのイケメンなら本来は労働する必要なんてないんだけどね! 美しさに財力が加われば、無敵ってものだろうし。ふふっ……あちこちの淑女が、僕の商品を欲しい欲しいって詰めかける様が目に浮かぶようだよ!」
「……」
始まった。始まりました。アルフレッドの、勘違い劇場が。
アルフレッドは、昔は純朴な少年だったのです。
ですが、思春期を迎えるとともに脳に重大な欠陥を発生させ、なぜか自分を絶世のイケメンだと思いこむようになってしまったのです。
その結果、世界中の女性はみんな自分のことを好きだという妄想に取りつかれてしまい、あちらこちらでこのような勘違いを炸裂。
すっかり、周囲から可哀想な子として認知されるようになってしまったのでした。
ちなみに、実際の容姿は……うん。ええ、まあ……うん。
普通、ですかね。はい。普通。
いや、普通よりちょっと下……?
どうでしょう。あんまり興味がないので、よくわかりません。
はあ、それにしてもなにがいけなかったのでしょう。
殴られた仕返しとして、こいつを二階の窓から蹴り落としたことでしょうか。
それとも、スカートをめくってきたので、高い橋から水面へと投げ落としたことでしょうか。
こいつはとにかく子供の頃から私に絡んできて、私はそれが嫌で嫌で仕方なかったので、激しくやり返していたのでした。
まあ、こいつのスープレックスのせいで(おかげで)前世の記憶を取り戻せたことには、感謝せざるを得ませんが……こいつ自身が私の敵であることには、変わりありません。
ああ、王宮に来てやっと縁が切れたと思ったのに、まさか再会する羽目になるとは。
なんてため息をついていると、そこでアルフレッドがにやにやと気持ち悪い笑みでこちらを見ているのに気づきました。
「なによ」
「いやあ、なんていうか……。ふふ。そのメイド衣装、なかなかに似合ってるじゃないか。相変わらず綺麗だよ、シャーリィ。いやあ、それにしても、僕のためにメイドになるなんて。君って奴は、本当に一途だなあ」
「……はい?」
また、何を言ってるんでしょうこいつは。
相変わらず、何を考えているのか心の底から理解できません。
私が? こいつのために? メイドに?
どうしてそういう話になるんでしょうか。




