まあるく美味しい熱々粉もの6
「これは、たまらぬ。もっと食べねば気がすまぬ。シャーリィ、次を持て!」
「はいっ、ただいま!」
呆然と見ている周囲をよそに、慌てて次の皿をお出しする私。
この機を逃してはなりません。
そもそも、あれこれ話しているうちにたこ焼きはやや冷めてしまっていました。
たこやきは、口に入れても熱すぎない程度の暖かさが一番美味しい。
どんどん出して、美味しい状態で食べてもらわねば!
それに、たこ焼きは焼くのに時間がかかります。
どんどん焼いて次を出して、どんどん、食べ、て……。
そこまで考えたところで、はた、と私は手を止めてしまいました。
そう、たこ焼きは回転が悪いのでどんどん焼かなくてはいけません。
ですが、私はずっとここにいます。
そして、もう一人、どんどん焼く担当のアンは、その……。
恐ろしく思いつつも、そっと後ろを振り返る私。
すると……そこには、まだタコを掴んだまま呆然と立っているアンの姿が。
そう、事態に翻弄された彼女は、放心状態のまま動けずにいたのでした。
そして、私が見ているのに気づくと、彼女は青い顔をしてブンブンと首を振ります。
そして、その前には、からっぽのたこ焼き器が……。
(……しまったああああああああ!)
まずい。まずいです。次がっ……次が、焼けていない!
たこ焼きの第一陣は果敢におぼっちゃまに挑んでいますが、圧倒的食欲を持つおぼっちゃまに敵うわけもなく、もはや全滅寸前。
「うむ、美味い! 次を持て、シャーリィ!」
訂正します。いま全滅しました。
たこ焼き将軍も、たこ焼き足軽も全員討ち死にしました。立派な最期でした。
(まずいっ……せっかく盛り返したのに、これではおぼっちゃまにご満足していただけない!)
目がぐるぐる回って、意識が飛びそうになります。
そんな、そんなっ……ここまで頑張ってきたのに!
今日という晴れ舞台のために、たこ焼きの生地も、ウスターソースも、カツオブシも青のりもずっとずっと頑張って作ってきたのに!
「……どうした、シャーリィ? 次がないのか?」
「えっ、えっとっ……そ、それはっ……!」
アンは慌てて焼き始めていますが、今から間に合うわけがありません。
焼き上がるまで十分はかかる。
おぼっちゃまをそんなに待たせられるわけがありません。
手を……手を、打たないと。
何か、時間を稼がないと。
考えろ、考えるのですシャーリィ。
なにかあるはず。この場を乗り切る、良い手を……!
(っ……そうだわ! この手があった!)
その時、追い込まれた私の”とてもかしこいおつむ”に電撃が走り、神の一手を生み出したのでした。
こうなったら、やるしかない。
私は精一杯の笑顔をおぼっちゃまに向けると、成層圏から飛び降りる覚悟でこう言ったのでした。
「……おぼっちゃま! ここからは、趣向を変えてお楽しみいただきたく思います!」
「ほう? 変える、とはどのように変えるのだ?」
「はい、実はこのたこ焼き、自分の好みで作ると、格段に、それはもう格段に美味しくなるのでございます! 私と一緒に、試してみてはくださいませんか、おぼっちゃま!」
「……シャーリィ! おまえ、何を言って……」
たまらずメイド長が口を挟んできますが、もう後には引けません。
私は聞こえないふりでたこ焼き器の元まで戻ると、むんずとその一つを持ち上げ、おぼっちゃまの前にそっと置いてこう言ったのでした。
「そう、どこかの国では、皆でたこ焼きを作るパーティがあるそうですわ。すなわち……たこパにございます!」




