まあるく美味しい熱々粉もの4
えっ、えっ。
なんで?
なんで、メイド長は急にそんなことを聞いてきたのでしょう。
今まで、私に好き勝手させてくれていたのに。
どうして、今日に限ってそんなことを?
えっ、これ、もしかしてやばいやつなのでは……?
「どっ、どうしてそんなことを……メイド長? いつも、そのようなこと、お聞きになられないのに」
どうにかごまかそうと、張り付いた笑顔で尋ねる私。
すると、メイド長は少し困った顔で言ったのでした。
「いえ、そういえば少し前に、おまえが買い出しに行くと外出許可を求めてきたのを思い出したものですから。特に今日のものは中がわからない奇妙すぎるおやつ。変なものを入れていないか、一応確認させてもらいます」
「…………」
どわっ、と汗が吹き出してきました。
ああ、この人はどうしてこういう時だけ勘がいいのでしょう!
いえ、もちろんたこ焼きに変なものなんて入れていません。
入れていませんが、その”変なものではない”という感想は、私のもの。
中に入っている”アイツ”を見て、メイド長がどういう感想を抱くかは別の話なのでございます。
すると、私が黙っているのを見てメイド長はますます不審そうな表情を浮かべ、そして後ろに控えているアンの方を向いて言ったのでした。
「アン、そこにさきほど放り込んでいた食材があるのでしょう。少し、見せてみなさい」
「えっ!? あっ、えっ、そのっ……!」
わたわたと手をばたつかせて、焦った様子のアン。
どうにかごまかそうとしていますが、メイド長に「早くしなさい」と威圧されると、ヒッと悲鳴をあげ、ついにはテーブルの下に隠していた食材に手を伸ばしたのでした。
「えっ、えと、そのぉ……。タコ、ヤキには……その……こちら、が、入っており、マス……」
言いつつ、そおおーっと食材を差し出すアン。
すると、それ……つまり、真っ赤に茹で上がったタコを見た瞬間。
メイドのみんなが、大きな悲鳴をあげたのでした。
「……きゃあああああああああーーーーーー!!!」
もちろんたこ焼きには、タコが入っているもの。
私は市場でタコを仕入れ、美味しく茹で上げたそれを、たこ焼きの中に入れていたのでした。
ですが、タコの、ぶるんぶるんした真っ赤な体。
そして、たくさんのつぶつぶがついた足を、くるんと巻き上げたその姿。
それは、メイドの皆にとってとてつもない不気味さだったようです。
「ひっ、ひいっ、何なのアレ!? 化け物!? 化け物なの!?」
「しっ、知ってるわ、私っ……。あれ、悪魔の魚よ! グニョグニョした体で、あの足で魚を捕まえて食べる海の化け物!」
「ウソでしょ、なんてものを王宮に持ち込むの! 信じられない!」
口々に最悪の評価を口にする皆様。
中には、放心状態でへたり込むお姉さままでいました。
そして、ダラダラ汗を流している私に、巌の如き表情のメイド長が言ったのでした。
「シャーリィ、あれはなんですか」
「…………わっ……私が、自分で仕入れてきました、タコ、という海の幸にございます……」
「……あれが、この丸い食べ物の中に入っている、と?」
「……は、はい……」
消え入るような声でそう答えると、メイド長はしばし考え込んだ後、すっと串を手にしました。
そして、おぼっちゃまに「失礼いたします」と断りを入れた後、たこ焼きを一つ割り開く。
すると……その中から、ゴロリとタコの足が姿を表したのでございました。
「ひいっ、本当に出てきた……!」
「きっ、気持ち悪い! 食べ物の中にあんなものを隠すなんて何を考えてるの!?」
「ついに本性を現わしたわねゲテモノ女! 私は、いつかやると思ってたわ!」
などと、メイドの皆がやいのやいの言いたい放題。
あちこちから攻撃されて、まるで火刑にかけられる魔女の気分です。
私はじっとうつむいて、耐えることしか出来ません。
ああ、しまった……どうやら私は、致命的な失敗してしまったようです。
ですが、一つだけ言いたい。
皆さんなんのかんの言ってますが、でも……でも……。
(でも……皆さん、イカは普通に食べますよねえ!?)
そう、この国の人はイカは食べるのです。
スープに入れたり、輪切りにしたものを焼いたりして。
そして、私は言いたい。
タコとイカって、ほとんど同じじゃないですか!?
なんで!? なんで、タコだけそんなに拒否反応を示すんですか!?
赤いから!? 頭がぐにゃぐにゃだから!?
でも、どっちもスミを吐くし、吸盤のついた足をたくさん持ってるじゃないですか!
ああ、理解できない……私には、到底理解できません!
などと私が胸中で弁明を叫んでいると、メイド長がすっとこちらを向き、恐ろしく冷たい声で言ったのでした。
「シャーリィ。お前は、このようなものを、黙っておぼっちゃまに食べさせるつもりだったのですか」
「えっ、あ、えと……。は、はい。で、でもっ……」
「言い訳はりません。聞いたことにだけ答えなさい」
「はい、すいません!」
メイド長の静かな迫力に押され、震え声で答える私。
まるで蛇に睨まれたカエルです。
まずい。まずい。メイド長、完全に怒ってる……!
良かれと思って出したたこ焼きで、よもやこれほどの窮地に追い込まれるとは……!
「お前が自分で仕入れに行きたいと言った時に気づくべきでした。おぼっちゃまにお出しするおやつを、なんと心得ているのか。おぼっちゃまにはふさわしい食材というものがあります。わかっているのですか」
「は、はい……」
「いいえ、お前はわかっていない。シャーリィ、宮廷で採れたトマトを使った、ケチャップの時とは意味が違うのですよ」
そう、メイド長は、ケチャップの時には私の好き勝手を見逃していてくれたのです。
ですがそれは、メイド長自身がトマトは危険でないと知っていて、さらにおぼっちゃまに野菜も食べてほしいと思っていたからなのでしょう。
ですが、今回私はそんなに嫌がられるとも思わずに、自分の都合でタコを仕入れてきて黙って出してしまった。
そこが、問題のようです。
「私は、随分とお前に好きにやらせてきました。それが、おぼっちゃまのためになると思っていたからです。ですが、どうやらそれは間違いだったようですね。おぼっちゃまのお腹を、庶民も毛嫌いするようなもので満たそうなどと……」
「待て、クレア」
ねちねちと私を責めるメイド長。
ですが、なおも続くメイド長の言葉を、そこでおぼっちゃまが遮りました。
そして、おぼっちゃまはたこ焼きとタコを交互に見つめて、少し困った表情でおっしゃったのです。
「うむ……まあ、確かに、不気味な魚……魚、か? あれは。まあよい、とにかくタコと申したか。奇妙かつ、普通は食べないものであることは余にもわかった。それで、シャーリィよ。問うが、お主はあれが不気味だとは思わぬのか?」
「え、えと……思い、ます。申し訳ありません、おぼっちゃま」
しゅんとして、頭を下げながら答える私。
私にとってタコは、もはやただただ美味しそうとしか思わない外見ですが、知らない人には不気味にしか見えないことは理解しています。
ましてや、相手は王子様。
出すものはそれこそよく考えなければいけなかったのです。
「ふむ。では、このような話になることもいくらかは予想していたであろう。しかも、どうもお主は直々にあれを買いに行ったとか。なぜだ、なぜそこまでして余に食べさせようとした?」
「え、えと。それは、その……」
「その、なんだ。いいから申せ」
じっとこちらを見つめる、おぼっちゃまの青くで深い瞳。
この瞳の前では、嘘はつけません。
ですので、私は意を決し、ただ事実のみをお伝えしたのでした。
「……美味しいから、でございます」




