まあるく美味しい熱々粉もの3
「……タコ、ヤキ……?」
ホカホカと湯気をたてている、見慣れない外見をしたそれを見つめながら、聞き慣れない名前を口にするおぼっちゃま。
まぁるく綺麗に出来上がったそれを、興味深そうに色んな角度から見ながら、おぼっちゃまが疑問を口になさいました。
「また、お主はなんとも奇妙な物を出してきたな、シャーリィ。これ、上で何かが動いているように見えるのだが、まさか生きておるわけではない、よな? なんなのだこれは」
そのお言葉には、少しばかりの恐怖が籠もっておりました。
そういえば、たこ焼きの上でゆらゆら揺れるそれを、海外の人は不気味がるなんて話を前世で耳にしたことがあるような。
なので、私は誤解を解くべくこう答えたのでございました。
「おぼっちゃま、そちらはカツオブシでございます! 非常に薄くスライスしておりますので、たこ焼きから立ち上る湯気に揺れているだけです。ご安心くださいませ!」
カツオブシ。
その名の通り、魚の一種であるカツオから作られた食品にございます。
そう、あまりに恋しかったので、私は自分で作っちゃったのでした。カツオブシを。
カツオブシの作り方は、至ってシンプル。
カツオの身をしっかり茹でた後に、燻製し、一日寝かせる。そしてさらに燻製してまた寝かせる、という工程を何日も何日も繰り返していくだけです。
そうするとカツオの身は中心までしっかりと乾燥し、カチカチのカツオブシへと変貌するのでした。
ですが、だけです、とは言いましたが、毎日毎日この工程を繰り返すのはかなりの手間暇。それに、処理の仕方が雑だと風味が悪かったり、傷んでしまったりと、これがなかなか楽ではありません。
さらに私の知識が半端だったせいで、その完成には長い年月を必要としたのでした。
ですが、苦労の甲斐あって、今や私は十分なまでに美味しいカツオブシを作れるようになっていたのです。
なお、カツオブシには種類があり、これは荒節と呼ばれる段階なんだとか。
最高級品は本枯れ節と言い、更にカビをつけて作るらしいのですが……私は、その製法を詳しく知りませんでした。
それに、専用の施設なども必要だとか聞いたような気がしますし、今生で再現するのはさすがに難しいかもしれません。残念ですが。
まあ、それは後世の誰かにおまかせするとしましょう。
私的に、そこまでしなくとも今のカツオブシで十分美味しいのでございます。
「カツオブシ……何で出来ておる?」
「元は魚でございます、おぼっちゃま」
「魚だと? これがか。なんとも……信じられぬ。とても魚には見えぬぞ」
カツオブシをしげしげと見ながら、驚いた声を上げるおぼっちゃま。
それはそうでございましょう。私も子供の時は、カツオブシが魚からできているなんて思いもしなかったのですから。
ちなみに、カツオブシを削るのには、またもやアントン様にお願いして作ってもらった削り器を使用しております。
ここぞとばかりにヘビーローテーションで仕事を頼みにいく私に、さすがの聖人アントン様も近頃は笑顔がひきつってきていたのですが、いつものお礼ですとお食事を作って持っていくと、いたく喜んでくださいました。
いやあ、僕は独身だから凄く助かります、独身だから!と、妙に独身を強調なさるアントン様は、私の作ったあれこれを美味しい美味しいと食べてくださったのでした。
まあ、お一人だと毎日の食事も手間でしょうしね。
ジョシュアに作るご飯のついでですし、大した手間でもありません。
「ふむ……かかっておるものも真っ黒で奇妙だし、どことなく緑色のものもかかっておるような。なんとも、表現し難い奇妙なおやつだ。だが……」
そして、クンクンと鼻を鳴らし、たこ焼きの匂いをたっぷりと嗅いでから、おぼっちゃまはおっしゃったのでした。
「なんとも、美味しそうな匂い……。我慢できぬ。シャーリィ、これはどうやって食べればよい?」
「はい、おぼっちゃま、お手元の串で刺してお食べください! ただし、中はまだお熱いのでお気をつけくださいね」
私がそう言うと、おぼっちゃまは私が用意した木の串を手に取り、わかったと言ってたこ焼きの一つを刺しました。
そしてそのまま、恐る恐る口元に運ぶおぼっちゃま。
中はまだ熱いとはいえ、話している間に時間もたちました。
気をつけて食べれば熱さに驚くということはないはずです。
私は、おぼっちゃまの反応をドキドキしながら待ちました。
……ですが。
ですが、おぼっちゃまのお口がたこ焼きを頬張ろうとしたその時。
メイド長が、急にこんなことを言い出したのでした。
「お待ち下さい、おぼっちゃま。……シャーリィ。一応確認しておきますが……その、タコヤキ、とやら。中には何が入っているのですか?」
えっ。




