まあるく美味しい熱々粉もの2
「これより、おぼっちゃまのおやつタイムを始めます」
「よろしくお願いします、おぼっちゃま!」
メイド長の号令がかかり、メイド一同が一斉にお辞儀し声を上げます。
もちろん私達五班も、どこにも負けないほど声を張り上げ、びしりと頭を下げますが、そこで皆様の視線がこちらを向いていることに気づきました。
そう、メイド長とおぼっちゃまは訝しげな、そしてメイドの皆は理解できないというような視線をこちらに向けているのでございます。
「……シャーリィ。お前はまた、そこでなにをしているのですか」
こいつまたなにか意味のわからないことを始めたな、と言いたげにメイド長が尋ねてきます。
なので、私は元気な声でお答えしたのでした。
「はい、メイド長! おぼっちゃまのおやつを焼いております!」
そう、私たちは今なお、おぼっちゃまのおやつを調理中。
テーブルの上にボコボコと丸い凹みのついた鉄板を置き、とある粉ものをじゅうじゅうと焼き上げているところなのでした。
「それはわかっています。なんで今作っているのかと聞いているのです。前も言いましたが、調理は先に済ませておくのが決まりでしょうに」
「はい、メイド長! それは重々承知しておりますが、このおやつはできたてが命なのです! 作り置きでは魅力を十分にお伝えできぬと考え、この手法を使わせていただいております!」
そう、このおやつはできたてホカホカでなくてはいけません。
時間をおくと、最高のパフォーマンスを発揮できないのです。
ですからどうかお許しください、と私が懇願すると、メイド長は伺いを立てるようにおぼっちゃまの方を向き直りました。
「余は、良いと思う」
すると、おぼっちゃまは可愛いお腹をクーと鳴らしながらそうおっしゃいました。
特注の鉄板で粉ものが焼き上がる匂いは、おぼっちゃまの胃袋をたいそう刺激しているようでございます。
よしよし、食べたことのない人でも、この匂いは美味しそうに思えるようで安心しました。
私は上機嫌で、手に持った千枚通しを使い、焼き上がっていく丸いものをクルンクルンと回しまくります。
さっきも言ったとおり、このおやつは、冷めてしまったら台無し。
ですが、たくさん召し上がるおぼっちゃまのために、量を出し続けなければいけません。
なので、第一陣を作りたてで出し、食べていただいているうちに、どんどん次を作って温かい状態で提供する作戦なのでした。
これがなかなか難しいですが、やるしかありません。
それに、このおやつのためにわざわざ自分で仕入れに行ったのです。
今回の私は、いつにもまして気合い十分。
かならずお坊ちゃまをこのおやつの虜にしてみせる。
大好きなものを、完璧な形でお伝えする意欲に私の心は燃え上がっているのでした。
「頑張りましょう、アン。おぼっちゃまが食べ始められたら、一気に忙しくなるわよ!」
隣で、私と同じようにくるくると回しながら調理しているアンに、そう声をかけます。
しかし彼女は、どことなく暗い表情で答えたのでした。
「え、ええ。そうね、シャーリィ」
「……? どうしたの、アン。調子でも悪いの?」
「う、ううん、そうじゃ、ないんだけど……」
心配して尋ねますが、アンは歯切れの悪い返事をします。
大丈夫かな、と思っていると、そこでアンは私の方を見つめ、不安そうな声で言ったのでした。
「ね、ねえシャーリィ。今日のおやつって……」
ですが、そこでメイド長の声がかかりました。
「五班。お出ししなさい」
「あっ、はい! ただいま! ……アン、話の続きは後でね!」
私達の出番が回ってきて、慌ててアンにそう言う私。
そして私はまーるく綺麗に焼き上がったそれを、いくつもお皿の上に載せ、特製の調味料をハケで塗りたくります。
更に上に茶色と緑のアレをふりかけ、完成!
私は上機嫌でおぼっちゃまの元へと駆け寄り、さっとそれをお出しして、満面の笑みでおやつの名前をお伝えしたのでした。
そう、もうおわかりですね?
茶色くて丸い、みんな大好きな粉ものといえば、そう。
「お待たせしましたおぼっちゃま! 今日のおやつは、たこ焼きにございます!」




