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【書籍・漫画化しました!】異世界メイドの三ツ星グルメ ~現代ごはん作ったら王宮で大バズリしました~【旧題・美食おぼっちゃまの転生メイド】  作者: モリタ


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塔の魔女とクラブハウス・サンドイッチ7

 驚きのあまり、私は思わず叫んでしまいました。

森の大魔女。何度も耳にした異名です。

いわく、森には長く生きる偉大な魔女がいると。


 ですが、その実態を聞くのは初めてのこと。

私は固唾を呑んで続きを待ちました。


「そんな彼女はふとボクの所にやってくると、こう言ったんだ。『あんた、特別な才能と縁を持ってるよ。大事にしな』ってね。そして、彼女はボクに一冊の本を手渡したんだ。ボクは好奇心のままにそれを開き、そしてまたたく間に魅了されてしまった。なにしろ、そこに書かれていたのは……とある発明家による、発明の資料だったんだからね」

「発明の、資料……?」


「そうさ。彼は、自分の生涯にわたって続けた研究の数々を本にして残したんだ。発明品の設計思想や挑戦の数々、失敗した部分や改良の歴史。空を飛ぶ機械や、海の底をゆく船」


「そして筆者である彼……ボルダリア卿は、それらを使ってどういう旅をするのかまで書き記していたのさ。曰く、空を飛んで神々の神殿に行き、海の底を通って人魚の国を旅行する」


「それはただの妄想だったが、ボクと違うのは、ボクにとってただの空想に過ぎなかったあれこれを、彼は現実にしようとしていたことさ!」


 瞳を輝かせ、ジョシュアは熱弁を振るい続けます。


「ボクが本に夢中になっているうちに、いつの間にか大魔女様はいなくなっていた。だけど、ボクはそれが天啓だと理解した。ボルダリア卿の夢は、結局叶わなかったらしい。ならボクがそれを引き継ごう、そして自分の夢を現実にしてみよう、とね」


「やがてボクは魔女の力に目覚め、作り上げた品を認められて王宮に上がり、思う存分に研究が行える環境を手に入れた。つまり、ボクの始まりは人から影響を受けてなのさ。研究は、ボクがボクの夢を叶えるための手段であって、目的そのものではない」


「だから、君からもたらされた話は、歓迎こそすれ嫌がる理由なんてボクにはない、とこういうわけさ。ボクは、ボクが得られる全てを使い、少しでもたくさんの夢を叶えてみせる。それが、ボクの生きる目的なのだから。……以上、ご清聴、痛み入る」


 すべてを語りきり、優雅に一礼をするジョシュア。

私はなんだか感動してしまい、思いっきり拍手をしてしまいました。


「凄い、よくわかったわジョシュア! 凄い、凄い!」

「やあやあ、どうもどうも。……ふう、久しぶりに好き放題喋ったから、疲れてしまったよ。やれやれ」


 満足げに言いつつ、椅子に座るジョシュア。

そして私がコップに注いだお茶を美味しそうに飲み、またサンドイッチに手を伸ばしてくれました。


「凄いお話だったわ……じゃあ、ここにある物はすべてその試作品なのね」

「そういうこと。まあもっとも、ほとんどが失敗作だけどね。これなんかは、ちょっとだけ浮いたんだけどなあ」


 部屋を埋め尽くす珍品を見回して私が言うと、ジョシュアは少し照れくさそうにそう答えました。

彼女の視線の先には、なにか大きな、ゴム製の風船のようなものが。


「もしかして、これの中に気体を入れて浮かせたの?」

「なんと、よくわかるな……いや、違うか。同じ発想のものが、君の前世の世界にあったんだな。なるほど、つまりボクの発想自体は間違ってなかったということか!」


 大きなゴム風船のようなものを持ち上げながら、私が驚いた顔で言うと、ジョシュアは嬉しそうに答えました。

なんと、自力で気球という発想を持っていたとは。

私なら、何のヒントもなしにこんなもの、絶対に思いつきません。


 ジョシュアの発想力と、この世界にもすでにゴムという素材が知られていることに、私は驚いてしまいました。


「最初は布で試したんだが、どうしても漏れるのを防げなくてね。王宮に珍品として上がってきたゴムを加工して試したんだ。……え、君の世界では布でやっていた? じゃあ材質を工夫して漏れないようにするのがベストなのか。それと、燃焼させて空気を暖める……この発想は全然なかったなあ! なるほど、なるほど!」


 私の話を聞きながら、心底嬉しそうにメモをとるジョシュア。

研究は手段に過ぎない、と言っていましたが、本当はそれだけではないのでしょう。

夢を叶えるために挑戦している行為。それ自体が、彼女にとって喜びなのではないでしょうか。


 そう、料理を食べるのが大好きな私が、料理をするのも大好きなように。

私に置き換えれば、美味しいものを作るためのレシピなら、自分で編み出そうが人から教えられようが大歓迎、と。きっと、そういうことなのでしょう。


 なんだか、それだけで私はジョシュアに親近感を覚えてしまい、彼女のことが大好きになってしまいました。

……なんて、微笑ましく考えていますと。ジョシュアはふと真剣な顔をして、こう尋ねてきたのでした。


「おっと、こうなんでもかんでも聞いていては、きりがないな。最優先に聞きたいのだが、知識のある君から見て、今ボクが図面を描いているこのヒコーキは、飛ぶと思うかい。無理だと思うなら、足りないものは何だと思う。教えてくれると助かる」

「そうね……ちょっと難しいかも。これ、高いところから飛び出して滑空するのを想定しているのよね? なら、骨組みが問題だと思う。金属で作ると、重すぎてなかなか飛ばないとか。それと、もう一つ……」


 すべて、テレビで見た番組の受け売りです。

番組の中で、湖に向かって飛んでいく手製の飛行機たち。

けどそれらに必ずついていたものが、この設計図にはついていなかったのです。


 そして、それは私にとっても、この世界に必要だと感じていたものでした。

だから私は、思わずニヤリと笑ってそれを伝えたのです。


「プロペラと、それを動かす動力ね。実は、それをつけるにあたって、まず作ったほうがいいものがあるんだけど──」




「ふんふーん♪」


 そして。そんなことがあってから、しばらく後のこと。

そこには、ジョシュアお手製の自転車にまたがって、鼻歌とともに城下町を颯爽とゆく私の姿が!

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