塔の魔女とクラブハウス・サンドイッチ4
「! やはり、君はこれを理解してるんだな!」
その瞬間の魔女様の顔は、本当に印象的でした。
なにかとびきりの宝物を見つけたような……いいえ、なにもない荒野で自分と同じ人間を見つけたときのような。
それは、そんな笑顔でした。
「なぜわかった? いや、待て、推理しよう。まず、推測1だ。君は、ボクと同じ機械を作る才能を持っている人である。自分でも想像したことがあるから、設計図だとわかった。だが、それならなぜそれを隠そうとしたのか? なぜメイドをしているのか。このあたりがやや解釈に苦しむかな」
そう口早に言いながら、魔女様はじっと私の顔を見つめます。
そしておそらく、こちらの表情からそれが正解でないと読み取り、続けました。
「では、推測2だ。ずばり──君は、見たことがあるんだ。ヒコーキ、とやらの完成品を。だから、これがそこに向かうためのものだと理解できた。どうだ?」
当たりです。
そう、まさに大当たり。私は、前世で飛行機を何度も見てきました。
だからいくつかの特徴で、これがその設計図だと理解できたのです。
私の表情が正解だと物語っていたのでしょう、魔女様はにかっと満足気に笑い、ですが次の瞬間には悔しそうな顔をなさいました。
「あー、そうか。他に、同じものを考えてすでに完成させていた人がいたか! 悔しいなあ、ボクが世界で最初に空を飛ぶはずだったのに! どこのどいつだい、ボクより先にこいつを完成させた天才は!」
違う。違うのです、魔女様。
心配しなくても、この世界で飛行機を作ろうとしている人間は、多分あなたが最初です。
だって……私が飛行機を見たのは、前世でのお話。
違う世界でのことなのですから。
「君、お願いがある。ボクは、是非その人とお会いしたい。そして、意見の交換なんかを行えたらすごく嬉しい。どうか、そのヒコーキを完成させた人をボクに紹介してくれないか。頼む!」
「え、えっと、それは……」
その言葉に、私は困ってしまいました。
だって、そんな人この世界にはいないのですから。
いえ、元の世界だったとしても紹介することは無理だったでしょう。だって、ライト兄弟はとっくの昔に亡くなっていたのです。
いえ、確かライト兄弟の前にも飛んだ方がいたのでしたっけ。
レオナルド・ダ・ヴィンチがそれっぽい設計図を描いていたとか、そういう話も聞いたような。
そういえば、この魔女様を見ているとどことなく「レオナルド・ダ・ヴィンチはこういう人だったのかも」なんて、思ったりしてしまいます。
性別の違いはありますが、ゲームではよく女にされていたようですし。大した問題ではないでしょう。
なんてなんて、現実逃避気味に私の脳内を大量の言葉が入り乱れる始末。
どう返事をするのが一番いいんだろう……また嘘を?
だけど、この人に嘘が通じるでしょうか。
それに、この方はただ真実を知りたがっているだけなのです。
そんな人に、私は嘘をつくべきなのでしょうか。
(……もう、真実を語ってしまおうかしら)
それは、一種の賭けでした。
私は前世の記憶があるのです、そしてそこは、空を飛ぶ巨大な飛行機や世界中を行き来する船など、ここより遥かに進んだテクノロジーを持つ世界だったのです!
……なんてことを話したら、魔女様はどう思うでしょう。
馬鹿にするな、と怒るでしょうか。
もしかしたら、そうかもしれません。
ですが、この人ならばそれを大事にはしないでしょう。
きっとその後は失望して、私のことは忘れて、自分の研究に戻るはず。
なら……言ってみよう。
もう、嘘をひねり出すのには疲れました。
真実を洗いざらい話して、それで、どう思うかは彼女に任せましょう。
「……わかりました。真実をお話しします。ただし、私の話はおそらく荒唐無稽なものに聞こえると思います。それでもかまいませんか?」
そう言うと、私の返事を辛抱強く待っていてくれた魔女様は、真面目な表情で頷きました。
「良いとも。ぜひ、聞かせてくれ。君の話を」
「わかりました。それでは──」
そうして、私は生まれて初めて……そう、二度目に生まれて初めて。
アンにも、アガタにも、そして両親にも黙ってきた自分の秘密を、人に打ち明けたのでした。




