塔の魔女とクラブハウス・サンドイッチ3
そして、クラブハウスサンドの他にも用意したサンドイッチ。
それらにも、魔女様は積極的に手を出してくださったのです。
「これも実に奇妙な味だ! ただの卵じゃないな。これ、卵と絡めてあるのはなんだい」
「マヨネーズです」
「マヨネーズ。またもや聞いたことのない名前だ。どうやって作っている?」
「卵に油とお酢などを混ぜて作ります。保存がきき、何にでも合う素晴らしいソースですわ」
「なるほど、ソース自体も卵でできているのか。卵は料理の基本らしいからな。しかしそれにしても、脳へとダイレクトに伝わってくるような美味しさだ。まずいな、これは中毒になりそうだよ!」
と、たまごサンドを頬張りながら絶賛してくださる魔女様。
お気持ちはよくわかります。私もコンビニのたまごサンドが大好きで、週に一回は食べないと気がすまなかったものです。
他にも、魔女様はツナサンドを頬張ってその中身の作り方を興味深げに訪ねてくださり、私は最初の塩対応とは比べ物にならないぐらい距離を詰めることに成功したのでした。
私のサンドイッチ作戦は大成功。
栄養価の高い食材とカロリーたっぷりのソースをたらふく食べさせ、十分に栄養不足を補ってもらえたことと思います。
ああ、良かった、と、そう、私は安心しました。
……そう。私は、そこで安心してしまったのです。
完全に、気を抜いてしまった。それがいけなかった。
それゆえ、私はふと視線を逸し、魔女様が一心不乱に何かを描いていたキャンパスを見てしまい、そして。
迂闊にも……あまり迂闊にも、こう、呟いてしまったのでした。
「わっ、すごい。飛行機の設計図だわ」
そう、そこに描かれていたのは、見まごうことなく飛行機の設計図だったのです。
二対の翼に、流線型のボディ、そして操縦席。
それは、確かに人が乗って空を飛ぶための装置でございました。
前世ぶりに見たそれに、思わず声を漏らしてしまった私。
しかし、もちろんそれはとんでもねえ失敗なのでございました。
なにしろ、私が”飛行機”と言った瞬間……魔女様が、ぎょっとした顔でこうおっしゃったのですから。
「ヒコーキ……? ヒコーキ、とはなんだ。君、これが何なのかわかるのか?」
──しまったーーーーーー!!
思わず心の中で絶叫を上げてしまいます。
やらかした……久しぶりにやらかしました。
この世界のただのメイドが、飛行機の設計図なんてわかるわけないのに!
しかも、こちらにその言葉がないので、日本語でヒコーキと言ってしまっている始末。
何たる大失態!
私は滝のように汗を流しながら、必死に弁明の言葉を絞り出します。
「いっ、いえ! わ、わかりません! 何も言ってません、私!」
「わからない? そんなわけないだろう。今君は、はっきりとヒコーキとやらの設計図だって呟いたじゃないか。ボクはたしかに聞いたぞ。わからない人間が、これはなにかの設計図だ、なんて言うもんか」
「い、いえ、私、設計図の概念は知っていましたので、つい適当なことをっ……」
「それはおかしい。そもそも、これが設計図だってわかる時点でおかしいんだからね。これは、ボクがとある夢を叶えるためにずっと挑戦しているものだ。けど、それを理解できた人は今まで誰一人いなかった。少なくとも、一目見てなにかの設計図だなんて言ってきたやつは誰一人としていなかったんだ。……君以外はね」
あああああ。まずい。まずい。
この方、滅茶苦茶詰めてくる! 逃してくれない!
どうすればいいのでしょう。良い案が思いつかず、慌てふためく私。
ですがその時、そんな私の手を、突如として彼女が掴んだのです。
「ひっ!?」
「落ち着きたまえよ、君。何も取って食おうと言ってるんじゃない。いいかい、ボクはね、ただ事実を知りたいだけなんだ」
宥めるように、私の手をそっと撫でる魔女様。
そして、優しい声で続けました。
「君は、実に変わった人だ。この奇妙なサンドイッチたちを作ったのは君なんだろう? その上、君はこれが設計図だとすぐに理解した。普通じゃない。君は、実に普通じゃない」
そして、塔の魔女様は私の目をまっすぐに見つめて続けました。
「いいかい、ここでの会話は、誰にも言わない。君と僕だけの秘密にする。約束するよ。ただ、ボクは知りたいだけなんだ。君の言うヒコーキ、とはなんだい。どういう機能を持つ物のことを言うんだ。言ってごらん」
「え、えと、その……」
「さあ、ほら」
逃げ出したい気分ですが、逃してくれそうにはありません。
なので、私は覚悟を決め……小さな声で、呟いたのでした。
「……空を……飛ぶ、機械です。人を乗せて、鳥みたいに」
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