アイス・アイス・ドリーミン5
「これより、おぼっちゃまのおやつタイムを始めます」
「よろしくお願いいたします、おぼっちゃま!」
メイド長の号令がかかり、その日のおやつタイムが開始されました。
メイドたちが動き出し、おぼっちゃまの前におやつを並べていきます。
それをおぼっちゃまは美味しそうに召し上がっていきますが、時折、私たちのほうをチラリチラリ。
私たち五班の準備を見て、どうやら今日は期待していたアイスが出る日みたいだぞ、と勘付かれたようで、気になって仕方がないご様子。
「……おぼっちゃまが獲物を追うハンターの目をしてらっしゃるわ。ご期待に沿えるかしら。不安になってきたわ……」
「大丈夫よ、アン。準備は十分。勝てるわ、私たち」
小声で不安げに言うアンを励ましながら、最後の準備を進める私。
氷がたっぷり入った容器で冷やしているアイスを、丸く掬えるスプーン(これも作ってもらいました)で盛り付けていきます。
季節は初夏。この中庭には涼し気な水路が流れていて、体感温度はそれほど高くないですが、それでもアイスが溶けるには十分な暑さ。
どうかドロドロになる前に私たちの順番が来て、と願っていると、そこでようやくメイド長から声がかかりました。
「五班、お出ししなさい」
「はい、ただいま!」
意気揚々とワゴンを押していく私たち。
そしてお坊ちゃまの前で止まると、アイスをお出ししながら私は笑顔で言いました。
「おまたせしました、お坊ちゃま! 今日のおやつは、ご所望のアイスにございます!」
「うむ、待っていたぞ!」
目の前に置かれたアイスを見て、おぼっちゃまが歓声を上げました。
しかし、次の瞬間には「ん?」と呟き、不思議そうにおっしゃいます。
「シャーリィ。アイスはよいのだが、これは随分変わった容器に入っておるな」
そうおっしゃるおぼっちゃまの視線の先には、アイスを受け止めている、コーンの姿がありました。
そう、私たちはアイスを手製のアイスクリーム・コーンに詰め、作ってもらったアイススタンド(ソフトクリームとかを立たせておけるアレです)に立たせてお出ししたのです。
ですが、こんなものがいきなり出てくれば面食らうのは当然のこと。
私は深々と頭を下げて、説明をはじめました。
「おぼっちゃま、こちらの入れ物はコーンと言いまして、アイスを手に持って楽しむためのものでございます。スプーンを使わず直接冷たいアイスを口にでき、さらに、この入れ物自体も食べられるようになっております」
「ほう。それは、なんともおもしろき工夫だ」
それを聞いたおぼっちゃまの顔が、ぱあっと明るくなります。
そしてそのままアイスのコーンを手にとってくださったので、私は密かにぐっと拳を握りしめてしまいました。
(よしっ、第一関門クリア!)
アイスだけだと言ったはずだ、と突っ込まれたらどうしようかと思いましたが、目論見通りコーンつきのアイスを”こういうもの”として認めてくださったようです。
お坊ちゃまは冷たくて甘いアイスにかぶりつき、そしてニッコリと笑みを浮かべてくれました。
「冷たい! これだ、これ! 余はこれが欲しくてしょうがなかったのだ!」
そのままパクパクとアイスに食いついていくおぼっちゃま。
第一弾は前と同じバニラアイスにしたのですが、味もご満足いただけた様子。
そして半分ほどを平らげたところで、おぼっちゃまはしげしげとコーンを見つめ、そしてがぶりとかぶりつきます。
「おおっ……! 本当に食べられるぞ! サクサクだ!」
感動した様子でガジガジとコーンを齧っていくおぼっちゃま。
どうやらコーンの味もお気に召してくださったようです。
「アイスと一緒に食べると、実に美味しい! しかし、このくるんと回っている形は不思議だな。これはどうやって作ったのだ、シャーリィ?」
「はい、おぼっちゃま。そちらは薄い生地をフライパンで焼き、温かいうちにクルッと巻いて作っております!」
そう、コーンは型で焼いて作るものもありますが、今回は別の方法を採用しました。
小麦粉や卵白などで作った生地を、フライパンに薄く広げて両面よく焼く。
それを温かいうちに取り出し、くるんとコーンの形に丸めてしばし待つと、あら不思議。
冷めていくとともにコーンは固まり、カリカリサクサクの食感になるのでございます。
「ほう、シャーリィ、お主は本当に面白いことを考えつくな……。ああ、もうなくなってしまった。次を頼む」
「はい、おぼっちゃま。では、次はこちらなどいかがでしょう」
サクサクカリカリと小動物のようにコーンをかじり、あっという間に平らげてしまわれたおぼっちゃま。可愛い。
元気にお答えし、私が次に差し出したのは、先程のアイスとは別種類。
柔らかいものが、ぐるぐると渦巻いたものでございました。
そう、それはアイスと双肩をなす、みんな大好きの柔らか冷たいアイツ。
その名は。
「ソフトクリームでございます!」
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