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【書籍・漫画化しました!】異世界メイドの三ツ星グルメ ~現代ごはん作ったら王宮で大バズリしました~【旧題・美食おぼっちゃまの転生メイド】  作者: モリタ


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アイス・アイス・ドリーミン3

「ちっ、相変わらず口の減らねえ小娘が。平和な時ほど腕を鍛えよってのが鍛冶職人の基本なんだよ!」


 舌打ちかましてそっぽを向く親方さん。

まあたしかに、平和だからって準備をおろそかにしちゃいけないでしょうし、技術も継承していかねばなりません。


 ですがおそらく、王宮内でもやや肩身は狭いのでしょう。

親方さんは、むっつりと黙り込んでしまいました。


「まあそれはそうね、いざって時に職人がいなくちゃ大変だもの。けど普段からそれなりに貢献しておいたほうが、あんたたちも顔が立ちやすいでしょ。今日はなんと、王子様に直接仕えるメイドからの依頼を持ってきたわ。どう、ありがたいでしょ?」

「けっ、今度は包丁でも作らせるつもりか? 馬鹿にしやがって! ……ええい、いつもどおりあいつに頼め! おい、アントン! アントーン!」


 親方が、工房を震わせるようなとてつもない大声を上げて、私は思わず耳を塞いでしまいます。

するとそれを聞いて、工房の奥から、どなたかとても背の高い男性がのっそりと歩いてきました。


「へい、親方。なんすか?」

「また魔女がきやがった。アントン、お前、魔女当番だろ。どうにかしろ」

「魔女当番って……。僕が一番の下っ端だからって、いつも押し付けられてるだけじゃないすか。やだなあ」


 親方に背中をドンと叩かれて、アントンと呼ばれた男の方が困った顔で言います。


 その彼は、灰色の髪と瞳をしていて、すらり、というよりはひょろりとした体格の大男さんで、その表情はどことなく頼りなさそう。

年の頃は、十七か八ぐらいでしょうか。私よりは少しだけ年上だと思います。


「うるせえ、とにかくお前の仕事だ。いいか、何事も経験だ。また当分、武具の大量発注はねえだろう。お前は若いんだ、だからいろんなことができるようになれ。いいな」


 そう一方的に言い捨てて、親方は奥に引っ込んでしまいました。

アントンさんはその背中を恨めしそうに見送っていましたが、やがて振り返り、愛想笑いを浮かべて言います。


「やあアガタ、こんにちは。また来たのかい」

「こんにちは、アントン。あんた、相変わらず冴えない顔してるわねえ」


 ニッコリと笑って、酷いことを言うアガタ。

ですが、なんとなくアガタは嬉しそうです。

アントンさんとは、気安い仲なのでしょうか。


「冴えないは余計だよ。それで? また農具かい」

「違うわ、今日は人を案内しにきただけよ。ほら、今日の依頼主はこの子。メイドさんの、シャーリィよ」


 ようやく私を紹介してくれるアガタ。

すると、アントンさんがようやく私の存在に気づいたとばかりにこちらを見たので、私は彼を見上げてにっこりと愛想笑いを浮かべたのでした。


「どうも、はじめまして。メイドのシャーリィでございます」

「っ…………!」


 何しろ頼み事をする立場ですから、第一印象ぐらいはよくしないと。

そう思ったのですが、アントンさんの反応は予想外のものでした。

なんと、彼は私を見つめながらさっと顔を赤く染めて、そのままバッと背を向けてしまわれたのです。


「…………? あ、あのう……?」


 不審に思い声をかけますが、彼はおどおどした様子で何度か振り返りはすれど、ちゃんとこっちを向いてはくれません。

なんなんでしょう、と思っていると、アガタが怒った表情で彼の方に向かいました。


「ちょっとアントン、なによビクビクしちゃって。シャーリィは私の友達なのよ、ちゃんと挨拶をしなさいよ!」

「あ、アガタ、僕はああいう美人は苦手なんだよ……! その上メイドさんだなんて、眩しすぎて目が潰れちまう! 勘弁してくれ!」


「はあ!? なによそれ! あんた、私の時は平然としてたくせに! 私は可愛くないって言いたいわけ!? 失礼しちゃうわね!」


 なにか二人が言い争っているのが聞こえてきますが、なにがなにやら。

状況が飲み込めず私がぼけっと突っ立っていると、やがて渋々といった感じでアントンさんがこちらを向きました……その視線は、ふらふらとあちこちを彷徨っていますが。


「え、えと、シャーリィ、さん、だっけ……。え、えと、なんの御用、かな? ほ、包丁が必要なら、凄く切れ味の良いやつを用意できるよ。ほんと、こう、食材だけじゃなくてまな板も腕もすっぱり切れちゃうやつ」

「いえ、まな板も腕も切れては困ります。それにですね、今日はそういうものをお願いしたくて来たわけではないのです。ええと……」


 言いつつ、私は小脇に抱えていた紙を広げました。

この世界の紙は、一枚一枚手作りなのでもれなくお高いのですが、無理を言って一枚貰ってきたのです。そしてそこには、私によるイラストが描かれていました。


「こういう、特別な形をしたフライパン、というか焼き型というか。こういうものが欲しいのですが、作れますでしょうか」

「……へえ……」


 紙のそこら中に描かれた、図面と言うにはあまりにもお粗末なそれを見て、アントンさんの顔つきが変わりました。

それは先程までの頼りない青年ではなく、一端の職人の表情です。


「面白いな。焼き型ということは、ここに何かを流し込んで調理するためのものだよね?」

「はい、そうなんです。ここに生地を流し込んで、下から熱して入れ物の形にするためのものなんです」


 そして、それぞれがどういう事をしたいものなのか一つ一つ詳しく説明していく私。

それをアントンさんは、ふんふんとうなずきながら真剣に聞いてくれました。


「へえ、面白いこと考えるなあ。となると、場所によって熱が高いとか低いとかだと困るよね。熱の通りを均等にするために、場所によって厚みを変えないとね。下から熱するなら、全体に効率的に伝えるためにはどうすればいいか。というかこれ、上蓋も熱くして挟み込む形で焼くのか。となると、もっと難しいぞ。まずは型を作って……」


 私から紙を受け取ると、アントンさんはそれを食い入るように見つめながらブツブツと独り言を言い始めました。

大丈夫だろうか、と思っていると、隣にやってきたアガタが言います。


「まーた始まったわ。あいつ、ぶつくさ言うくせに作り始めるとアレなんだから。ああいうところは、あんたと似てるわね」


 ええっ。そうでしょうか。

私は新しいものを作る時に夢中になって、周りが見えなくなったりは……しますね。

けど、人を置いてけぼりにして自分の世界に入ったりは……します。


 はい、私でした。


「うん、まあできないことはないと思う。で、これ、いつまでに欲しいんだい?」


 と、そこで考えがまとまったらしいアントンさんが言ってくれましたので、私はぱあっと笑顔を浮かべてこう答えたのでした。


「わあ、ありがとうございます! じゃあ、できれば一週間ぐらいで欲しいです!」




 そして、ちょうど一週間後のメイドキッチン。

そこには出来上がったばかりの新しい調理器具を見つめ、ご満悦の表情を浮かべる私の姿が!

読んでいただいてありがとうございます!

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