お嬢様に捧げるふわふわスイーツ6
「ええー!?」
メイドの皆から、一斉に驚きの声が上がりました。
他人事だと思って見ていたら、えらいことになったといったところでしょう。
その声に満足げな笑みを浮かべたお嬢様は、一方的におっしゃいました。
「今日のおやつタイムには、あんたとうちのミアだけがおやつをお出しする。そして、おぼっちゃまにどちらが美味しかったか聞いて、あんたが負けたら全員王宮から出ていくのよ。いいわね?」
「そ、そんなあんまりです、あまりにも急なお話だし、それに……」
「黙りなさい、私が決めたならそれが決定なの! さあミア、始めなさい。腕の差を見せつけてやるのよ!」
「はい、お嬢様。……では、メイドの皆様。失礼ながら、キッチンをお借りします」
一方的に話が打ち切られ、お嬢様がそう命令すると、ミア様はテキパキと動いて使える材料を選び出し、調理台に並べると小麦粉をこね始めました。
驚いたのが、その手際の良いこと!
素早く、そして美しく動き回る彼女の手先を見て、私は思わずうなってしまいました。
(こやつ……できる!)
私とて長年小麦粉と戯れ、名人であるクリスティーナお姉さまの指導も受けた身。
手さばきを見れば、相手の力量ぐらいはわかります。
ミアさんのそれは、おそらく熟練の職人級。私達おやつメイドと比べても、勝りこそすれ、劣ることはないでしょう。
そしてあの速度なら、おぼっちゃまが満足するだけの量を、きっとたった一人で仕上げてみせるはずです。
「す、すごい……」
「ふん、あたりまえでしょ! あんたとは出来が違うのよ、出来が! じゃあミア、私はウィリアム様の所にいくから、あんたは必ず勝てるお菓子を作るのよ。いいわね!」
「はい、お嬢様」
お嬢様が勝ち誇ってキッチンを出ていき、ミアさんがその背中に頭を下げます。
メイドの皆様はそれを不安げに見つめていましたが、お嬢様の姿が見えなくなると、わっと私の周りに集まってきて一斉に騒ぎ始めました。
「ちょっとシャーリィ、あんたなにやったのよ! お嬢様に滅茶苦茶嫌われてるじゃない!」
「どういうこと、あんたが負けたら私達本当にクビなの!? ねえ、勝つ自信はあるんでしょうね!? そうだと言って!」
「ほんとあんたは疫病神ね! 毎回毎回、騒動ばっかり起こして! クビになるなら、あんただけがなりなさいよ!」
「み、皆様落ち着いて、落ち着いてください! どうにかします、どうにかしますから……!」
もみくちゃにされながら、どうにかなだめようとする私。
とはいえ、これはまずい状況です。なにしろいきなり勝負になったので、何を出せばいいのかがわかりません。
ミアさんは、どうやら相当の強敵なようです。半端なものを出せば負けてしまうでしょう。
とはいえ、もうあまり時間がないです。工夫する時間も、作る時間もどれほどあるか。
(どうしよう、もう出したことのあるおやつじゃきっと難しいわ……。おぼっちゃまにとって、ミア様のおやつは珍しいものでしょうし。こっちもなにか、初めて出す珍しいものを出さなきゃ。でも、あれこれ作ってる時間がない……!)
困り果てる私。
ですがその時、二班のメイド頭であるクラーラお姉さまが、こうおっしゃってくださったのです。
「皆、シャーリィを責めてる場合じゃないよ。これは私達メイド全体に向けての宣戦布告なんだ。おまえらなんて敵じゃないってな。あんたたち、舐められて悔しくないのか!?」
「で、でも今回料理を出すのはシャーリィだけだって言われたから、私達にはどうすることも……」
お姉さまの一人が不安げに言うと、クラーラお姉さまは男前の笑顔を浮かべました。
「ああ、たしかに料理を出すのはシャーリィだけだ。だけど……私達がそれを手伝っちゃいけないとは言わなかったぞ、あのお嬢様は」
クラーラお姉さまのその言葉に、メイドの皆様はぱっと顔を綻ばせます。
「そうか……そうだわ、どうせおやつを出せないのなら時間もあるし。全員で協力すればいいんだわ」
「そうね、ああまで好き勝手言われちゃこっちも負けてられないわ。これは私達メイド全員に対する挑戦よ!」
「やってやりましょう! ドーナツの時みたいに皆で力を合わせて、勝利を勝ち取るのよ!」
一斉に盛り上がるお姉さまたち。
それに後押しされるように、アンが笑顔で言いました。
「シャーリィ、やったわね! お姉さまたちが手伝ってくれるのなら百人力よ! さあ、何を出すつもり? あのお嬢様の鼻を明かすような、勝てるおやつを考えて頂戴!」
ですが、そこで私は引っかかりを覚えてしまいます。
……勝てるおやつ。
勝てる、おやつですか。
本当は、すぐにでも調理に取り掛からなければいけない場面ですが、私はその言葉がどうしても引っかかってしまいました。
……本当に、それでいいのかしら。私が今作るべきものは、誰かに勝つためのものなの?
「……どうしたの、シャーリィ? あなた、冬眠前のクマみたいよ」
考え込みながらキッチンをうろつく私を、アンがそう評します。
それでも私は皆の視線が集まる中、じっくりとその違和感と向き合って、やがて結論を出したのでした。
「うん、そうだわ。そうあるべきだわ。なら、私の今すべきことは決まりね」
そして、私はメイドのみんなの方を向き直り、こう伝えたのです。
「皆様。今から、私はおぼっちゃまとお嬢様を夢の国にご招待するおやつを作りたいと思います。でも、それはとっても難しくて、私一人ではとても実現できそうもありません……だから、どうか力をお貸しください!」
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