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【書籍・漫画化しました!】異世界メイドの三ツ星グルメ ~現代ごはん作ったら王宮で大バズリしました~【旧題・美食おぼっちゃまの転生メイド】  作者: モリタ


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お嬢様に捧げるふわふわスイーツ3

 え。

え。え。

……なんで? なんでそうなるんですか?


 私がついていく必要、どこにあります!?

見てください、お嬢様もギョッとした顔をしてるじゃないですか!

おぼっちゃま、もしかして女の子の気持ちを感じるのとか苦手なタイプ!?


 ありえない、それはありえないです。

あなたからもどうにか言ってやってください、とメイド長に視線で語りかけますが、彼女はついっと目を逸らすと、こうおっしゃりやがったのでございます。


「はい、おぼっちゃま。どうぞご自由にお使いくださいませ」


 ……こいつっ……私を、見捨てやがった……!


◆ ◆ ◆


「まあ! 相変わらず素敵なお庭ですわね! なんて美しいのでしょう!」


 おぼっちゃまと並んで王宮のお庭をゆくお嬢様が、目を輝かせてそうおっしゃいました。

王宮の庭は大勢の庭師によって恐ろしいほど手入れされていて、美しく刈り込まれた木や可憐な花が所狭しと植えられています。


 それを見て上機嫌のお嬢様と、どことなく退屈そうなおぼっちゃま。

そしてその後ろを、お嬢様のお付きの方と並んで続く、明らかに浮いている私。


(なんで私がついてくる必要が……。ここは、「後は若いお二人で」とか言いながら引っ込むところなのでは……)


 特に何をするでもなく、私がついていく意味とは。

白けた表情でそんな事を考えていると、お付きの彼女が唐突に私に話しかけてくださいました。


「メイドの貴女、私はアシュリー様のお付きのミアと申します。どうぞよろしく」

「あっ、これはご丁寧に。メイドのシャーリィでございます。どうぞよしなに」


 丁寧なご挨拶に、私は慌てて頭を下げながら返します。

しかし、ミア様はこうしてお側で見ると本当に整ったお顔立ちをしてらっしゃいます。

前世で見た、宝塚歌劇団を思い起こさせるほどに。

特に目元の泣きぼくろが、なんともはやセクシー。


 羨ましいぐらいスタイルがよく、すらりと細身ですが、ちらりと見える二の腕はかなり鍛えられているのがわかります。

おそらくお嬢様の護衛も兼ねてらっしゃるのでしょう。


 さすが大貴族のご令嬢。護衛の方もレベルが高いわ、なんて事を考えていると、そこでミア様が声を潜めつつおっしゃいました。


「シャーリィ殿は、随分とウィリアム殿下からの信頼が厚いご様子。王宮に上がられて長いのでしょうね。失礼ながら、お家は何処でございましょうか」

「あ、恥ずかしながら、私は市井の出でございますわ。父はしがない商人をやっております。来たのは……この春先ですわ」

「ほう? なんと」


 私がそう正直に話すと、ミア様は実に驚いた顔をなさいました。

おそらく、私がそれなりの家の娘で、それゆえに引き立てていただいていると思ったのでございましょう。


「では、ほんの数ヶ月で、あなたは殿下に親しくお声がけいただけるほどの功績を挙げられたのか。なるほど、優れた人材でいらっしゃるようだ」

「え、いえいえ、とんでもありません! ただ、私は王宮では珍しいおやつをお出ししているというだけで、功績なんて、とてもとても……」


 慌てて否定します。

変に期待されると、ろくなことがありません。

それに、放っておくとなんだか話がややこしくなりそうです。なので必死にそう伝えると、ミア様は私の目をじっと見ながらおっしゃいました。


「なるほど、王宮ではおやつをメイドの皆様がお出ししているのでしたね。ではあなたはお菓子作りの名人で、その腕を買われて王宮に上がられたわけですか」

「え、ええと……。まあ、うん……そう、いう感じ、ですかねえ……?」


 名人、などと言われるとすごく微妙な気分です。

私の始まりは、趣味の料理。王宮に来てからの日々でかなり腕は上がってきていると思いますが、名人と呼ぶのは違う気が。


 私の中の料理名人のイメージは、名店で修行しました的なおじさまか、人生の大半を料理に使ってきました的なおばあさま。

私のような小娘が、そこに並ぶのはおこがましいというものでしょう。

……まあ、私も、前世と今世を合わせれば、結構な年月を料理に捧げてはいますけれども。


 などと付き添いどうしで他愛もない話をしていると、そこでおぼっちゃまが上機嫌でお話しているのが聞こえてきました。


「うむ、そうなのだ。シャーリィは実に珍しく、おいしいおやつを出す。最近は、余はおやつの時間が楽しみで仕方ないのだ」


 ……どうやら、あちらも私の話をしているようです。

やばい、嫌な予感しかしない。


「ま、まあそうなのですか。ウィリアム様を楽しませるなんて、メイドのくせに生意気……もとい、よく仕えておりますわね。と、ところでウィリアム様、このお花なのですが……」

「うむ。あやつは実に発想が豊かでな、見たこともない材料を使って、実に余の食欲をそそるおやつを出してくる。前など、ピザとかいう色とりどりの……」


ああー、おぼっちゃま! 困ります、おぼっちゃま!!

なんで私の話を深堀りしてるんですか! お嫁さん予定のレディの前で他の女の話なんていけません!


 お隣のお嬢様を見てください! 笑顔がヒクつき、目は死んだ魚のようになっているではりませんか!

空気を! 空気をお読みください! ああーいけませんおぼっちゃまお願いだから私を話題に出さないで!


「おっ、おぼっちゃま、差し出がましいことを申しますが、お花が綺麗でございますよ! ほ、ほら! 匂いも芳しいですし!」


 たまりかね、おこがましくも進み出て話題の修正を試みる私。

このままでは、お嬢様の怒りの矛先が私に向いてしまいます!

王族であるおぼっちゃまに意見するなど本来は許されぬことですが、ここは死ぬ気で話題を変えねばまずいことになる、と私の本能が大音量で叫んでいます。


 すると、おぼっちゃまは私の顔を見て、そして花の方を向き、なにか思いついたとばかりにニヤリとお笑いになりました。


「うむ、たしかに花が綺麗だし良き香りだ。これを楽しむには、庭の中を駆け回るのが一番であろう。ではアシュリーよ、駆けっこと洒落込もうか」

「えっ!?」


 おぼっちゃまの突然の申し出に、ぎょっとした顔をするお嬢様。

ですがそれを気に留める様子もなく、あろうことか、おぼっちゃまは私の手をいきなり掴むと、引っ張るようにして駆け出したのでございます。


「ではゆくぞ、シャーリィ! 遅れることは許さぬ!」

「えっ、ちょ、おぼっちゃまぁ!?」


 手をがっしりと握られながら、庭を引きずられていく私。

あまりの展開に冷や汗をかきながら振り返ると、そこには呆然と私達を見送るお嬢様たちのお姿がありました。


 ああ……おぼっちゃま。どうして。


読んでいただいてありがとうございます!

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