あなたに届け!あつあつデリバリーピザ6
「……ピザ……?」
入れ物の中身に視線を吸い込まれながら、不思議そうにおぼっちゃまがおっしゃいました。
その先には、生地の上にチーズと肉がたっぷり載った今日のおやつ。
ミートピザが輝いていたのでございます。
「……これはまた、おやつとは思えない物を出してきましたね、おまえは……」
メイド長が呆れたようにおっしゃいましたが、前のように、これはおやつかどうかなどと口にはなさいませんでした。
だって、それを見つめるおぼっちゃまの瞳が輝いているのですもの。止められるわけがありません。
「これは、どうやって食べるのだ? シャーリィ」
「はい、おぼっちゃま。切れ込みが入っておりますので、お好きな場所を手で取ってお食べください!」
そう言ってピザの入った籠(紙容器はさすがに用意できませんでした)を置くと、おぼっちゃまは少し迷った後、たくさんお肉の載った部分をすくい取りました。
切り離す時にチーズがぐっと伸びて、おぼっちゃまが「おおー……」と声を上げます。
このチーズは、特に伸びが良いものと味が濃ゆいものをブレンドしたもの。
東に山岳地帯を持つこの国は酪農も盛んで、チーズもレベルが高いです。
そのうちでもこれらは王宮に献上されたものですから、それはもう絶品でございます。
そして、私が見守る前でおぼっちゃまはピザの断面をじろじろと確認した後、そっと口になさいました。
そして、すぐにその表情が輝き、飛び出した言葉は……語るまでもありませんね。
「美味しい!」
生まれてはじめてピザを食べた人は、大体そう言ってしまうものでございますゆえ。
「シャーリィ、これは凄く美味しいな! 凄く美味しいぞ!」
「ありがとうございます、おぼっちゃま!」
ピザを次から次へと平らげながらおっしゃるおぼっちゃま。
子供はピザが大好きなものですから、当然かもしれません。
「パンとチーズが合うのは当たり前だが、それだけではない味わいがある……。ケチャップが入っておるな?」
「はい、おぼっちゃま。ケチャップをベースに作った、特製ピザソースがたっぷり入っております!」
にっこりと微笑んで、説明を入れる私。
大体おぼっちゃまが好きなものだけで構成されているピザ。きっと、気に入っていただけると思っておりました。
「なるほど。だがケチャップだけじゃない、なにかシャキシャキした歯ごたえも感じる。なんだろう」
「…………」
おぼっちゃまの言葉に、無言の笑顔で応える私。
おぼっちゃま。それは、おぼっちゃまが大嫌いなお野菜の玉ねぎでございます。
どうしても旨味が足りないと感じた私は、ついに禁断に手を染めてしまいました。
そう、できるだけ細かく刻んだ玉ねぎをしっかり炒め、お子様が嫌いな匂いや辛みを徹底的に消してソースに投入したのでございます。
やはり玉ねぎは、美味しさの基礎を作ってくれる素晴らしい食材。
嫌いなものを無理やり食べさせたくない、という思いはありましたが、そうしたほうが美味しいとわかっていながらそうしないのは無理がございました。
ですが、現におぼっちゃまは美味しい美味しいと玉ねぎ入りのピザを食べてくださっている。
つまりは調理法の問題。なら、良いではないですか。
私が黙っていればすむ話でございます。そもそも、ケチャップにも入ってますし。
あと、刻んだ乾燥きのこを投入したのも良かったのかもしれません。
そちらも旨味を出しつつ、玉ねぎの味を消してくれたようです。
「あっ……終わってしまった」
Mサイズを意識して作ったピザを、おぼっちゃまはまたたく間に平らげてしまい、残念そうなお声を出されました。
そこで、もちろん私はこう申し出させていただきました。
「おぼっちゃま、よろしければ別の味のピザもございますわ。おかわりはどうでしょう」
「うむ、もちろん食べるぞ! 持ってきてくれ!」
嬉しそうなお坊ちゃまのご命令を受け、戦友であるアンのほうを振り返ります。
興奮した様子でこちらを見守っていたアンは、大きくうなずくとかごに入ったピザをいくつも持ち上げ、うおおおおー!と叫びながら中庭をぐるりと回りにいきました。
「……シャーリィ、あれはなにか意味があるのか?」
「もちろんです、おぼっちゃま。ピザは、遠くから配達されてくるから素晴らしいのでございます!」
不思議そうにいうおぼっちゃまに力説します。
そう、ピザはデリバリーが最高なのです。
注文し、届くまでのそわそわ感。
家のチャイムが天使の福音のごとく鳴り響く瞬間。
そして、箱を開けるとともに立ち上る湯気と、美味しさの塊みたいな匂い。
その全てが、ピザを特別にしてくれるのです。
そして、息を切らしながらやってきたアンから箱を受け取り、おぼっちゃまの前に並べて。
私達は、ポーズを取りながら言ったのでした。
「おぼっちゃま、おまたせしました! あつあつピザの、お届けです!」
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