海とドライブと重箱弁当6
「こ、これは違うのです。私はあくまで護衛。誘惑になど負けず、鋼の意思を持つべき者です。食べ物に目がくらんだりなんかっ……」
「はいはい、いいからいいから。とっとと座りなさい」
真っ赤な顔をし、慌てた様子で言うアリエル。
そんな彼女の手をやや強引に引いて、アガタが敷物に座らせました。
「護衛は食べながらでもできるでしょ。むしろ、しかめっ面で一人だけ立ってたら、逆に悪目立ちするわよ。その場所に溶け込むのも、護衛の技術ってもんじゃないの?」
「うっ……。そう言われると、そう、かもしれません。じゃ、じゃあ、護衛として……あくまで、護衛としてっ! いただかせてもらいます」
上手に説得するアガタと、言い訳のようにつぶやくアリエル。
うーん、こういう時、お姉さんなアガタは本当に頼りになるっ。
「はいはい、じゃあどうぞ、アリエル!」
なので私もそれに合わせ、取り皿にさっととある料理を盛り、アリエルの前に置きました。
すると彼女は、取り皿の上に載った、それ。
白くて三角なものを見て、驚いた表情を浮かべます。
「……これはまた、なんとも不思議な見た目をしていますね。白いたくさんの粒が、合体している……? これは、なんという料理ですか?」
「うふふ。これはね、おにぎりっていうのよ!」
そう、おにぎり。おにぎりでございます。
お弁当と言ったら、これは外せないでしょう!
いくらおかずの内容が豪華でも、やはりお弁当のメインはお米。日本人として、これだけは絶対です!
「オニギリ……名前もまた、不思議です。ど、どう食べるのが作法でしょうか……?」
「何も気にしなくていいわ。おにぎりはね、そのまま、手づかみでガブリと食らいつけばいいの」
「て、手づかみですか。わ、わかりました。では」
わずかにひるみつつもそう言って、おにぎりをがしっと手で取り。
大きく口を開けて、本当にガブリとかぶりつくアリエル。
そして、しっかりと噛み締めると、すぐにその顔が驚きの表情を浮かべました。
「おっ……おい、しい!」
いよしっ!
これです、これ。
おにぎりを知らなかった相手に、美味しいと言ってもらえる喜び。
農耕民族日本人として、こんなに嬉しいことがあるでしょうか!
「見た目から予想していたのと、全然違う! 歯ごたえがよく、塩気もとてもよくて、凄く凄いです!」
わんぱく小僧のようにモリモリおにぎりを食べながら、瞳を輝かせるアリエル。
相変わらず解説にはなっていませんが、その食いっぷりが美味しさを物語っています。
そして、同じようにおにぎりをかじったアガタが、ニコニコ笑顔で言いました。
「ほんと、シャーリィが握ったオニギリってすっごく美味しいのよねえ。お米に塩を振って握っただけなのに、なんでこんなに美味しいのかしら。何か秘訣とかあるの?」
「アガタ、よく聞いてくれましたっ! おにぎりはね、握り方が大事なの。塩を振った手で、ふんわりと空気を抱き込むように、でもポロポロ崩れたりしないように絶妙の力加減で握ると、それだけで最高のごちそうになるのよっ!」
そう、食べ物にとって、食感はとってもとっても大事な要素。
上手く握れたおにぎりは、手に持ってもしっかりとしているのに、噛んだ瞬間に粒がほろりと崩れ、米の甘みとさわやかな塩気が口の中いっぱいに広がるのです。
いやあ、前世でおにぎり名人の主婦たちに憧れて、練習しまくったのが生きました。
ちなみに、今回は全部シンプルな塩おむすび。おかずがたくさんなので、具を入れるのはぐっと我慢しました。
「ああ、美味しい、美味しい! おにぎり、もっとください!」
と、すっかりおにぎりの虜になった様子のアリエル。
ですが、そんな彼女に、アンが別の取り皿を差し出します。
「アリエル、おにぎりもいいけど、他のも美味しいわよ。ほら、いいところ見繕ったから、おにぎりと一緒に食べて」
「あっ……ありがとうございます!」
そう言って、律儀に頭を下げるアリエル。
そして、箸とフォークを見比べ、ばしっとフォークをつかむと、いろんな料理で山盛りの取り皿に挑みかかります。
どれから食べようかとばかりに視線を迷わせ、やがて彼女が選んだのは……私がじっくり煮込んだ、豚の角煮。
それをフォークで突き刺して口に運び、大きく頬張ると、アリエルは、またもや感動の声を上げたのでした。
「っ……! このお肉、信じられないぐらい美味しい……! やわらかくて、甘くて、味がたくさんで、初めて食べた味で、なんだか凄く……凄い!」
書籍の二巻、発売いたしました。
いろいろ手を加え、nima先生のイラストもたいそう素晴らしく、より面白く仕上がっていると思いますので、よろしければ是非お願いいたします!
見開きカラーのみんながメチャ可愛いので、それだけでも見てください! お願いします!!




