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【書籍・漫画化しました!】異世界メイドの三ツ星グルメ ~現代ごはん作ったら王宮で大バズリしました~【旧題・美食おぼっちゃまの転生メイド】  作者: モリタ


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海とドライブと重箱弁当4

「えっ……?」


 突然、これで前世に対する未練を一つは消せたか、なんてことを言い出したジョシュア。

 予想外の言葉に私が戸惑っていると、ジョシュアがいつもの芝居かかったしぐさで続けます。


「ボクっていう人間はね。とっても自分勝手な奴だったんだ。あれこれ作るのは、全部自分のため。他人なんてまるで興味がないし、関わる必要も感じなかった。塔に引きこもって、自分の夢を叶えるためだけに生きる。ただ、それだけの人間だったんだ」


「……」

「でもね。ある日、妙な女の子が現れたんだ。その子は、勝手にボクの世界に押し入ってきて、好き勝手に騒いで。しかも彼女は、『前世の記憶』なんていうものを持っていて。ボクは、あっという間にそれに魅了されてしまった。なんて刺激的で、鮮烈な情報なんだ! ってね」


「……うん」

「それに、彼女が毎日持って来てくれる料理の数々と言ったら! 奇妙にして美味、それこそ食の発明と言っていい、異世界の空気すら感じさせる素晴らしいものだった。そしてそれらが美味しいのは、きっと、彼女の中に残る、前世への郷愁。それが、とびきりのスパイスになっているんだろうと考え、ボクは、それが大好きになったんだ」


「……」

「そしてボクは、いつしか彼女に発明品を見せるのが楽しみになっていた。生まれて初めて、最高の秘密を分け合った彼女にね。ああ、これを見せたら彼女はどんな顔をするだろう。どんなふうに使うんだろう。そんなことを考えてしまい、ボクは、自分のためだけでなく、彼女のためにも発明をするようになっていったのさ」


 そこまでを、夢見るように語り続けたジョシュア。

 ですがそこで、彼女は苦しそうに顔をゆがませたのです。


「けど……ある日、ボクは気づいてしまった。彼女は、ボクと、ボクの発明品を見ているわけじゃない。彼女は、それを通して……はるか、前世の世界を見ていたんだ。そして思った。どこまでいっても、ボクの作った物は、彼女の前世にあった物の、劣化品にしかなれないんだ……ってね」


「なっ……」


 それを聞いて、私はびっくりしてしまいました。

 まさか、ジョシュアがそんなことを考えていたなんて!

 慌てて否定しようとしましたが、ジョシュアはそれを、私の唇にピタリと人差し指を当てて止めてしまいました。


「そう、考えてみれば前世の話をする時、彼女はいつも遠い目をしていた。はるかな故郷を懐かしみ、戻れるならば、あの世界に戻りたいと思っているような、そういう、遠い目をね。それに気づいた時、このボクともあろう者が、心の底から嫉妬した。そう、嫉妬したんだよ! なんだいなんだい、ここにはボクがいるし、この世界だってそう捨てたもんじゃないだろう!? なんだって作ってみせる、だから、こっちを見ておくれよ……そんな、駄々っ子のような気持ちになってしまったんだ」

「……」


「それは本当に、自分でも驚くべき変化だった。自分勝手なジョシュアは、いつしか、彼女のもたらす知識ではなく、彼女自身のことを好きになってしまっていたのさ。彼女と過ごす時間が、何より楽しくなってしまった。自分のことしか考えてないはずのロクデナシが、なんということだ!」


「ジョシュア……」

「彼女がいなくなったと聞いた時は、本当に、本当に胸が張り裂けそうだった。もっと、話したいことも、見せたいものも、山ほどあったのに。そして、決めたんだ。及ばなくてもいい。作り続けよう。そして、彼女が戻ってきたその時には、彼女の前世にあって、この世界にない物を、片っ端からなくしてやろう。そして、いつか言ってやるんだ。『どうだい、この世界も捨てたもんじゃないだろう?』……ってね」


 そう話し切り、ジョシュアは、いつもの芝居がかった笑みではなく、ニカッと、少年のように笑ったのでした。

 それで、私はようやく、彼女が言っていた、未練ということの意味が分かったのです。


 私は以前、前世の話として、海までドライブして食べたご飯が凄く美味しかった、と彼女に語ったことがあったのでした。

 海の家の料理や、帰りに海沿いのレストランで食べた料理がいかに素敵だったか、と、それこそ夢見るように。


 彼女はそれを覚えていて、それがなんだか悔しくて。

 だから、その体験を、この世界でも私に味合わせようと。

 私が、前世を恋焦がれて、一つでも悲しい思いをしなくて済むように。


 そう、そのために、この機会を用意してくれたのです!

 そのことを考えると、あまりにありがたくて涙が出そう。

 ですがそれをぐっとこらえ、私は微笑みを返して言ったのでした。


「ありがとう、ジョシュア。でもね、私……もう、前世に囚われたりなんてしてないわ。たしかに、未練がないわけじゃない。でも、それ以上に、もう私はこの世界が、この国が、大好きなの。だって、ここには、みんながいるもの。私、今から日本に戻れるとしても、きっとここでの生活を選ぶわ!」


 そう。そうなのです。

 いろいろ苦労もしたし、日本を恋しく思うこともある。

 だけど。


 今、私は……シャーリィ・アルブレラは、ここにいて。

 そしてここが大好きなのです。

 みんなのいる、この場所が!


「だから、そんな風に考えないで、ジョシュア。前世と比べてどうなんて、私ちっとも思ってない。あなたの作った車は最高に格好いいし……あなたは、最高の友達よ」


「シャーリィ……。……ありがとう」


 そして、私たちは見つめ合い、互いの瞳に、たしかに自分が映っているのを確認しあったのでした。

 けどすぐにジョシュアは眼を逸らし、わずかにほほを染めて言ったのです。


「やれやれ、いくらボクでも、さすがに少し臭かったかな。こんなこと、言うつもりじゃなかったのに。つい、感情が爆発してしまった。格好悪いなあ!」

「ふふ、そんなことない。素敵だったわよ、ジョシュア」


「やめてくれよっ、あははっ。……ところで、一応、なんだけど。未練がないわけじゃない、って言ったね。なら、残りの未練について、一応聞いておいていいかい? 参考までに」


「ええ? もういいじゃない。私はもう、十分に幸せよ」

「まあ、そう言わず。達成できることは、達成したいからね。ほら、恥ずかしがらずに」


 なんて、じゃれあうように言い合う私たち。

 しょうがないので、私はうーんと考え込んだ後、こう答えたのでした。


「そうねえ……。そんなに、たいしたことじゃないんだけど。やっぱり、コンビニとスーパー、あとイオンとかのふらっと買い物に行ける商業施設が欲しいわね」

「うんうん。それで?」


「後は、シュークリーム屋も欲しいし、ドーナツ屋も、それにもちろん不二家とかのケーキ屋もいるわね。ハーゲンダッツとサーティワンも。あとびっくりドンキーとかのハンバーグ屋も絶対いるし、マックやモスにバーキンとかのハンバーガー屋に各種デリバリーピザ、あとカレー屋は絶対に必要。ああ、ファミレス、ガストやサイゼリヤとかがあるとベストね」


「……シャーリィ?」

「うどん屋は作ったけどそば屋はまだだし、ああそう、ステーキハウスも欲しい! あー、鉄板使うなら、お好み焼きも外せないわ! 怒られるかもしれないけど、私は広島風の方が大好き! あの、麺がたまらないのよ! それに、餃子の王将とかの中華料理屋も絶対! ああ、それに定食屋、ご飯とみそ汁とアツアツ唐揚げを出してくれる定食屋がこの世界には絶望的に足りないわ!」


「シャーリィ」

「それにそれに、なにより、ラーメン屋! ああ、そうよ、ラーメンなの! 味噌ラーメンに塩ラーメン、とんこつラーメンに辛いラーメン! それこそ大バズリして、国内に数十店舗は欲しいわ! それに、なにより……回転寿司! 回転寿司が絶対に必要なのよ! あの、寿司が流れていくレーンを眺めるワクワクを、私はこの世界に広めないといけないの! それにそれにっ……!」


「シャーリィさん!?」


 言った端から前世への未練が大爆発して、思いつく限りの欲望を口にしてしまう私。

 青い顔をしたジョシュアに「わかった、もうわかったから! 一旦、落ち着いてくれ!」と止められて、私はハッと正気に戻ったのでした。


「あ、あはは、ごめん……。暴走しちゃった」

「ああ……よくわかったよ。君の欲望は、果てがない。そこに触れちゃ、駄目なんだってね」


 と、どんよりとした瞳で言うジョシュア。

 ああ、きっと『こいつやっぱり未練だらけじゃないか』と思われているのでしょう。


 ですが、やがてふふっと笑うと、私たちはこう言ったのです。


「ま……悪くはないさ。互いの人生に、たくさんの目標があるということは」

「ええ、そうね。全部が叶う必要はないわ。楽しんで、進んでいきましょう」


 そう、確認しあう私たち。

 すると、そこで遠くから、アガタの声が響いてきました。


「おーい、二人とも、なにしてんのよ! 早く来なさいよー!」


 振り返ると、浜辺でアガタとアンが、笑顔でこっちに手を振っているのが見えます。

 私たちは顔を見合わせ、「今行くー!」と同時に答え。


 微笑んで、浜辺へと進み始めたところで……。

 ぐー、と、ジョシュアのお腹が鳴ったのでした。


「……」

「……シャーリィ、君が悪いんだぞ。食い物の話ばかりするから。ボクは、もう君が何を作ってきたのか気になって仕方ない」


 と、頬を赤らめ、そんなことを言うジョシュア。

 それがまるでおぼっちゃまみたいで、私はふふっと笑い声を上げ、クーラーボックスを少し持ち上げながら言ったのでした。


「ごめんごめん。じゃあ、ちょっと早いけどご飯にしよっか!」

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