再会とラムのピタパンサンド5
「はあ……満腹だ。本当に、久しぶりにお腹いっぱいになった気分だ」
と、十人前以上はあったピタパンサンドを綺麗に食べつくし、満足そうにおっしゃるおぼっちゃま。
ああ、気持ちいい! これですよ、これ!
私の作ったものを、最後の最後まで本当に嬉しそうに食べてくださる、おぼっちゃまのお食事風景。
これがもう、最高なのです!
なんて、ニコニコ笑顔で食後のお飲み物を用意していると。
そこで、馬でついてきながら護衛をしてくださっているローレンス様が、馬車の窓から顔をのぞかせて言いました。
「陛下。騎馬の集団がこちらを追跡してきております。皇帝アレクシスが心変わりを起こして、追っ手を差し向けてきたのやもしれません」
「……なに?」
緊迫した様子のローレンス様と、眉根を寄せるおぼっちゃま。
えっ、嘘でしょ、この期に及んでそんなことをする人ではないはずなんですが……。
「戦闘になりそうならば、我らが押さえます。陛下たちは、どうか先を急がれますよう」
そう言って、武器に手を伸ばすローレンス様と騎士の皆様。
うわあ、やだやだ、ここまで来て血なまぐさい展開はごめんです!
私は、迎えに来てくださったローレンス様や騎士の皆様とも、一緒に帰りたいの!
ええい、一体どこの誰だそれを邪魔するのは、と私は馬車の窓から身を乗り出し、後方に目を向けました。
すると、後方のだだっ広い草原に、確かに駆けてくる多数の馬群が見えます。
「えっ? あれって……」
ですが、その姿が見覚えのあるものだったので、私は戸惑いの声を上げてしまいました。
やがて、それは徐々に近づいてきて、そして野太い声が響いてきます。
「……い! おー……い! 姉御ー!」
「うそっ!? 傭兵団のみんな!?」
そう、馬に乗った、いかつい人々。
それは、あのウルリック傭兵団のみんなだったのです!
かれらは似合わないニコニコ笑顔で、警戒するこちらを刺激しないためか、一定の距離を保って草原を並走しながら、口々に叫んできました。
「姉御ー! 遅くなってごめんなー! 無事に帰れよー!!」
「姉御の飯、ほんと美味かったぜ! ありがとなー!」
なんて、手を振りながら言う皆さん。
なんてこと……この人たち、私を見送りに来てくれたんだ!
そしてその中には、料理の助手をしてくれた彼の姿も。
「姉御ー! 俺も、姉御みたいに頑張って飯作ってみるよ! 姉御の味、俺が伝えていくからなー!」
なんて、綺麗に磨いた鍋を振り上げ、叫んでいる助手さん。
なんということでしょう。それを聞いて、私は少しだけ安心してしまったのです。
だって、彼らには、「帰りの旅も料理に期待している」と言われていたのですから。
私は、心のどこかでそれが気になっていたのです。
一緒に旅はもうできませんが、でも、助手さんが私の代わりをしてくれるなら。
それは……きっと、とても素敵なことでしょう。
「なによ、あいつら……。私をさらったクズのくせに、粋なことするじゃない……!」
と、ちょっと涙ぐんでしまう私。
ろくでなしがこういうことすると、妙にいい感じに見えるの卑怯すぎます。
不良が捨てられた子犬を拾うみたいなの、やめてくれません!?
「あっ!?」
ですがそこで、馬群の中に予想外の人物を見つけ、私は叫び声をあげてしまいました。
だって、そこにいたのは……あの、ウルリックだったのです!
「おーい! シャーリィーーーー!」
「あの馬鹿……絶対来たら駄目なやつでしょ!? なんでいるのよ!」
嬉しそうに叫ぶウルリックと、それを見て青くなる私。
あいつは、絶対に眼鏡皇帝から禁固かなにかを命じられているはずです。
そうでなくとも、私を見送りに来たりしたら、ますます眼鏡皇帝の不興を買うだけ。
ほんとなに考えてるの、あの人!? 今後のことを考えろ!と、私が動揺していると。
そこでやつは剣を高く掲げ、うっれしそうな顔で言いやがったのでした。
「いつか、もう一度、お前を迎えに行くぞ! その時は、俺たちみんなで、地の果てまで旅しよう! いいだろ!?」
「…………」
いろんな現実をぶった斬り、馬鹿なことを叫んでいるウルリック。
はあ……本当に、どこまでいってもわがままで、馬鹿で、馬鹿で、馬鹿な人。
いいでしょう。これが最後なので、全力で応えてやりましょう。
そう考え、私は馬車から身を乗り出し。
大きく息を吸い、思いっきり叫び返したのでした。
「ぜっっっっっっっっっったいに嫌よーーーーー!! 二度と私の前に、その汚い面を見せないで! じゃあねーーーーーーーー!!!!」
そして。
馬を止め、草原の向こうから、笑顔で手を振っている彼らへと。
私は、ブンブンと思いっきり手を振り返したのでした。
「はあ……言ってやったわ。すっきりした!」
やがて彼らの姿が見えなくなり、馬車の座席に戻ると、満足げに笑う私。
ああ、私の声はちゃんと届いたでしょうか。
最後、彼らは本当に嬉しそうに笑っていて。もしかしたら、聞こえていなかったのかもしれません。
さようなら、ウルリック傭兵団。
本当に最低最悪の旅で、もう二度と会うこともないでしょうが。
そう──みんなの名前と、顔ぐらいは。
覚えておいて、あげますね。
「……彼らとは、ずいぶん仲良くなったのだな」
すると、横のおぼっちゃまが、私に気を遣うように、だけど少し嫉妬の混じった声でおっしゃったので。
私はにっこり微笑んで、こうお応えしたのでした。
「いいえ、ちっとも!」




