再会とラムのピタパンサンド3
ぎゅっと抱き合い、涙を流しながらささやき合う私たち。
ああ、おぼっちゃまがここにいる。
たしかに、ぬくもりも、優しい声も、すべておぼっちゃまのものだ!
ああ、でも、もう背が私より高くなっています。
それに、少しお痩せになったような。
もしかして、私が心配をおかけしてしまったせいでしょうか。
うぬぼれかもしれないけど、もしそうならごめんなさい!
そして、そんな私たちを優しい目で見守っていたローレンス様が、そこで声をかけてくださいました。
「すまない、シャーリィ……。君がいなくなったとわかった後、すぐに捜索に出たのだが、どうしても見つけることができなかった。私のせいだ。本当に、すまない」
「いいえ……いいえ! だって、こうして迎えに来てくださったではないですか。それだけで、私には十分です!」
涙を流しながらも、私はどうにか笑顔を浮かべ、そうお応えしました。
ああ、どうしよう。
涙でお化粧が崩れて、凄くぶちゃいくになっているかもと、気になって仕方ありません。
だって、普段は見た目に気を使わない私ですが、せめてこんな時ぐらい。
可愛らしい、救い出されたヒロインでいたいですから!
そして、そんな私たちを見ていた皇帝が、やがてさっと振り返り、部屋から出ていきながら言います。
「ウルリック。話がある。来い」
「へいへい。兄上、今あなたの可愛い弟が参ります」
冷たい声の皇帝と、どこか達観した様子のウルリック。
えっ……まさか、反逆罪で処刑、とかないよね……?
なんて心配していると、ウルリックはこちらを向いてにやりと笑い、こんなことを言いました。
「気にすんな。自分が蒔いた種だ。ま、殺されやしねえさ多分。当分、なにかの罰は食らうかもしれねえけどな」
「ウルリック……」
「じゃあな、シャーリィ。お前の作る料理、マジで美味かったぜ。俺たち兄弟二人とも、どうかしちまうぐらいにな!」
そう言うと、ウルリックは颯爽と行ってしまいました。
そして、部屋には私たちだけが取り残され。
おぼっちゃまは、私をもう一度強く抱きしめると、晴れやかな笑顔でこうおっしゃったのでした。
「一緒に帰ろう、シャーリィ。我らの、エルドリアに」
「……はい!」
──こうして。
こうして、私の長い長い受難の日々は、ようやく終わりを告げたのでした。
◆ ◆ ◆
「お待たせしました! 申し訳ありません、時間がかかってしまって……」
そう言って、いつものメイド服に着替えた私は、馬車の扉を開いて中にお声をかけました。
その中に座ってらっしゃるのは、もちろんおぼっちゃま。
皇帝陛下の料理人の皆様に、ラーメンの作り方をもう一度しっかり教えてから、とあれこれやっていて、ずいぶんとお待たせしてしまいました。
「かまわぬ。余も、少し仮眠をとっていた。なにしろ、強行軍でここまで来たからな。疲労がたまっていたようだ」
そうおっしゃるおぼっちゃまは、確かに少し寝ぼけ顔。
なんでも、ウルリックからの手紙が届いたとたん、おぼっちゃま自ら馬に飛び乗って、そのまま助けに来てくださったそうなのです。
もしそうしてくださっていなかったら、私はあのままお妃にされてしまっていたことでしょう。
本当に助かりましたが、でも一国の王様が、そんなことしてよろしかったのかしら……なんて不安になる私。
きっと宰相のティボー様などは、たいそうお怒りなことでしょう。
ああ、帰るのが怖くなってきました。
ちなみに、こちらの馬車は皇帝陛下が用意してくれたもの。
一国の王を、馬で帰らせるわけにもいくまい、とのことです。
でも、たぶん。それは、本当は私のためなのでしょう。
私が馬では大変だろうと、きっとそれで用意してくださったのです。
「ん……」
そこで誰かの視線を感じ、ふと見上げると、そこには皇帝陛下の姿がありました。
皇帝陛下が、窓から私のことを見下ろしているのです。
「……ありがとうございました」
一時とはいえ、そして無理やりとはいえ、お仕えした相手です。
そうつぶやいて頭を下げると、皇帝陛下はすっと視線を外し、そのまま奥に引っ込んでしまい。
私は、ふうと息を吐いて、馬車へと乗り込んだのでした。
すると、おぼっちゃまがくんくんと鼻を鳴らし、私が手に持っているバスケットに視線を向けます。
「なにか、良い匂いがするな」
「あ、ええと。その……おぼっちゃま。もしかして、お腹が空いてらっしゃるかもしれないと思って。軽食をご用意いたしました」
そう言って、少し照れながら私はそれを開きます。
すると、その中には。
白く薄いパンで羊のお肉を挟んだものが、ずらりと並んでおりました。
「こちら、ラムの香草焼きのピタパンサンドでございます!」




