再会とラムのピタパンサンド2
「なっ……!?」
山のような宝で、私を買おうとした皇帝。
ですが、おぼっちゃまは、それを歯牙にもかけず。
それが私の価値だというのなら、同じだけの宝で返してもらう、とおっしゃってくださいました。
ああ……ああ。
おぼっちゃまなら、きっとそうおっしゃってくださると信じていました。
お宝なんかに、目をくらませたりはしないと!
「馬鹿な、どうしてだ! どうして、そこまでこの女に執着する!? たかがメイド一人のために、王自らやってきて、これほどの宝でも渡せぬなどと……なぜだ!」
動揺した皇帝が、おぼっちゃまをにらみつけながら叫びます。
するとおぼっちゃまは、それをまっすぐに見つめ返し、はっきりとおっしゃったのです。
「シャーリィは、余にとって、ただのメイドなどではない。彼女は……余の、大事な人だ」
「なにっ……!?」
おぼっちゃまのその言葉に、皇帝が驚きの声を上げました。
そして、みんなの視線が集まる中、おぼっちゃまは静かな声で続けます。
「余は、王子に生まれ、天才などと呼ばれ、かしずかれて生きてきた。それを羨む者もいるだろう。だが実情は、母に先立たれ、一日中仕事や勉学に追われ。余しかおらぬからと、国のすべての責任を負わされ……。余にとって、王族という身分はただの苦痛で、王宮は牢獄でしかなかった。……だが」
そこで、おぼっちゃまが、私の方に視線を向け。
そして、本当に……本当に、優しい顔でおっしゃってくださったのです。
「ある日、やってきたメイドがな。とても、おいしいおやつを作るのだ。それはもう、奇妙で、予想外で、そして温かみのあるおやつを。いつの日か、余はその者が作るおやつに……いや、いつしか、彼女自身のとりことなっていた」
「……」
「笑ったり、跳ねたり、いつも忙しい彼女。どれほど辛い日でも、彼女の笑顔を見れば、余はもっと頑張れる気になった。毎日彼女に会うのが楽しみになり、そして牢獄のような王宮を、愛すべき我が家だと思えるようになった。彼女が、変えてくれたのだ。……余にとって、彼女はただのメイドではない。家族同様……いや、それ以上に。どうしても側にいて欲しい、なくてはならぬ人なのだ。だから」
そして、おぼっちゃまはもう一度、皇帝をまっすぐ見つめると。
はっきりと、おっしゃったのでした。
「どうか、彼女を返してくれ。余の大事な、世界にたった一人の……シャーリィを」
「おぼっちゃま……」
私は、ついに我慢しきれず、ボロボロと涙をこぼしてしまいました。
そんな風に……そんな風に、思ってくださっていたなんて。
ああ。その、お気持ちだけで。
私は、本当に……本当に、お腹がいっぱいです!
「…………なるほど、な」
それを黙って聞いていた皇帝陛下は、そうつぶやくと、どさりと椅子に座り。
がくり、と肩を落として、こうおっしゃったのでした。
「やれやれ……どうやら、子供なのは俺の方であったか。俺としたことが、他国の王の大事な人を奪い取ったなどと、後世に汚名を残すところであったわ」
そして、皇帝陛下はため息を吐くと、私の方を振り返り、静かな声で言ったのです。
「……ラーメンは、もうお前以外でも作れるのだな?」
「はっ……はい! すでに、お城の料理人様たちに、完璧に伝え終わっています!」
「そうか。では」
そう言うと、皇帝陛下は私の背中に手を当て、そっと押し出しながら言ったのでした。
「もう、よい。ご苦労であった。……お前の居場所に、戻るがいい」
そして、遮る者のいなくなった私の前にいるのは……。
「おぼっちゃま!」
「シャーリィ!」
互いに駆け出し、手の触れ合う距離まで近づくと、私たちはしっかりと抱き合いました。
ああ……おぼっちゃま、おぼっちゃま!
「……馬鹿者。どこにもいかぬと、言ったではないか」
「ごめんなさい……ごめんなさい……!」




