再会とラムのピタパンサンド1
そう、そこにいたのは、おぼっちゃま。
私が、見間違えるわけがありません。
サラサラとした、美しい金髪。
すらりと伸びた手足に、優しくも麗しいお顔。
ああ、でも、数カ月前に別れてから、少し身長が伸びて、そして少しお痩せになったようにも見えます。
でも、でも。
そこにいたのは、間違いなく、私のおぼっちゃま!
そして、その後には、ローレンス様やエルドリア騎士の皆様が続いています!
「シャーリィ!」
私の姿を見つけたとたん、おぼっちゃまがそう声を上げ、私の方に駆け寄ろうとしてくださいました。
私も、いてもたってもいられず、おぼっちゃまの方へと。
ですが。
そんな私たちの間を、皇帝陛下が遮りました。
「おっと。いきなりやってきて、ずいぶんと無粋ではないか。……貴様が、エルドリアのウィリアム王、というわけか」
私を背中に隠すようにして、敵意の籠った声を上げる皇帝陛下。
それに、おぼっちゃまが敵意を返す視線で応えます。
「そうだ。余が、エルドリア王ウィリアムである。しかし、まさかお主に無粋呼ばわりされるとはな……フォクスレイの皇帝、アレクシス三世よ。余は何度もシャーリィの安否を尋ね、返還を要求する書簡を送ったはず。それを全部知らぬと答えておいて、これはどういうことだ?」
「むっ……」
おぼっちゃまの鋭い言葉に、皇帝陛下はうめき声を上げました。
書簡、とはお手紙のこと。そうか、おぼっちゃまは私がこの国に連れ去られていると気付いて、ちゃんと連れ戻そうとしてくれてたんだ……!
「証拠がなくては動けなかったが、とある筋から連絡が来てな。シャーリィがこの城にいると確認ができた。他国に仕える者を無理やり連れ去るなど、一国の皇帝のやることではない。皇帝アレクシスよ、シャーリィは連れ帰らせてもらうぞ!」
キリッとしたお顔で、大国の皇帝相手に一歩も引かず言ってのけるおぼっちゃま。
きゃー、おぼっちゃま、かっこいい!! 大好き!!
ですがそこで、憎々し気な皇帝陛下の視線がウルリックに向きました。
「ウルリック……! 貴様か。貴様、兄であるこの俺を裏切ったな。シャーリィがここにいることを、奴に伝えおったな!」
「……悪いな、兄上。俺は、そいつを国に帰すって約束しちまってたんだ。男として、戦士として、そして王族として。俺は、した約束は守る。いくらあんたが皇帝でも、捻じ曲げられないものはあるんだ」
と、どこか悟った表情で言ってのけるウルリック。
どうやらウルリックが密かに手紙を送り、私がここにいるとおぼっちゃまに伝えてくれたようです。
思い切ったことをするものです、あんなに皇帝のことを怖がっていたくせに。
妙なところで男を見せるじゃないですか……まあ、元々あなたのせいだけど!
ああ、でも、だからって私なんかのために、おぼっちゃまが自ら迎えに来てくださるなんて。
嬉しい……嬉しい!
嬉しすぎて、涙が出てきます。
ですが追い込まれた皇帝は、そこで突如として、ニヤリと不敵な笑みを浮かべました。
「……わかった、エルドリアの王よ。俺の負けだ。認めよう、確かに俺は、貴国の者を妃にしようとしていた」
「きっ、妃……!? 馬鹿な! そ、そんな話までは聞いてないぞ!」
と、その発言に酷く動揺した様子のおぼっちゃま。
しっかりして、おぼっちゃま!
そこは本題じゃないです!
「その上で、だ。頼みがある。……あらためて、この者を俺に譲っていただきたい」
「なに? 何を、馬鹿な……!」
おぼっちゃまはそれをすぐに否定しようとしてくださいましたが、それより早く、皇帝陛下が部下に視線を送りました。
すると、部下の兵士さんがすっと部屋の奥に向かい、そして、人が入れそうなほどの大きな箱を運んできます。
「無論、タダとは言わん。対価として、これを差し上げよう」
そう言って、皇帝が開いたその箱の中身は……目もくらむばかりの、宝石や装飾品!
すごっ……これひと箱で、大きなお城が建ちそうなほどです!
うっ、嘘でしょこの人……。
私一人……いいえ、ラーメン一つのために、こんなとんでもない宝の山を支払うつもり!?
控えめに言って、頭がどうかしています!
「……」
「もちろん、これだけとは言わん。貴国と我が国とで、防衛協定も結ぼう。とはいえ、そちらが我が国の戦争に参加する必要はない。こちらが一方的にそちらを守る協定だ。どうだ? たった一人のメイドの対価として、これ以上はあるまい」
そう言って、ニヤリと笑う皇帝。
うわ、本当に最低だこの人……。
この期に及んで、私のことをお金で買えると思ってる……。
でも……でも。
希望をこめて、そちらを向くと。
おぼっちゃまは、すっと目を細め。
そして、静かな声で、こう言ったのでした。
「そうか。皇帝アレクシス。これが、貴方の考える、シャーリィの価値というわけか。……なら。余は、同じだけの宝を、あなたに返そう。それで、彼女は返してもらう」




