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【書籍・漫画化しました!】異世界メイドの三ツ星グルメ ~現代ごはん作ったら王宮で大バズリしました~【旧題・美食おぼっちゃまの転生メイド】  作者: モリタ


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氷の皇帝陛下VS最強麺類7

 それは、前世日本の、高級オフィス街。

 天を衝くほど巨大なビルの中で、バリバリ仕事をこなす敏腕眼鏡サラリーマンの皇帝陛下。


 しかし、飯時になると彼はフラッといなくなり。

 そして、ビルの側にある古ぼけた飲食店へと一人向かうのでございます。

 そう、そこはラーメン店。しかもとびきり濃ゆく、量の多いことが売りの、いわゆる二郎系!


 あっという間に出来上がり、カウンター越しに置かれた、湯気を立てる極上のラーメン。

 それを、彼はそっと受け取ると、至福の表情ですすり始めるのでございます。


 そう、彼はいわゆるラーメンマニア。

 食べ物はラーメンこそが至高、究極、最適解と信じて止まぬ、ラーメンマニア!

 その想像の、あまりにもなハマりっぷりは、まさに天啓と言ってよかったのでしょう。


 おそらく、この方が理想とする食事はこれなんだ、と。

 私は、一人のラーメン好きとして、それを魂で感じ取ったのでございます。

 そう、彼は馬鹿舌なんかではなかった。


 ただ、自分の理想とする味に、今の今まで出会えていない、食の迷い子だっただけなのでございます。


「ああっ、美味い、美味いっ……!」


 眼鏡を曇らせ、狂ったようにラーメンをほおばる皇帝陛下。

 まるで、砂漠でオアシスを見つけた旅人のようでございます。

 そうでしょう、そうでしょう。ラーメン、美味しいでしょう。


 満たされなかった食への欲求。

 どうぞ、存分にお満たし下さいませ。

 誰もあなたを止めたりしませんわ。


 なんて私がウンウンと頷いていると、呆然とそれを見ているウルリックが、小さな声で言いました。


「こ、こんな兄上、見たことがねえ……。兄上が、壊れた……」


 すみません、壊しちゃいました。てへっ。

 まあ、いいじゃないですか。

 本人が、幸せそうなんですから。


 そして、私たちが見守る中、皇帝陛下はどんぶりを手にして、スープの最後の一滴までぐいっと飲み干し。

 そして、どさっと椅子に倒れ掛かると、夢見るように言ったのでした。


「うっ……美味かった……。この世に、こんなに美味いものがあるなんて……。夢のような、時間だった……」


 顔をテカテカ輝かせながら、子供のような笑顔の皇帝陛下。

 ああ、本当に飢えていたんですねえ、口に合うものに。

 本当に、苦労して作ったかいがありました。


 食べたい人に、食べたいものを。

 ラーメン好きを一人増やせて、私も鼻が高いです。

 そして……これから私は、心の中で彼をこう呼ぶことでしょう。


 すなわち、ラーメン大好き『ラーメン皇帝』、と。

 フォクスレイ帝国のラーメン皇帝。

 なんともいい響きですねえ! ウププ。


(はあ、満足したわ。これで、二度と私のおぼっちゃまと、エルドリアを馬鹿になんてさせないからね。ラーメン皇帝)


 なんて、ご満悦の私。

 ウルリックの依頼通り皇帝陛下を満足させられましたし、その氷の仮面も、ラーメンという名の棍棒で粉々にしてやりました。


 これで、国どうしの関係も良好になることでございましょう。

 おぼっちゃまのメイドとしての任務も、個人としての目標も、無事達成にございます!


 後は、ラーメン皇帝がいつでもラーメンを食べられるよう、この城の料理人さんたちに製法をお伝えし。

 それが終われば、いよいよ帰国です!


 ああ、望まぬ旅でしたが、これでようやく終着点。

 みんな。今、シャーリィが戻ります!

 皆にまた会える日が近いなんて、夢のようだわ!


 なんて、私がニコニコ笑顔で喜んでいると。

 皇帝陛下が、よろよろと椅子から身を起こし、私の方を見ました。


「……良いだろう、認めよう。これは……間違いなく、世界一美味い料理だ。見事な……まさに、見事な。まさか、エルドリアのような小国に、これほどの料理があるなど。前の言葉は取り消させてもらう」


「お褒めいただき、恐悦至極にございます」


 それに私はすまし顔、スカートのすそをつまんでお辞儀いたしました。

 料理とは、勝ち負けの道具ではありませんが。

 それでも、価値を認めていただくのは、いつでも気持ちが良いものです。


 やはりラーメンこそが最強……。

 ラーメン、最強。

 ラーメン、最強!


「まったく、まいった。俺は、これから毎日このラーメンとやらが食べたい」

「まあ、それほどお気に入りいただけたのですね」

「ああ。人生が変わった気分だ。だから」


 そう言うと、皇帝陛下はヨタヨタと、私の側までいらっしゃいました。

 あら、なにかご褒美でもくださるのかしら、と私がニコニコしていると、皇帝陛下は何かを握った手をこちらにお向けになりました。


 どんな金目の物かしら、とよく見てみると、それは鉄製の首輪。

 漫画とかで奴隷がよくつけてる、あれでございます。

 それを皇帝陛下は、がちゃり、と私の首にかけられて。


 そして、にっこり怪しい笑みと共に、おっしゃったのでした。


「特別に、お前を俺の専属料理人にしてやろう。今日からお前は、俺のためだけに、毎日ラーメンを作り続けるのだ。──俺の、ラーメン奴隷としてな」


 …………はい?

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