氷の皇帝陛下VS最強麺類6
「なんだ、これはっ……! かつて食べたことのない、もっちりとしつつも風味ある麺に、最高のスープが絡み、渾然一体となってとてつもない味わいを発揮しているっ!! 美味い、美味すぎるぅっ!!」
そう叫びながら、狂ったように麺をすする皇帝陛下。
それを唖然とした表情で見ながら、ウルリックが私に言いました。
「お、おい、シャーリィ、なんなんだよあの麺は? 黄色くて、ウェーブがかかってて、見たこともねえぞ! お前、兄上に何を出した!?」
ええ、ええ。そりゃ、見たことも食べたことなどないでしょうとも。
なぜなら、それは。
「こちら、私特製の中華麺でございます!」
そう、それは中華麺。
それは、この世界に、まだあるかどうかすらわからない品なのですから!
そしてその黄色くウェーブのかかった麺は、本当に、魔法のように美味しいのでございます!
さて、では中華麺の定義とはなんでしょう。
基本はもちろん小麦粉を練ったものですが、それだけでできるのは、白いうどんの麺にございます。
では、なぜ中華麺はうどんとこんなに違うのか。
その秘密は、麺に混ぜられた『かんすい』という物にあります。
かんすいとは、漢字で書くと鹹水。つまり、水の一種。
ではどういう水かと言いますと、それはつまり広義には、塩分を含む水のこと。
そして、中華麺に使われる場合の鹹水とは、古くは塩湖のアルカリ塩水のことを指していたそうでございます。
なんでも昔の中国の方が、とある塩湖の水で麺を作ったところ、コシがあり独特の風味のある麺ができ、それが人気となって広まったのだとか。
やがてそれは日本にも渡り、こちらでも大人気となり、中華麺として流通し始めたのだそうでございます。
と言っても、近代日本では液体だけではなく、工業的に作った同じ効果を持つ粉もかんすいと呼び、代用品として使っていたそうですが。
私が前世で見た映画では、南極でラーメンを作れなくて困っていた料理人さんが、ベーキングパウダーで代用したりしておりました。
とにかく、中華麺を作るには、この液体か粉末のかんすいが必要なわけで。
これが入ってないと、本当にうどんの麺になっちゃいます。
だから、前世の記憶を取り戻した私は、どうにかラーメンを再現するべく、真っ先に塩湖について調べて回ったのでした。
それはもう、父の知り合いに尋ねて回ったり、旅人の方に勇気を出して聞いてみたり。
愛するラーメンのためですもの、正直そこまでの人生で一番頑張りました!
そうして、そのような湖があるらしいと知るや、私は父に人生最大級のおねだりをして、その水を人に汲んできてもらったのでした。
そして、いくつかの水を試し。ある日ついに、私はきちん中華麺ができる湖を引き当てたのでございます!
(ほんと、あの時は苦労したわ。まあこの世界でもラーメンが食べられたんだから、その甲斐はあったけど。……しかし、その湖がこのフォクスレイにあったのは、なにかの因果かしら)
そう、その塩湖はなんと、このフォクスレイの山麓にあったのでございます。
近隣の方々が、奇妙な水の沸く湖として珍重しているそこのお水。
それが、まさに麺を黄色く、風味高い中華麺に仕上げてくれたのでした。
「ああっ、美味い、美味い! 無限に美味い! 馬鹿な、食えば食うほど美味い! ああっ、美味すぎる……!」
なんて私が過去を振り返っている間にも、夢中でラーメンを食べている皇帝陛下。
ちなみに、トッピングにもちゃんと凝ってあります。
まず、目玉となるのはチャーシュー。
とびきりの豚さんを、持ち込んだ醤油などで香ばしく、手間暇かけて仕上げた自慢の品。
前世のラーメン屋では、チャーシューは向こうが見えそうなぐらい薄いものが多かったですが、私的にそれは分厚くなければいけません。
なので、噛み応えがあるサイズに厚切りしてあるのですが。
じっくり火を通したそれは最高に柔らかく、噛んだとたんに甘くて美味しい肉汁がじわっとあふれだし、醤油の香ばしさと相まって、ラーメンの味わいに大きく貢献してくれます。
さらに、メンマ。
これは、先日発見したタケノコで作ってみました。
私特製のラー油で味付けしたメンマは、かじるとコリコリと食感が気持ちよく、程よい辛さでいくらでも食べたくなる出来栄え!
さらにさらに、半分に割った煮卵は、黒くなるまで味を染み込ませ、強いスープに負けないほどの味わいが……。
「あああっ、美味いいい!」
……ま、そろそろいいでしょう。
どうやら、具も何もわからないぐらい、夢中で食べてらっしゃるようなので。
しかし、その姿を見て、私には多少の後悔がありました。なぜかというと。
(……ついに、人に向けて撃ってしまった……ラーメンを)
ラーメン。
それは、私にとって、禁断の技のようなもの。
もう二度と自分以外には出すまいと、一度は誓ったメニューでございました。
それは、なぜかというと……以前、お父様に振舞ったところ。
見事に、ぶっ壊れてしまったからなのでした。
そう、我が父はラーメンの持つ魔性にとりつかれ、すっかり中毒となってしまったのでございます。
「シャーリィ、これ、本当に美味しいなあ! 父さん、毎日でも食べたいよ!」
「シャーリィ。父さんな、今夜はラーメンが食べたいんだ」
「ラーメン。ラーメンが食べたい。頼む、シャーリィ。ラーメン、ラーメンをっ!」
「ラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメン」
ああ、なんということでしょう。
この世界の人にとって、ラーメンとは、あまりに刺激が強すぎる品だったのでございます!
薄い味のお食事が多い中、ラーメンという燦然と輝くこってりの至宝は、逆に世に暗い影を落としてしまうものなのでした!
それからは、毎日毎日、ラーメンばかり食べたがるお父様。
このままでは、健康に悪い(し、取り寄せたかんすいで作るラーメンの値段にお母様が鬼の形相になる)ので、私は泣く泣くラーメンの封印を決めたのでした。
……まあ、王宮に上がってからは、ちょくちょく隠れて自分だけ食べてましたが。
とにかく、それほどヤバい品であるラーメンの封印を、今日、私は解いてしまったのです!
(あなたが悪いのよ、皇帝陛下。あなたが、私を煽るから……。私だって、本当はこんなこと、したくなかった……!)
と、ラーメンに夢中の皇帝陛下を昏い目で見ながら思う私。
ですが、別に復讐心だけでこんなことをしたわけではありません。
私は、幻視してしまったのです……そう、前世の世界で、ラーメンを美味しそうにほおばる、皇帝陛下の姿を。




