氷の皇帝陛下VS最強麺類2
想像と全然違い、まるでゴリラではなかった眼鏡皇帝様。
その雰囲気はやはりどこか冷たく、冬の風を連想させます。
バトル漫画だったら、間違いなく氷雪系能力者ですね。
(それに、想像してたよりずっと若い! この歳で、帝国をさらに大きくしちゃったの!?)
歳は、おそらく二十代中ごろ。
いかにも切れ者といった感じで、その瞳からは強い知性を感じます。
ただ、体は少し痩せすぎで、ウルリックのように運動が得意という風には見えません。
どこか顔色も悪く、栄養が足りてるのか心配になってしまいます。
なんてことを考えていると、そこでお二人が真面目な顔で話を始めました。
「それで? 今回は、どこまで行ってきた」
「はい、兄上。覇王ハロルドの領地を冷やかし、そのままぐるりと南の方を」
「ほう。どうだった、ハロルドは。やはり手強そうか」
「正直に申し上げますと、戦うべき相手ではありませんな。用兵に優れ、兵からの信頼も厚く、そして奇妙な兵器や奇策も使っておるようで。国もよく統治されておりますし、わざわざ遠征したところで、戦って得られるものより、失うもののほうが多いことでしょう」
「ふん……お前がそれほど褒めるとは、やはり大人物といったところか。まあいい、他に取るべき領土はいくらでもある。ひとまず奴とは、適度に距離を置いておくとしよう」
なんて、私そっちのけで、なにやら難しい話をするお二人。
ほとんど意味は分かりませんが、どうやらウルリックは元々、我がエルドリアの隣国を調査するために旅をしていたようです。
そこを治める覇王ハロルド様は、類いまれなる戦上手で知られているとか。
どうやらフォクスレイの王族様から見ても、気になる人物のようでございます。
などという感想を抱いていると、そこで皇帝陛下の視線が私の方に向いて、ドキッとしてしまいました。
「ところで、その、いかにも庶民臭い女は何だ。お前が城に女を連れてくるなど、珍しいではないか」
眼鏡越しに私をじっと見つめながら、そう尋ねられる皇帝陛下。
すると、ウルリックはニカッと笑って、私の背中を叩きながら言ったのでした。
「はい。何を隠そう、こちら、実は兄上へのお土産にございます。こやつは、世にも珍しい料理を作る、珍獣のごとき女。エルドリアの王が特に贔屓にしていた料理人でして、きっと兄上にもご満足いただけると思い、少々借りてまいりました」
……誰が珍獣だっ。
あと、なぁにが借りてきたですか。
勝手にさらってきたんでしょっ!!
そんな失礼なことを、さも得意そうに話すウルリック。
ですが、それに対する皇帝陛下の反応は、お世辞にも良いと言えるものではありませんでした。
「……料理だと? この俺に、料理人を土産として連れてきたというのか」
ふん、と鼻を鳴らしてつまらなさそうに言う皇帝陛下。
その様子は、なんというか……そう、旅の土産として、クマの木彫りだとかキーホルダーだとか。
そういう、あんまり嬉しくないものを貰った時、そのものでございました。
ああ。
なんということでしょう。
私シャーリィ、無理やりさらわれて、お土産にされて、さらにつまらないもの扱いされております!
せめて、北海道土産の白い恋人ぐらいは喜んで欲しいもんですねぇ!?
「はい、兄上は最近特にお食事が進まないご様子。ですので、たまには趣向を変えてみてはどうかと。兄の身を案じる弟の真心、どうぞお受け取りください」
「ふん。お前が俺に健康でいて欲しいのは、そのほうが便利だからだろう。お前の魂胆などお見通しだぞ」
皇帝陛下がそう言うと、ウルリックが、うっ、とうめき声を上げました。
あらら、どうやらあちらはウルリックの下心なんてお見通しのようです。
「だがまあ、いい。弟が土産だというのだ。受け取るのが、兄の度量というやつだろう。エルドリアにも、多少興味はあるしな。いいだろう、そやつに一度食事を出させよ」
「はっ! ……おい、やったな、シャーリィ! これで、光栄にも皇帝陛下に食事が出せるぜ!」
と、嬉しそうな顔で私に言うウルリック。
いや、光栄にも、と言われましても、私は別に出したかったわけではないんですが……。
でも、まあ光栄なのは確かです。
他国の皇帝にお食事をお出しするなんて機会、そうそうあるものではありません。
それに、これがうまくいけば我がエルドリアの覚えもよくなる。
つまりそれは、おぼっちゃまや王宮の皆の役に立てるということです。
なら、がんばらなくちゃっ!
そう考え、私はさらに深く頭を下げ、恐れ入った様子で言ったのでした。
「身に余る光栄にございます。私、全力で務めさせていただきます!」
こうして、私は皇帝陛下にお食事を出すという、重責を担うこととなったのです、けれども……。




