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【書籍・漫画化しました!】異世界メイドの三ツ星グルメ ~現代ごはん作ったら王宮で大バズリしました~【旧題・美食おぼっちゃまの転生メイド】  作者: モリタ


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氷の皇帝陛下VS最強麺類1

新年あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします!

「姉御ぉ! ようやっと、フォクスレイの帝都が見えてきたぜぇ!」

「えっ!? ほんとですか!」


 御者台の傭兵さんがそう声を上げ、それを聞いた私は、ぱあっと顔をほころばせました。

 そのままドタバタと駆けていって幌から顔を出すと、馬車の進むその先には、確かに日に照らされて輝く壮大な都市の姿が!


「うわあ、立派な街っ……!」


 あまりにも巨大なそれを見て、思わず声を上げてしまいます。

 なにしろ我がエルドリアとは違う建築様式の建物たちが、ずらずらと見渡す限り続いているのですから!


 その大きさときたら、エルドリアの王都がすっぽり2,3個ぐらい入ってしまいそうなほど。

 東京ドームに換算すると、ええと……とにかく、たくさんです!


「栄えてるとは聞いてたけど、本当にすごい! これが、北の大帝国の都なのね!」

「へっ、どうだ、大したもんだろ? 近隣諸国全部を見回しても、これほど立派な都はねえぞ」


 ここぞとばかりに馬を寄せてきて、自慢げに言うウルリック。

 確かにすごい都です。フォクスレイは大国とは聞いていましたが、これほどとは!


 ……まあ、それでも人口はおそらく数十万人規模。

わが前世の東京都なんかは、たしか人口1000万人を軽く超えていたので、それとは比べるべくもないですが。


 なんて、心の中でそっと前世マウントをとってしまう私。

 もしウルリックを原宿とかに連れて行ったら、どんな顔をするのか。

 きっと、ぽかんと口を開けてお間抜けな顔をすることでしょう。


 なんて、私が意地悪なことを考えている間に、いよいよ帝都が近づいてきました。

 そこにあるのは、歴史を感じる白壁の建物たちに、よく整えられた石畳、それに独特の香辛料の匂い。


 なんというか、異国情緒あふれる素敵な街並みです!

 文明が発達する未来まで残ったなら、きっと立派な観光名所となることでしょう。


「わっ、わっ、屋台が出てる。美味しそー!」


 大門をくぐり、帝都に入ると、中はかなりの賑わい。

 たくさんの人々が忙しそうに行きかい、商人さんたちが大声で売り込みをかけています。


 そしてあちこちに屋台が立ち並び、お肉や魚を焼く良い匂いが、馬車の中までただよってきました。

 ああっ、いいなあいいなあ、買い食いしたい!


「はいよ、姉御。これ、帝都名物のラム肉の串焼きだ。美味いぜ!」


 すると、私がよだれを垂らしながら見ているのに気づいて、傭兵さんが一つ買ってきてくれました。

 ああっ、妙なところで良い人なんだから、この人たちっ!


 ありがとうございますとお礼を言って、さっそく串に刺さったアツアツのお肉にかぶりつく私。

 すると、独特の辛いソースと、羊のお肉の味が口の中一杯に広がり、思わず笑顔になってしまいます。


「わあ、美味しい! かなり濃い目の味付けだけど、お肉の味と合ってる! これが、フォクスレイの味なのね!」

「ああ、フォクスレイで肉って言えば羊だ。これを強い酒と一緒に食うのが伝統ってやつよ」


 と、自分も串焼きをほおばりながら言うウルリック。

 なるほど、そういうお国柄なんですねえ。

 それと同時に、この国が本当に豊かであることもうかがえます。


 だって、庶民向けの屋台でソースのついたお肉を売ってるなんて、かなりの贅沢ですよこれ。

 庶民がお金持ってないと、なかなか成り立ちません。


 それに、行きかう市民の皆様のお顔も、どこか表情に張りがあり、楽しそう。

 よく戦争をしている悪い国という印象でしたが、少なくとも住んでいる皆様にとっては良い国のようです。


「うーん、この串焼き、本当に美味しいなあ。レシピを覚えて帰って、おぼっちゃまにも食べていただきたいわ」


 あっという間に一本平らげて、そんなことをつぶやいてしまう私。

 そう、せっかく来たのですから、新しい料理の一つも学んで帰りたいものです。

 長く王宮をあけてしまって、手土産もなしでは帰りにくいですし。


 ああ、でもようやくです。

 ようやく目的地に着きました。

 この無理やり旅もようやく折り返し。


 あとはちゃっちゃと皇帝陛下のご機嫌を取って、即座にエルドリアに帰るといたしましょう。

 ああ、もう少し、もう少し!


 とか、私がウキウキしながら考えていると、そこでウルリックが上の方を指さしながら言いました。


「シャーリィ、見ろ。あれが我がフォクスレイ自慢の城だ。完成するのに何十年もかかったんだぜ」


 その言葉につられて、馬車から上に視線を向ける私。

 すると……そこには、小高い丘の上に建てられた、街を見下ろす巨大な城があったのでした。


「うわっ、すごっ!」


 思わず間抜けな感想を口にしてしまいます。

 白い石材で作られた、とっても高く華麗なお城。

 見た感じ、五階建てぐらいはあるでしょうか。たくさんの窓が並び、ツンと伸びた塔なんかが付いているそれを見て、私から出てくる感想と言えば。


「ジブリの映画に出てきそー!」


 ああ、なんて貧困な発想なのでしょう。

 でも、そうなのです。まさにそんな感じなのです。

 時計塔はないですが、こう、怪盗がドタバタ大活劇を繰り広げてそうな感じ。


 石を削って作られた装飾なんかも手が込んでいて、なんだか、スペインにある一生完成しない世界遺産っぽさもあります。

 ……はい、私の語彙では、これ以上の説明は不可能ですね。


 とにかく凄い!


「へっ、どうだ。エルドリアの王宮もまあまあだったけどよ、うちに比べりゃ犬小屋みたいなもんだろ」

「むっ……」


 と、そこでウルリックが余計なことを言ってきて、カチンとくる私。

 確かに規模では負けていますが、正直センスは我が王宮のほうが好きです、私。

 それに、王宮は建物だけではなくお庭も凄く手が込んでいて、なんというか、とっても華やかで素晴らしい環境でした。


 それに比べたら、このお城はなんというか、まさに要塞という感じで、RPGで悪の魔王が住んでいるラストダンジョンっぽいですし。

 中で四天王が会議していて、「奴は我らの中でも一番の格下。面汚しよ」とか言ってそうですし。


 誰が何と言おうと、やっぱり私はエルドリア王宮のほうが好きです!

 ……しかし、そこでふと考えてしまいます、

 私はこれからあんな立派な建物に入って、皇帝陛下にお会いしなきゃいけないのか……。


 なんだか、さすがに緊張します。

 皇帝陛下って、どんな人なのでしょう。

 おぼっちゃまみたいに素敵な人という可能性は……まあないですね。


 ウルリックの兄で戦争大好きな王様だというのだから、どうしても毛むくじゃらでゴリラみたいな顔をした、残虐非道な人を想像してしまいます。


「ぐっふっふ、ワシを満足させられなかった料理人がどうなるか、わかっておろうなぁ!? 全員、スープの出汁にしてやったわ!」

 

 なんて、地の底から轟くような恐ろしい声で言われたら、さすがの私も手が震えて料理できなくなってしまうかもしれません!

 ああ、あんまり怖い人じゃなければいいのですが。


 そんなことを考えていると、そこで御者台の傭兵さんが言ってくれました。


「姉御、俺たちは堅苦しい城が大っ嫌いだからよ、中にはついていかねえ。けどうまくいったら、今度はエルドリアまで送るからよ。しっかりやんなよ!」


 うーん、人をさらっておいて、ここでも妙に優しいことを言ってくるとは。

 本当に、この人たちの考えは私には理解できません。

 ですがまあ、激励してくれてるわけで、一応ありがとうございますと応えようとしたところで、彼が続けて言いました。


「けどよ、フォクスレイに残りたくなったなら大歓迎だぜ。ウルリックの大将もあんたといると機嫌が良いしよ、気が変わったらいつでも言ってくれよな」


 ああ、それはないです。

 確実に。

 半笑いでそんなことを考えている私を乗せ、馬車はお城の入口へとたどり着いたのでした。


◆ ◆ ◆


「おい、シャーリィ、こっちだ。迷子になるんじゃねえぞ」


 ズカズカとお城の中を行きながら、振り向きもせずそう言ってくるウルリック。

 それにどうにか早足でついていきながら、私は思わず声を上げてしまいます。


「まっ、待ってください! このお城、広すぎるでしょ……!」


 お城の入り口で衛兵さんたちに歓迎されたウルリックに連れられ、城内に入ってから十分以上。

 延々と続く廊下を歩き続け、何度も階段を上がり、それでもまだまだ先があるみたいです。


「なんでこんなに大きいんですかぁ! 住むのに、適してなさすぎる!」

「そりゃお前、いざという時に大勢が籠城できるようにだよ。まあもっとも、この帝都にまで攻め込まれたことは、フォクスレイの歴史で一度たりともないけどな」


 と、平気な顔で歩きながら言うウルリック。

 この体力お化けめっ!

 ああ、城内は飾り気がないし、無駄に広いし、それに春なのにちょっと寒いし。このお城はどうにも好きになれません。


 やっぱりエルドリア王宮が一番!

 間違いありません!

 と、私がぜえぜえ言いながら歩いていますと。


 そこで、通路の先から声が聞こえてきました。


「──ウルリック。我が愚弟よ、ようやく戻ったか」


 それは、低い男性の声でした。

 どこか冷たく、つまらなさそうな声。

 驚いてそちらに目を向けると、そこには、脇に紙の束を抱えた、眼鏡の男性が立っていました。


 白に近い銀髪に、切れ長の瞳、そしてほっそりとした体つき。

 とても賢そうで、そしておそらくイケメンと言っていいお顔立ち。

 どれぐらいかというと……もしかしたら、ローレンス様にも負けていないほどなのです。


 知的な男性が好き、という女性なら、むしろこちらの方が好みと言うかもしれません。

 えっ、まさか、と思っていると、そこでウルリックが廊下に片膝をついたので、私も慌ててそれにならいました。


「ご無沙汰しておりました。我が兄、偉大なる皇帝、アレクシス三世陛下。あなたの可愛い弟が、久方ぶりにお顔を拝みにまいりました」

「ふん、相変わらずふざけたやつよ。自分で自分を可愛いと言うやつがあるか」


 どこかおどけた調子で言うウルリックと、不満げに言いながらも怒っているわけではなさそうな眼鏡の男性。

 それを頭を下げたまま聞きながら、私は驚いてしまいました。


 じゃあ、やっぱりこの方が皇帝陛下!?

 そんなっ…そんなっ……。


(この人……ぜんっぜん、ゴリラじゃない!!)


 その瞬間、私の想像の中にあったゴリラ皇帝の図は、ガラガラと崩れ落ちていったのでした。

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