シャーリィと傭兵団と、素敵なアウトドア料理5
「ふわ~あ……。なあ姉御ぉ。こんな朝っぱらに起こして、何のつもりだよぉ。眠いよぉ」
「だから、食材を採りに行くと言ってるじゃありませんか。ほら、シャキッとしてください、シャキッと!」
翌朝。
日が出ないうちから傭兵さんたちを叩き起こし、明かりとスコップを持たせ、私は目的地へと向かっていました。
夜明け前の山は不気味で歩きにくいですが、美味しい物のためなら我慢です。
「なんでこんな時間に、採りに行くんだよぉ。日が出てからでいいだろぉ?」
「日が出てからじゃ駄目なんですー! ……あ、ほら、あそこですよ!」
と、私が指さす先にあるのは、昨日の竹林。
そこに踏み込むと、私は明かりで照らしてもらいながら地面を確認してまわり、そしてとある場所で声を上げたのでした。
「うん、ここだわ! はい、じゃあ皆さん、ここを慎重に掘ってください!」
「掘るぅ? こんなとこ掘ってどうするんだ? まさか、モグラでも獲ろうってんじゃ……」
「モグラなんて食べませんって! いいから、ほら、地中のものを傷つけないように、慎重に掘ってください!」
私がそう急かすと、傭兵さんたちは不満そうにしながらも、掘り始めてくれました。
すると、やがて地中から茶色い物が顔を出して、私は興奮して言います。
「あった、これこれ! これを慎重に掘り出してください! 絶対に折らないでくださいねっ」
「はあ!? これがお目当ての物かよ!? 嘘だろ!?」
と、驚きながらも、丁寧に作業してくれる傭兵さんたち。
そして、地中から掘り起こされたそれを受け取ると、私は感動に打ち震えながら、朝の山に喜びの声を響き渡らせたのでした。
「本日のメイン食材、ゲットー!」
◆ ◆ ◆
「ふあーあ……なんだよシャーリィ、随分早い時間に起こすじゃねえか。朝飯、もっと遅くでもいいのによぉ」
それから数時間後。
すっかり日が出たころにようやく準備が整い、ウルリックを叩き起こすと、奴は腹をボリボリ掻きながら、寝ぼけた様子で言いやがりました。
こっちは、朝っぱらからこいつのために頑張っていたというのに、本当に良いご身分です。
……まあ、王子様なんで、実際に良い身分なんですけども。
「いえいえ、今がこの山で一番美味しくご飯を食べれる時間なのです。一番美味しいものを作れ、とおっしゃったのですから、時間ぐらいは我慢してください」
「ちっ、この俺相手に、相変わらずハッキリ言うやつだ。ま、そういうとこも嫌いじゃねえがな。……んで? 何を食わせてくれるんだ?」
食べ物の話をして胃袋が目覚めたのか、お腹をグーと鳴らして言うウルリック。
ですので、私はニッコリ笑顔で、頑張って手に入れてきたそれをお披露目したのでした。
「はい、本日のメイン食材は、こちら! その名も……タケノコにございます!」
「……」
私が掲げて見せた、茶色いトンガリ。
それを見るウルリックの目は冷たく、そして、やがて呆れた調子でこう言ったのでした。
「……おい。なんだこりゃ?」
「ですから、タケノコです」
「名前の話をしてるんじゃねえよ! 嘘だろ、なんだこの、この……ええい、本当になんだこれ!? 食い物どころか、なんなのかすらわかんねえよ!」
と、ひどく混乱した様子のウルリック。
あー、まあ、タケノコを初めて見たら、感想はそんな感じになるのかもしれませんね。
「ボス、そいつは木の根っこですぜ。地中から掘り返したから、間違いねえ」
「はあ!? 木の根っこ!? マジかよ!」
傭兵さんの一人がそうチクって、ウルリックが信じられないといった声を上げます。
いけない、いきなり悪印象がついてしまいました。なので、私は慌てて訂正します。
「根っこじゃないです! これは、竹という植物がこれから伸びる前の状態です」
「一緒だろ、どっちでも! お前、王子であるこの俺に、そんなもん食わせようってのか!? そんなもん美味いわけないだろ、ふざけんな!」
と、たいそうご立腹のウルリック。
その言いぐさにさすがの私もカチンと来て、思わず言い返してしまいました。
「あら、お言葉ですね。食べてもみないで、美味しいわけないだろなんて。今まで私が、なにか不味いものを出したことがありましたか?」
「えっ、い、いや……そりゃ、ないが……。けどよぉ……」
と、それでも俺は木の根っこなんて食いたくねえと顔に書いてあるウルリック。
ああ、おぼっちゃまはこの私を信じて、たこ焼きまで食べてくれたというのに。
同じ王族でも、やはりこいつとおぼっちゃまでは格が違います、格が。
「はあ、なら別に食べなくていいですよ。ああ、一番美味しいものを用意しろって言うから夜明け前から頑張ったのに。タケノコ、すっごく美味しいのに。そうですかそうですか、ウルリック様はお召し上がりにならないのですね」
「……」
「ああ、こんなに美味しいものをスルーするなんて、本当にもったいない。まあいいです、私と傭兵さんたちで美味しく食べちゃいますから。ウルリック様は、それを蚊帳の外で見てればいいです。勇気のない人用に、簡単な料理を出して差し上げますので。ええ、それはもうわかりやすい、お子様仕様のやつを」
「……だあああああっ! お前、黙ってりゃ好き放題言いやがって! わかった、わかったよ! 食えばいいんだろ、食えば!!」
私からの精神攻撃に耐えられず、ついに折れるウルリック。
うーん、チョロい。
「そうですか、そんなに食べたいですか。じゃあ、特別にご用意して差し上げますね」
「……お前、遠慮がなくなりすぎだろ……。自分の立場を少しは考えろよ、立場を!」
とウルリックがまだなにか言っていますが、知ったこっちゃありません。
私はすでに鍋で火を通し、美味しそうに茹であがっている黄色いタケノコを取り出し、大振りの包丁でザクザクとカットしていきます。
「うーん、良い手ごたえ! 美味しいタケノコは、カットする感触からして良いのよねっ!」
と、上機嫌につぶやきながら、タケノコを刻んでゆく私。
するとそれを見て、ウルリックが露骨に嫌そうな顔をしました。
「やっぱり、どう見ても美味そうには見えねえ。まさか、これをそのまま食えとか言わねえよな?」
「うーん、このまま食べる、タケノコの刺身という食べ方もありますが。本日は、ウルリック様が気に入りそうな調理法でいきましょう」
ちなみに、刺身と言っても、生のままでタコノコを食べてはいけません。
なぜなら、タケノコには毒があるからです。
ただこれは火を通すことで無毒化できるらしく、タケノコの刺身も、刺身と言いつつ事前に必ず加熱してあるものなのでございます。
まあ、ここで毒があるなんて言ったらますます印象が悪くなるので、絶対に言いませんけどね。
なんてことを考えつつ、私は火にかけていた油の温度を確認します。
菜箸を差し込むと、じゅわっと大きな泡が出て、どうやら温度は十分。
下茹でし、小さく切って味をつけたタケノコに、マヨネーズやおろしショウガなどを加えた、私特製のてんぷら粉をまとわせ、そっと油に落としていきます。
すると、じゅわああっという音ともに得も言われぬ良き匂いが広がり、傭兵さんたちがクンクンと鼻を鳴らしました。
「……お、おお? に、匂いだけは……」
「ああ、匂いだけは美味そうだ……。どんな味なんだろ、気になるぜ……」
同時にグーっとお腹の音が鳴って、ああ、なんてわかりやすい人たちなんでしょう。
そうしているうちに、油の中のタケノコが美味しそうな色へと変わってゆきました。
「よしっ、これぐらい!」
そしてベストのタイミングを見計らって、タケノコをすくい上げる私。
揚げ物といえばアンの得意分野でしたが、なに、私だって負けていません。
一番美味しい状態で上がってきた、ホカホカのそれの油をよく落とし、お皿に盛り、隅にお塩を落とし。
私は、それをウルリックの前に差し出しながら、満面の笑みで言ったのでした。
「こちら、朝掘りタケノコの天ぷらにございます! お熱いうちに、どうぞ!」




