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【書籍・漫画化しました!】異世界メイドの三ツ星グルメ ~現代ごはん作ったら王宮で大バズリしました~【旧題・美食おぼっちゃまの転生メイド】  作者: モリタ


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シャーリィと傭兵団と、素敵なアウトドア料理4

「ちょっ、ちょっと! なんでですか!? こんなところでゆっくりする理由なんてないじゃないですか! 早くフォクスレイに行きましょうよ!」


 ここに数日泊まる、などと意味不明なことを言いだしたウルリック。

あまりにも予想外なその言葉に、慌てて反対する私。

ですが、ウルリックは指でぐりぐりと耳をほじりながら、平然とこんな事を言いやがったのでございます。


「理由ならある。俺は、この山が気に入った! それに、よく見たら、自然豊かでいろいろ食い物がありそうじゃねえか。ここの山の幸ってやつで、いっちょご馳走を作ってくれよ。なっ、頼むぜシャーリィ!」


 なっ……なんて馬鹿なことを!

毎日毎日美味しいものを食わせているのに、さらにこんなところで料理をしろと!?


 いくらなんでも、私を便利に使いすぎでしょ!

私はあなたのメイドじゃないんですよ!?

と、心の中でわめきながら恨みがましい視線を向けますが、ウルリックのやつは涼しい顔でそれを受け流すと、にやりと笑ってこう言いやがったのです。


「それとも、自信がねえか? まっ、そうだよな。ずっと王宮に籠もって、届けられた食材で料理を作ってただけのおまえじゃ、自然の食材を自分で調達して調理なんかできねえか。ははっ、悪い悪い」

「……は?」


 ……それが、やっすい挑発であることはわかっていました。

ですが……ですが。

それは、あまりにも聞き捨てならない言葉でした。


 言うに事欠いて、この私が……この、シャーリィ・アルブレラが。

自分で食材ひとつも用意できない、三流料理人だと……!?

ゆっ……許せん……!


「……いいでしょう。その挑戦、お受けしますわ。お申し出の通り、この山のあらゆる美味しい食材を使って、最高のお食事をご用意いたします」


 怒りにブルブル震えながら、絞り出すように言う私。

すると、ウルリックの野郎は、してやったりとばかりに笑みを浮かべました。


「おっ、マジか! いいぞ、じゃあ期待して……」

「ただし!」


 しかしそんなウルリックの言葉をぴしゃりと遮ると、私はくわっと目を見開き、勢いよく続けます。


「もし、私の料理にご納得いただけたなら! その時は、すぐにフォクスレイに向かい、二度と寄り道しないでください。そして、二度と私を馬鹿にしないでくださいまし!」

「おっおう。そりゃもちろん」


 ひるみつつも、私の言葉を受け入れるウルリック。

そこで、私はここぞとばかりに連続で攻撃を仕掛けました。


「それと。追加でなにか、金目の物をください! 売ると高いやつを!」

「あ、ああ。いいぜ」

「あと、『煽ってすまんかった、凄く美味しいです』と言ってください! それと、次の街で高い食材と調理器具を買ってください! さらに……」


「……多い多い! 注文が多いって! お前、ここぞとばかりに調子に乗るんじゃねえよ!?」


 ちっ。

極限までふっかけるつもりだったのに。

まあいいです。


「まったく、油断も隙もねえ……。まあいい。とにかく、勝負といこうぜ」

「わかりました。ただし、もう一つ条件が。私の手伝いとして、傭兵さんたちを貸してください」


「え、ええーっ!? おっ、俺たちも手伝うのかよ!?」


 そこで、ぼけっと私たちのやり取りを聞いていた傭兵さんたちが、寝耳に水とばかりに声を上げました。

おこぼれで美味しい思いができそうだ、とか思ってたんでしょうが、そうはいきません。


「あたりまえでしょう。か弱い私に、一人で森をさ迷わせるつもりですか? 自分たちは、ご飯が出てくるのをボケっと待つつもりです?」

「えっ、いや、それは……」


「それに、ウルリック様以外にも出すには量が必要になります。私一人じゃ、一人分が精いっぱい。まあもっとも、皆さんのボスが一人で美味しそうに食べてるのを、指をくわえて見てるだけでいいのなら私は構いませんが」


「えっ!? そ、そりゃないぜ姉御ー! 手伝う、手伝うから、俺たちにも食わせてくれよぉ!」

「よろしい。では、そういうわけですので。食材の調達は、皆さんの力を借ります。いいですね、ウルリック様?」


「あ、ああそりゃ別にいいが……けどよ、こいつらに勝手に集めさせた食材で調理、なんてのは無しだぜ。それじゃ話が違っちまう」

「それはもちろん。あくまで、私が見つけたものを採ってもらうだけです。じゃあそういうことで、山の調査と食材の調達に一日いただきますから! どうぞ、ご期待あれ」


◆ ◆ ◆


「はー……やれやれ。我ながら、なにやってるんだろう……」


 傭兵さんたちを引き連れて山中を歩きながら、そんな言葉とともにため息をついてしまう私。

まんまと乗せられて、ウルリックと勝負をすることになってしまいました。


 ですが、おぼっちゃまのメイドとして、舐められっぱなしではいられません。

売られた喧嘩は100倍返し。

それが、エルドリア王宮に勤めるメイドとしての、心構えなのでございます。


 なんてことを私が考えていると、そこで傭兵さんたちが不満そうな声を上げました。


「なあ、姉御ぉ。本当に、こんなチンケな山で美味いもんなんて見つかるのか? シカやイノシシとかならいそうだけどよ、正直、姉御に見つけられるとは思わんぜ」


「ああ、一人前の猟師でも、一日で獲物なんてそうは獲れねえ。時期的に、木の実とかもあんまり期待できんぜ。何を採るつもりなんだ?」


 意味もなくウロウロさせられちゃたまらん、と言いたげの皆さん。

そのあたりは大丈夫、私にアテがあります、と答えたところで、ふと私はある事を思い出して、こう尋ねました。


「そういえば、みなさんどうして私のことを姉御と呼ぶんですか? 私は皆さんより年下だし、ただのメイドなのに」


 そう、それがずっと気になっていたのです。

私は捕まった女だし、今の役割は料理係。

立場的にも、もっと偉そうにこき使われても不思議じゃないのに、妙に私を特別に扱ってくれています。


 なんでなんだろう、と首をひねっていると、傭兵さんたちは顔を見合わせ、そしてとんでもないことを言ったのでした。


「なんでって……なあ?」

「ああ。そりゃ、ウルリックの大将の女なんだから、俺たちから見たら姉御だよなあ」


「ぶっ!?」


 あまりにも予想外の言葉に、思わず吹き出してしまう私。

こいつら……言うに事欠いて、誰が誰の女ですって!?


「ちょっと、ふざけないでください! 誰があいつの女ですか! 私、そんなつもり一切ないですから!」

「いやあ。姉御がどういうつもりでも、ボスはそのつもりだと思うぞ」


「そーそー。ありゃ、間違いない。姉御に惚れてるぜ」

「ああ。いくらボスが滅茶苦茶な性格でも、今回はやり口が強引すぎるもんなあ。無理やり連れだして、良い思いをさせてやれば自分に惚れるだろって。きっと、そんな浅いこと考えてるぞあれは」


「ああ。妙に褒めたり、一番の宝をプレゼントしたり、すげえ露骨だもんなー。ほんと、恋愛に関してはウブすぎるぜ大将!」


 なんて、のほほんと馬鹿なことを言って、ゲラゲラ笑う傭兵ども。

こっ、こいつら、なんてふざけたことを……!


(ふざけないで! 無理やり連れ去っておいて、こっちが好きになるわけないでしょ!)


 と、心の中で叫びますが。

もしかしたら、世の中の女性には、アリって人もいるのかもしれません。

そこまで私のことが好きなのね! しかも、イケメンの王子様が! なんて。


 まあ、私は死んでもごめんですけど。


(いや、でも気をつけないと。たしか、誘拐された人のことを好きになるとかいう、心の病気があるって聞いたことがあるし)


 たしか、ストックホルム症候群……だったでしょうか。

聞きかじっただけなので詳しくはありませんが、心を守るためにそういう勘違いをすることがあるのだとか。


 それに、たった一週間とはいえ寝食を共にし、私は彼らと随分仲良くなってきてしまいました。

旅は辛くて苦しいし、早くエルドリアの王宮にも帰りたいですが、私は彼らの名前や性格まで徐々に覚えてきてしまっているのです。


 馴染んで、居心地がよくなってしまっては大変です。

それでは相手の思うつぼ。

とっとと料理を完成させ、有無を言わさず出立し、早くフォクスレイの皇帝様とやらに会わないと。


 そう決意を改めつつ歩いていると、そこで目的の場所が見えてきました。


「あ、あったあった! これよこれ、馬車の中から確認しておいてよかった!」


 それは、馬車で移動中に目についていたものでした。

山の中で異彩を放つ、緑の奇妙な植物。

山を切り裂くようにまっすぐ伸びているそれを見上げて、傭兵さんたちが不思議そうに言いました。


「なんだこりゃ、変な植物が生えてやがる」

「節があって、緑色で……うわ、触ると硬え。でも、引っ張るとしなりやがる。奇妙な木だなあ」


 と、それを揺すりながら言い合う傭兵さんたち。

そんな彼らに、私はにっこり微笑んで、こう教えて差し上げたのでした。


「木ではありませんよ。これは、竹っていう植物です」


 そう。それは竹でございました。

この山には、なぜか一部に竹林ができていたのでございます。

なんでこんなところに生えているのか、まったくもって不思議ですが、まあ植物とはふとしたことで妙な場所に生えるものでございますし。


 竹の生えている無人島もあるそうですし、まあこういうこともあるのでしょう。


「タケぇ……? 聞いたこともねえ名前だ。こんなもんを、どうするつもりだよ姉御?」


 すると、傭兵さんがまたもや不思議そうに言うので、私はふふんと鼻を鳴らしてこう言ってやったのでした。


「どうもなにも、もちろん食べるのです」

「食べるぅ!? こんなものを!? 嘘だろ、どこに食える部分があるんだよ!?」


「ああ、どう見ても食えねえって! 木の皮のほうが、まだ食えそうだ! こんなもん出したら、さすがのボスも怒り狂うぞ!」


 と、途端にうるさくなる傭兵さんたち。

まあ、何も知らないとそう思いますよね。

なので、私はピッと地面を指さすと、したり顔でこう言ってやったのでございます。


「地中です。食べられる部分は、土の中にあるの」

「土の、中だぁ……?」


 と、足元を見ながら、驚きの声を上げる傭兵さんたち。

とにもかくにも、これでメイン食材が確保できそうです。

それに、途中で見た沢には、食材がたくさんいそうでした。


 そう、春先の山には、あちこちに素晴らしい食材がいっぱい。

今こうしている周囲にも、美味しいものがたくさんあると、わかる人間にはわかるものなのです。


 さあ、見てなさい、ウルリック。

私を舐めたことを、たっぷり後悔させてやりますからねっ!!

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