シャーリィと傭兵団と、素敵なアウトドア料理1
「おおい、シャーリィの姉御! 飯だ、飯が足りねえよ! もっとジャンジャン持ってきてくれ!」
「はいはい、ただいま! ああもう、助手さんお願い、これ持っていって!」
旅の最中、お昼時。
だだっ広い草原で、大騒ぎしながら昼食をとっている傭兵どもに催促され。
私は、慌てて大皿に大量のコロッケを盛り、モヒカン頭の方に差し出しました。
すると、私の助手をしてくれている彼は、「あいよっ!」と陽気に応え、軽快に運んで行ってくれます。
「ほいよ、姉御特製のコロッケ、追加お待ち!! ちなみにコロッケはこれで最後だ、食い逃すなよ!」
「なにい!? くそっ、まだ俺は一個しか食ってねえぞ! となると、この皿は俺のもんだ! いただきっ!」
「はあ!? ふざけんな、コロッケはみんなのもんだろうが! こいつばっかりは譲れねえなあ!」
などと、コロッケを奪い合い、またもや大騒ぎの傭兵ども。
ああ、もう、本当にうるさいやつら!
すでに旅を始めて一週間経ちますが、毎日この調子なので、本当に始末に負えません。
「ほんっと、馬鹿みたいに食べるし、底なしに呑むし、注文はうるさいし! なんて手のかかるやつらなのかしら!」
まるで、食べ盛りの子供をそのまま大きく、そして下品にした感じです。
最初は色々と遠慮していた私も、今ではこいつらに気を遣う気にはなれません。
食事係をやらされるようになってから、毎日毎日、本当に苦労の連続です!
ああ、同じ大食漢でも、おぼっちゃまは愛くるしく、食べさせがいがあったなあ……。
こいつらに食べさせていても、猛獣の飼育委員をしてる気分にしかなれないです。
しかも妙に味にうるさくて、手を抜くとすぐ気づくし、同じものばかり出したらぐだぐだと文句を言い出しやがります。
こんな旅先で、毎食毎食美味しいものを作る私の大変さを、少しはわかって欲しいもんですねえ!
「姉御、駄目だ足りねえ! 送り出した料理がもう全滅しそうだ! とくにウルリックの大将が食いすぎだ! 早く援軍を送らねえと!」
「はいはい、わかってます。今最強のリリーフが完成しますからっ! さあ……いでよ、ボブ印のピザッ!」
そう言いつつ、私は焚き火にかけていた、大きなフライパンの蓋をガバっと取りました。
すると、その中あったのは、ホッカホカでトロットロの、具だくさんピザ!
そう、今回はウルリックが旅先の街で良いチーズを買ってくれたので、なけなしのケチャップを投入して、フライパンでピザを作ってみたのです。
トッピングは、カリカリに焼いた塩漬け豚肉と、アスパラガスのバターソテーにしてみました。
「うおおっ、なんだこりゃ、うんまそうな見た目と匂い! たまんねえー! シャーリィの姉御、こりゃまたすげえの出してきたなっ!」
と、フライパンを覗き込みながら、大喜びで言う助手さん。
彼は私の前に料理係をしていたそうで、その流れで助手をしてくれています。
……まあ、料理係と言っても、まともに料理を学んだことはなく、ほとんど肉を焼いたり、スープを煮込んだりしてた程度らしいですが。
「さあさあ、助手さん、ピザはアツアツが一番。さっそく運んでくださいな。次もどんどん焼けますので」
「おうよっ! さあおめえら、姉御特製の、ピザとかいうすんげー美味そうなのができたぜ! 目ん玉かっぴらいて、拝みやがれっ!」
「うおおおおおー! やべえ、なっんて美味そうな食い物なんだッ! ぼっ、暴力的すぎるぅ!」
私が次のピザの焼き加減を見ている間に、わっ、と向こうで歓声が上がりました。
ふっふっふ、そうでしょうそうでしょう。
ピザの見た目は、まさにパワー系。
あれを見て美味しそうって思わない人は、そうはいないことでしょう!
「どれ、さっそく……うンめえっ! なっ、なんだこりゃっ……味はもっと暴力的だああああ! トロットロのチーズに、良く焼けた生地と、甘いソースが混然一体となって、俺の胃袋をガンガン侵略してくる! こりゃあ、食の侵略者だああああああああ!」
……喜ぶのは良いけど、私のピザを、変な褒め方しないでっ!
それは、私とアンとクリスティーナお姉さま、それにボブが力を合わせて作り上げた、傑作中の傑作なんだから!
まあ、とはいえ今回は、以前やったかまど式のピザじゃなくて、フライパン式ですけどね。
そう、何もピザは、かまどだけでしか作れないわけではなし。
フライパンやお鍋でだって、ちゃーんと作れてしまうのです。
でも、やっぱり本格的な石窯で作るのが一番美味しい……と、言いたいところなんですが。
(アウトドアで作るピザも、それはそれで美味しいのよねえー……!)
なんて、うっとりとしてしまう私。
ハイキングやキャンプなどで、野外でご飯を食べると美味しく感じるのは、誰しもが知るところでしょう。
さらに、そこで食べるものがピザとなれば、美味しくないわけがないっ!
その上、今回は焚き火で作っちゃいましたから、そりゃーもう美味しいのなんの。
ただ、焚き火は火加減が難しく、しかもフライパン調理なので、底が焦げちゃわないようにするのはけっこう大変なんですけども。
空気の美味しい草原で、直火でピザを焼くなんていう贅沢、そうそう味わえるものではありません。
私も試作の段階で食べましたが、本当に、さいっこうに美味しいです、アウトドアピザ!
ああ、これが前世の世界で、素敵なアウトドア用品に囲まれつつ、自分一人で楽しんでるピザならもっと最高なんだけどなあ。
なんて、私が焚き火の火力を調整しながら考えていると。
そこで、またもや向こうから叫び声が聞こえてきました。
「うわあ、ひでえっ! ボス、そりゃねえよ! ピザの独り占めなんて、いくらあんたでもありえねえ!」
「うるせえうるせえ! こいつは俺のもんだ! 俺の傭兵団なんだから、メシは俺が好きにしていいんだ! はっはっは! あー、美味え美味え、ピザ美味え! うちの食事係は世界一だなぁ!」
……どうやら、ウルリックの馬鹿が、ピザを全部一人で抱え込んでしまったようです。
はあ……ほんと、ジャイ〇ンみたいなやつですねあいつは……。
なんてことがありつつも、どうにか後続のピザも完成し、皆さんに行き届いた様子。
ようやく、馬鹿みたいに大きい傭兵さんたちの胃袋も落ち着いたようで、一安心。
はあ。今日の昼食も、どうにかやり遂げられたようです。
なんて私が一息入れていると、そこで助手さんが戻ってきて言いました。
「はーやれやれ、すげえ騒ぎだったぜ。いつもは、メシでこんなに盛り上がったりしねえのによ。ほんと、姉御の料理は魔法みたいにすげえ。俺には真似できねえよ」
「あら。そんなことないですよ。助手さん、物覚えは良いし、包丁の扱いも立派なものだもの。ちゃんとレシピを覚えれば、美味しく作れますよ」
「えっ、ほ、ほんとに? お、俺でも、練習すれば姉御みたいに、あんな凄い料理を作れるようになるのか? ま、マジで?」
「もちろん。料理とは、そういうふうにできてますので。よければ、色々教えましょうか?」
「うっ、うーん……正直、自信がねえ。ああ、でも、俺もあんなの作れたら……」
と、私たちが料理の片づけをしながらも、あれこれ語り合っていると。
そこで、馬に乗った傭兵さんがやってきて、大声で叫びました。
「ボス! ボス、伝令だ! 先行部隊からの、伝令!」
「ああん? なんだ、飯時だぞ! くだらねえ報告だったら許さねえぞ!?」
「くだらなくねえって! あのな……」
そして。
傭兵さんは、馬から飛び降りると、にやりと笑い、こう続けたのでした。
「この先の山を、山賊どもが根城にしてるらしい! 道を通るやつらを、手当たり次第に襲ってるってよ!」
「!」
瞬間、たるみ切っていた傭兵団の空気が、一気に引き締まりました。
なごやかに会話していた私も、思わず息を飲みます。
……山賊! 山に潜み、近くを通る人々を襲って、金品を奪う強盗たちのことをそう呼ぶのです。
田舎にはそういう危ない輩がいるとは聞いていましたが、いつのまにかそのテリトリーに入り込んでしまっていたとは!
前世では、道で危険走行をする珍走団にすら、ビビリ散らかしていた私。
それが、もっとおっかない、武器を持って集団で襲ってくる山賊となると、怖くて仕方がありません!
「たっ、大変じゃないですか! 私たちがいるってバレないうちに、急いで迂回しましょう!」
慌てて声を上げる私。
ここはまだ我がエルドリアの領土内のようですが、フォクスレイに抜ける道は、他にいくらでもあるはず。
わざわざ危険な道を通る必要はないわ、なんて思っていたの、です、が。
……なぜか、みなさんは無言で武器を手にすると、ちゃんと使えるか点検を始め。
そして、ウルリックのやつは残っていたピザを口に無理やり放り込み、酒で流し込むと、真面目な顔で言ったのです。
「お前ら、聞いたな? この先に、山賊どもがいるらしい。と、なるとだ」
そして、ぐるりと傭兵さんたち全員を見回し。
やがて、悪魔のような笑顔で叫んだのでした。
「……喜びやがれ! 戦いの、時間だああああ!」
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
……はい?
漫画のほう、パルシィ以外にもPixivコミックや、ニコニコ漫画(水曜日のシリウス)でも掲載が始まっております!
とっても面白いので、ぜひご覧ください!
また書籍のほう、作業も終わりまして、12/28日に発売となります!
加筆修正をし、nima先生の美麗すぎる挿絵も多数ついておりますので、どうぞよろしくお願いします!




