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【書籍・漫画化しました!】異世界メイドの三ツ星グルメ ~現代ごはん作ったら王宮で大バズリしました~【旧題・美食おぼっちゃまの転生メイド】  作者: モリタ


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野蛮王子と傭兵団ととびきりの家庭料理8

 急に、ぽろぽろと涙を流し始めた傭兵さん。

私は驚き、慌てて声をかけました。


「わっ。どうしたんですか? 間違って、からしでも食べちゃいました?」

「いっ、いや、なんか……。これ食ってると、田舎を思い出しちまって……。ううっ、母ちゃん、黙って飛び出してきてごめんよ……」


 と、料理を食べながら言う傭兵さん。

そして、それに続くように、他の方々までもが暗い顔でつぶやき始めました。


「お、俺もお袋の料理を思い出しちまった……。おかしいな、うちの家はすげえ貧乏で、食えるのはいつも野菜の切れっぱし。こんな豪華なメシなんか出たことねえのに……」

「お、俺もだ。具がほとんどない、うっすいスープしか飲んだことなかったのに、このシチューとやらを食ってるとそれを思い出しちまう。俺の故郷は、戦で燃やされてもうねえってのに。くそっ!」


 と、やけくそのように料理を平らげながら、あれこれ言いあう傭兵さんたち。

それを見て、豪快にオムライスを食べていたウルリックが、不思議そうに言いました。


「なんだあ、こいつら? なんで泣きながら食ってやがる。お前、料理になにかしたのか?」

「いいえ、普通に料理をお出ししただけですわ。ただ、それは皆様に、ご家庭の味を思い出させるものだったのでございましょう」


 そう、今日の料理は、家庭料理。

母親が、子供のために作る料理で固めてみました。

もちろんそれは日本での話なので、彼らに、それに対する思い入れがあるわけではないでしょう。


 ですが、家庭料理の神髄とは、つまりそこに込められた愛情。

限られた食材や環境で、少しでも子供に、美味しく栄養のあるものを食べさせてあげたい。


 その気配りは、世界が違えども同じものなのでございます。

それが、きっと彼らの心の琴線に触れたのでございましょう。

そして、それはまさしく私の予想通り。


 彼らを見た瞬間、私は感じたのです。

彼らには、肩ひじ張った料理より、こういうもののほうが絶対に合うって。

どうやら私の勘は、大当たりだったようですね。……まあ、まさか泣くとは思いませんでしたが。


 顔は地獄のようですが、心はピュアな方々なのかもしれません。


「さあ、皆さん料理はまだまだありますよ。たんとお食べ」

「ううっ、ママぁ……」


 誰がママか。

まあ、ともあれこうして、私は好き勝手に作れてハッピー、皆さんは美味しい料理がたらふく食えてハッピー。


 料理の幸福。

そう呼んでいいのではないかと思う、楽しい食事の時間は過ぎてゆき。

そして、皆さんがお腹いっぱい食べたかな、というタイミングで、私はデザートを投入いたしました。


「皆様、こちら食後のデザートにございます。美味しい食事の締めに最適な、素敵なデザート。その名も、プリンにございますわ! ぜひ、お召し上がりください!」

「なにぃ? おいおい、なんだこの軟弱そうなデザートは! こんなものを、泣く子も黙る俺たちウルリック傭兵団に食えって言うのか!」


 と、お皿の上でプルプル震えるプリンを見て、不満そうに吠える傭兵さんたち。

あら、お気に召さないのかしら、なんて考えていると。


「けぇ、なんて情けない見た目だ! スプーンでつつくと、プルンプルン揺れやがる! 上に、サクランボが載ってるのも気に入らねえ!」

「それに、なんだこの甘ったるい匂いは! ありえねえ、俺たちゃ男だぜ、甘いものなんて滅多に食わねえ!」


「だが……今日は、その滅多がある日だ! この黄色い謎のプルプルが、どんな味するのか気になって仕方ねえ! しょうがねえ、食ってやるか! いただきます!」


 ……なんだ、結局食べるんじゃないですか。

あれこれ言い訳しやがって。

と、私が白けた目で見つめていると、彼らはそっとプリンをスプーンですくい上げ、ちゅるんとすすり。


 そして、うっとりとした、情けない表情で叫んだのでした。


「うんっ……めええええええ! 美味すぎるぅ!」

「なんだ、この食感は! 口の中にちゅるんと入り込み、噛む余地もなくとろりと溶けて、極上にして上品な甘みだけが喉を通り抜けていくっ!」


「そしてこの、カラメルとかいう黒いやつが味に変化をもたらし、ただの単純な味で終わらせてねえ! ほっぺがとろけるほどの味わい……ああ、こいつは、天使の味わいだあああ!」


 ……だから、なんで語彙が豊富なんですかね……。

なんて、プリンを心底楽しみ、文句を言っていたてっぺんのチェリーまで、あむあむと楽しんで食べている皆さん。


 まあ、美味しいなら何よりです。

美味しい食事の最後に出てくるプリンって、本当に最高ですからねっ!

アイスとどちらにするかけっこう悩みましたが、プリンにして正解でした。


 そして、ひとしきり楽しみ終わると、みなさんは膨らんだお腹を抱え、椅子にもたれかかって口々に言ったのでした。


「ああ、もう食えねえ。幸せだ……」

「うんまかったなあ……。ああ、美味かった。最高だった……」

「田舎の母ちゃんにも、食わせてやりたかったぜ……」


 なんて、満ち足りて、とろんとした目つきで言う皆さん。

その気持ちは、よくわかります。

私も、前世の母の手料理を食べた後、ソファやこたつでマッタリする時間が大好きでした。


 母親の食事をたらふく食べて、穏やかに過ごす。

人生には、きっとそういう時間が必要なのです。


(まあ、これでとりあえず役割は果たせたようね)


 ウルリックの部下たちをしっかり満足させたのですから、もう文句はないでしょう。

これで大手を振って王宮に戻れますね!と、私がニヤニヤしてると。


 こちらもたらふく食った(特にチューリップ唐揚げがお気に入りだった)ウルリックが、真面目な顔で言いました。


「で? どうだ、お前ら。こいつは合格か?」


 すると、傭兵さんたちは顔を上げ、同じように真面目な顔で答えます。


「ああ、ボス。間違いねえ。この嬢ちゃんは、本物だ。こいつならいけると思うぜ」

「そうか! お前らが言うなら、望みはありそうだな!」


 と、嬉しそうに言うウルリック。

……何の話をしているのでしょう?

私が不思議そうな顔をしていると、そこでウルリックが私の方を向いて言いました。


「おい、シャーリィ。実はな、俺がこの国に来たのは、他でもねえ。兄貴への手土産を探してなんだ」

「兄貴……。王子であるウルリック様のお兄様、って、もしかして……」


「ああ。俺の国フォクスレイの現皇帝、アレクシス三世だ」


 その方については、何度も聞いたことがありました。

若くしてフォクスレイ帝国の帝位を継いだ、冷酷無慈悲な陰険皇帝。

ですが才能にあふれ、フォクスレイを瞬く間に大国へとのし上げた、有能な人物なのだとか。


「兄貴は、俺がよくわからん政治に関して、超がつくほどの有能ぶりでな。俺は頭が上がらねえんだよ」


 と、頭を掻きながら恥ずかしそうに言うウルリック。

なんと。傲岸不遜なこの人も、お兄さんには弱いんですねえ。


「それにな、皇帝の弟って立場は色々と難しい。わかるだろ? 俺は、兄貴に常に気を遣わねえといけねえんだよ」


 それについては、私もよくわかっています。

なにしろ、おぼっちゃまの親戚であるオーギュステに、さんざん引っ掻き回された後ですから。


 王族の兄弟関係とは、とても複雑なもの。

それが弟、しかも戦争で功績を残している、ウルリックのような人物ならなおさらでしょう。


 権力を握る方にとっては、いつ自分の立場が脅かされるか、気が気ではありません。

なので、王様が兄弟を始末してしまう、なんて話はそう珍しいことではないのです。


 日本でも、鎌倉幕府を開いた源頼朝は、弟で、戦争の天才と呼ばれた義経を殺害してしまいましたし。

……まあ、義経はいろいろと問題のある人物だったようですけども。


 とにかく、権力者の家族関係というやつは、いつの世も深刻なものなのでございます。


「なるほど。では、ウルリック様は、お兄さんに献上する美味しいものを探していらしたのですね」

「ああ。まあ、そういうこった」


 つまり、この場は私の作る料理が本当に美味しいのか、部下たちにも確認させるためのものだったと。

なんだ、そうならそうと言ってくれればいいのに。


 ですが、そうなると今度は、お兄さん向けのお土産を用意せねばならないでしょうが。

うーん、それは……なかなか難しいです。


 なにしろ、フォクスレイの首都までは、ここから馬車で二週間以上はかかるといいますから。

それだけの期間無事な料理となると、なかなか選択肢が狭まってしまいます。


 馬車に、塔の魔女ジョシュア特性の冷蔵庫を積めば、いくらかましにはなるでしょうが、それでも何を用意すればいいやら。

アイスならいけそうですが、ウルリックのお兄さんは甘いのいけるのかしら。


 そんなことを私が話すと、ウルリックはにこりと笑って言いました。


「そのあたりは問題ねえよ。運ばなくても、直接うちの宮殿で料理を作りゃいいだけの話だ」

「そちらで、料理を? では、私がレシピをお教えすればよろしいのでしょうか?」


「いやいや、だからそうじゃなくてよ。つまりな……」


 その時。

ふと、私は背後に誰かの気配を感じ。


「──おまえが、兄貴へのおみやげなんだよ。わかるだろ?」


 そして。

突如として……私の視界は、闇に覆われたのでした。


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