野蛮王子と傭兵団ととびきりの家庭料理1
王族どうしの争いに決着がつき、春を迎えたエルドリアの王宮。
城内は平穏を取り戻し、これから続くであろう平和な日々に安堵の空気が漂っていました。
ですが、そんな空気をぶち壊すように、城内を緊張した表情の兵士が駆けていきます。
「ウィリアム王! 大変、大変でございます!」
ウィリアムが仕事に精を出す部屋に飛び込み、膝をついた兵士がそう叫ぶと、ウィリアムがいぶかしげな表情を浮かべました。
「どうした、なんだその慌てようは。何があった?」
「そっ、それが、正門前にとんでもない人物がやってまいりましてっ……!」
そして、兵士はつばを飲み込むと、こう続けたのです。
「北の国、フォクスレイ帝国の第二王子を名乗る者が、王との面会を求めておりますっ!」
◆ ◆ ◆
「よう。邪魔するぜ。いきなりで悪いな」
兵士に案内され謁見室に通された鎧姿の男が、開口一番ぶっきらぼうな口調でそう言いました。
銀色の短髪に、銀色の瞳。歳の頃は、二十歳前後というところです。
キリリと引き締まり、なかなかに整った顔立ちをしていますが、その服は旅で薄汚れ、王族としての気品はあまり感じさせません。
若い傭兵と言われたほうが理解できるその姿を見て、同席していた宰相のティボーが、側に控える兵士へとささやきかけました。
「本当に、王家の一員であることを示す品を持っていたのか?」
「は、はい、フォクスレイの紋章をかたどった見事な金印を……。第二王子ウルリックと名乗っておりますし、いくつか事情にも詳しく、なりすましという線は考えにくいかと……」
兵士の返事を聞き、ウィリアムは少し考えこみました。
フォクスレイ帝国は、軍事力を背景に領土を拡大し続けている軍国です。
その第二王子ウルリックは、野蛮な荒くれ者で、戦地では常に先頭に立ち、戦争がない時はあちこちを放浪して過ごしているとか。
情報とも合致しており、そもそもなりすました者がこんなに堂々と王宮にやってくるとも思えません。
ならば、ここは王族としてもてなすしかないとウィリアムは考えました。
「……ようこそ、偉大なる北の国の王子よ。突然の来訪でとまどっているが、歓迎しよう。それで、我が国に、何用か?」
「なに、たいしたことじゃねえ。この国に新しい王が誕生したってんでな。ちょいとひやかしに」
そして、ウルリックは、にやりと獣のように笑いました。
「後は、そうだな。あんたが、うちの国にとってどういう存在になるかが知りたくてな。正直、こんな良い立地の国を、若い王がちゃんと治められるのか、興味がある」
「……」
それは、ボカしていましたが、実際のところ威圧でございました。
多数の国に囲まれつつも、平和を維持してきた国、エルドリア。
攻め込まれたりしないよう、エルドリアは他国との関係を重視してきました。
どの国ともそれなりに仲良く、かといって深入りはせず。
そういう、多方面の顔色をうかがう政策でやってきましたが、王が代替わりしたことで、いろんな意味でチャンスをうかがっている国は少なくありません。
この男、ウルリックもその一人。
豊かな農耕地と、多数の交易路を持つエルドリアを征服したい国は、いくらでもあるのです。
「ウルリック王子。いくら御身とて、それは無礼ですぞ。我が王の統治を、お疑いになるのか!?」
「おっと、こりゃ失礼。口が過ぎるのが、俺の欠点でね」
さすがのティボーも激高し、口を挟むと、ウルリックは反省の感じられない様子で応じました。
そこには、たかが小国の王というあなどりがあり、ティボーは面白くありません。
「ま、だが実際のところ、大したもんだとは思ってるよ。街でいろいろ噂を聞いたが、みんなあんたのことを褒めてたぜ。賢王だとか、国の宝だとか。街も元気で、活気に満ちている。俺は戦争は得意だが、政務のほうはからっきしでね。その歳で、よくやってる。ちょっと尊敬しちまうよ」
そう言うと、ウルリックはガッハッハと豪快に笑いました。
相変わらず品位の感じられない行動としぐさに、ティボーたちは面食らうばかりです。
「それでな。そのついでに、小耳に挟んだんだが。なんでも、この王宮は美食で有名らしいな」
それは、城下町をうろついている時に聞いた話でした。
なんでも王宮には凄い料理を出すメイドがいて、この世のものとは思えない素晴らしいごちそうをこしらえるとか。
「フォクスレイの料理はどうにもイマイチでな。他国に来たら、食べ歩きをするのが趣味なんだ。ぜひ、その噂のメイドとやらと会って、自慢の料理をふるまってもらいたいもんだね」
「……」
その言葉に、ウィリアムは考え込んでしまいました。
シャーリィのことを言っているのは間違いありませんが、果たしてこのような男の相手をさせていいものか。
味が気に入らなかったら無礼討ち、なんてことを他国の王宮でするとは思えませんが、正直、大事なシャーリィをこんな男の側に寄せたくはありません。
ならば、料理だけ作らせて、隠れているように言わなければ。
「では、望み通り用意させよう。だが、メイドになど会っても面白くはなかろう。どうか、存分にもてなすゆえ、準備ができるまで部屋で待っていて欲しい」
「……ほぉ?」
その言葉を聞いて、ウルリックは不満そうな顔をしました。
ですが、ウィリアムはそれを無視して、兵士に命じます。
「ウルリック殿を、客室にお通ししろ」
「はっ! では、どうぞ、こちらへ!」
そう言って兵士が促すと、ウルリックはウィリアムの顔を見た後、不満そうに鼻を鳴らし、ですが素直にその後に続きました。
部屋から出ていく彼を見送ると、ティボーはふうと小さくため息をつきます。
「やれやれ。たいそうな疫病神がやってきたものだ」
それは、ウィリアムと同じ感想でした。
◆ ◆ ◆
「ちっ、ここの王宮はずいぶんと広いな。歩くのが面倒だ」
「も、もうまもなくです。最高の客室ですので、ごゆっくりとなされるかと」
廊下を案内されながらウルリックが不満を口にすると、兵士が慌てて機嫌を取るようなことを言います。
帝国の第二王子はめっぽう強いことで有名で、暴れられたらたまったものではありません。
猛獣と一緒に道を歩いている気分で、兵士は気が気ではありませんでした。
ですが、そこでウルリックが窓から見える庭を指さして言います。
「おい、あれはなんだ?」
「えっ? あれ、と申されますと……?」
「あれだよ、あれ。ほら」
兵士は何のことかと、窓から身を乗り出して庭を覗き込みますが、なにも目立つようなものは見えません。
「ど、どれのことでしょう?」と、兵士が恐る恐る振り返ると。
──そこにいたはずのウルリックの姿は、もうどこにも見当たらなかったのでした。
「へっ、間の抜けた兵士め。誰が部屋で大人しくなんかしてるかよ」
廊下を駆けながら、ウルリックがつぶやきます。
噂のメイド、それほど興味があったわけではありませんが、隠されると余計気になるのが人間というもの。
「一目見て、料理を作らせてやらんと気が済まん。……おっ、こっちから良い匂いが」
王宮の奥から甘い香りが漂ってきて、ウルリックはまっすぐにそちらへと向かいます。
そして、鼻を頼りに、まんまとメイドキッチンを見つけてしまったのでした。
「おう、邪魔するぜ」
「きゃあっ!?」
背の高いウルリックがぬっと中に入ると、メイドキッチンにいたメイドたちが悲鳴を上げました。
普段女性しか足を踏み入れないメイドキッチンに、粗野な男が急に入ってきたら驚かずにはいられません。
「どっ、どなたですかっ!?」
「ああ、気にするな。ちょいと見学に来ただけだからよ」
視線が集まってきても、ウルリックは一つも気にしません。
そしてキッチンの中を見回して、驚きの声を上げます。
「なんだこりゃ。変わったキッチンだな。うちの国のやつとは、全然違う」
ウルリックが見ているのは、コンロや冷蔵庫。
それは魔女の品なので、他国にないのは当然です。
物珍しさから、あちこち見て回り、ベタベタと触りまくるウルリック。
ですが、その時。
一人のメイドがやってきて、すごい剣幕で叫んだのでした。
「ちょっと、あなた! 困りますわ!」
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