シャーリィと恋と決戦の舞踏会2
「うわあっ……! おいっしい!」
次から次へと出てくる素敵な料理たちに、私は思わず声を上げてしまいました。
魚やエビ、お肉にお野菜を使ったお料理の数々。
それは、前世の世界と比べれば地味なものかもしれませんが、その味は本当に最高でございました。
食材の良さが生かされ、作る人の誠意と情熱が籠もったお料理たち。
このお店が、国一番と言われるのにも納得です!
そして、至福の時間の最後に登場する、デザートの、リンゴのキッシュ。
サクサクな生地とリンゴの甘みが完璧な比率になっていて、一口かじると口の中が楽園と化す、素晴らしい一品でございます!
甘いもの好きのローレンス様も、これには大満足。
私の目の前で、目を細めて幸せそうにお召し上がりになりました。
「素晴らしい味だ。積み上げられてきた、研鑽が感じられる」
「ええ、このリンゴの甘みを完全に理解した上での調整、それに焼き加減。これは完全に職人芸ですわ。私では、まだまだ調理の腕で敵いません」
なんて言いあい、微笑みを交わす私たち。
素敵なお店で、最高の料理を味わい、感想を言い合う。
なるほど、男性と二人で外食ということで緊張していましたが、これは案外悪いものでもありません!
まあ、お相手が、よく知っているローレンス様だからこそ、かもしれませんが。
「失礼いたします。本日は、ご来店ありがとうございました。私、当レストランの料理長にございます」
なんて私が気持ちよくなっていると、そこでコック服の、老齢の男性がやってまいりました。
白いおひげのその方は、穏やかな表情で微笑んでいて、ローレンス様は小さくうなずくと、こうお返事をなさいました。
「とても素晴らしい食事だった。ありがとう」
「こちらこそありがとうございます、ローレンス様。以前、お父上もいらっしゃって、デザートをたいそう褒めてくださいました」
「ああ、話は聞いている。それで居ても立ってもいられなくなり、今日はこうしてやってきたのだ」
なんて言いあい、ははは、と穏やかに笑みを交わすお二人。
わあ、なんだか素敵だなあ、なんて他人事みたいに思っていると、そこで料理長さんがこちらを向き、予想外なことをおっしゃったのでした。
「あなた様も、よくぞおいでくださいました。シャーリィ・アルブレラ様」
「えっ!?」
うそっ、この人、私のことを知ってる……!?
まさか、スパイしにきたことがバレてるの!?
なんて私がドギマギしていると、料理長さんはニッコリ笑い、こう続けました。
「この国の食に携わる者で、あなたのことを知らぬ者など今やおりませんよ。あなた様のお父様であるアラン・アルブレラ様は、今やこの国の大商人。そしてその躍進の陰には、王宮で一大旋風を巻き起こしている娘さんがいると、もっぱらの噂ですから」
「あうっ……」
なんと。
いつのまにか、私ってそんなに有名になってたのかっ……!
たしかに、お父様の商会はいくつもの店を開き、いずれも大繁盛。
私も、多数の貴族様と仲良くさせていただいてる身ですが、まさか知らぬ者などいないと言われるほどとは。
なんて驚いていると、料理長さんはチャーミングにほほ笑み、こうおっしゃったのです。
「実は私も、あなたが考案したというチョコレートを食べてから、すっかりファンになりまして。我が店でも出せないか、必死に研究中なのですよ」
なんと、なんと……。
次から次へと、驚くべきことばかりです。
さすがチョコレート、こんな一流料理人さんまで虜にしてしまうとは!
でも、チョコがこの国の伝統に組み込まれるなら、それはとっても嬉しいことです。
だって、それは今から100年後のどこかの食いしん坊さんに、チョコをお出しできるということなのですから!
ものおじしてる場合ではないと、私はここぞとばかりの常温でのチョコの作り方や、チョコを使った料理のレシピをお伝えしました。
すると、彼はすごく喜んで、「うちの店で食事がしたくなったら、いつでも言ってださい。あなたのためなら、喜んで席をご用意しますよ!」とおっしゃってくださったのでした。
「さすが、シャーリィだ。どこの料理人も、君には一目置いている」
「いえいえ、そんな……。私はただ、見知った料理を共有しているだけですわ」
料理長さんがニコニコ笑顔で厨房に戻って行った後、素直にお褒めの言葉をくださるローレンス様。
照れくさくなった私がそう応えると、彼が真面目な顔で言います。
「レシピがどこかから来た物だとしても、それを美味しく作ったのは君の功績だ。美味しいものを作ろうという、君の誠意。それに、皆は敬意を示すのだよ」
「うっ……」
ちょっと、褒めすぎじゃないでしょうか!?
思わず赤くなって、私は視線を下に向けてしまいます。
まあ、正直、悪い気はしませんけども。
そうして、しばらく穏やかな会話をして、お店を出る私たち。
料理長さんがお見送りしてくださるのに手を振って、馬車に乗り込み、王宮への帰路につきました。
馬車の中のふかふかな座席にちょこんと座り、ふうと満足のため息。
お腹いっぱい、幸せいっぱいです。
そしてふと考えてみると、あれ、今、私って凄い体験をしているのではないでしょうか。
(騎士団長様と超一流レストランに馬車で出かけ、歓迎され、そして王宮に帰る……。わあ、少女マンガの世界みたい!)
気分はほとんどマリー・アントワネットです。
ちなみに、マリーが「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」と言ったというのは、嘘のお話らしいですけども、
まあ私なら、「パンがないのなら、私が美味しいお菓子を作ります!」って言うところですね。
「良い夜だな。シャーリィ」
なんてどうでもいいことを考えていると、窓の外を眺めながら、対面に座ったローレンス様がおっしゃいました。
その視線の先には、夜の街並み。
電気など通っていない街はとても暗く、馬車についた照明と、月や星々、それに家々から漏れているかすかな光だけが頼りです。
ですが、それが逆にロマンチックで、なんだか宇宙を旅しているような気分になるのでした。
「私は……できれば、君とまた何度でも、こんな夜を過ごしたいと思っている」
「ローレンス様……」
こちらを向いたローレンス様が、静かな表情でそうおっしゃい、私は言葉に詰まってしまいました。
確かに、素敵な夜でした。
私も、ローレンス様とまたこういう夜を過ごしたい。
ですが、それは……恋人ではなく、友達として、なのではないか。
咄嗟にそう考えてしまい、私はそっと視線を落としました。
すると、ローレンス様は私の手を取ると、今まであいまいにしていた事実に、覚悟の表情で切り込んできたのでした。
「──君が、何を考えているのかはわかっているつもりだ。ウィリアム陛下のことだろう」
「えっ……!」




