騎士と戦士と宴会料理11
「おかわり! 頼むから、おかわりをくれ!」
「なんだこの酒は……冷えていて、胃に染み渡る美味さだ! ああ、信じられんぐらい美味い!」
「苦くも爽快な、この呑み心地……! まるで天国の味だ! 美味すぎるぅ!」
と、皆様が一斉に騒ぎ出し、慌てて次を注ぐメイドたち。
しかし、注いだそばから飲み干してしまうので、いつまでたっても終わりません。
私も慌ててお偉方に次をご用意しますが、そこで大将軍モーガン様が豪快な笑みでおっしゃいました。
「なんたる味わいだ! こんな酒は、いまだかつて呑んだことがない! 君、これはなんという酒だ!?」
口元に白い泡をたっぷりつけて、目をキラキラと輝かせているモーガン様。
なので、私もニッコリと笑顔を返し、こう答えたのでございます。
「こちら、麦から作った麦酒の一種。その名も、ラガービールにございます!」
私がそう答えると、モーガン様と将軍の皆様は、またもや驚きの表情を浮かべました。
「こ、これが麦酒だと? 確かに色合いは似ているが、私が呑んだことのあるものとは、まるで味わいが違うぞ!」
「左様。麦酒とは、もっと雑味があって、ぬるくて、味がイマイチなもの。こんな、洗練され、冷えており、なおかつおそろしく美味い麦酒など、聞いたことがない!」
そう、それなのでございます。
この国にも麦酒は存在していますが、それはまだまだ未発達な代物。
かなり苦くて、味に深みがなく、あまり美味しくもないものなのです。
この国では、お酒といえばまずワイン。
みんなワインが大好きで、麦酒の肩身はとっても狭く、安いお店で細々と呑まれているのが現状なのでした。
……なんて、語ってみましたが。
私シャーリィ、前世も今世も、お酒はあまり好きではなく。
それはすべて、お父様からの受け売りでございました。
そして、その話の最後に、お父様はこんなことを言ったのでございます。
「酒造業界に参入できれば大きな利益を得られるんだが、すでに主流のワインは利権が固まっていて、入る隙間がない。ああ、誰も知らないような美味しいお酒を作ることができれば、大儲けできるんだがなあ」
そして、私のほうを、チラッチラッ。
いやいや、さすがに我が天才の娘シャーリィでも、お酒までは作れまい。
けど、もしできたら凄く儲かるんだけどなー、どうかなー、と、口にせずとも表情で物語るお父様。
なので、私はすまし顔で言ったのでした。
「ありますわ、お父様。お酒のアイデア。ただ、その権利を私のものにしてくださるなら、ですけども」
そして、さっそくビール作りに着手した私。
さて、なんで私がビールの作り方を知っているかと言いますと。
もちろん、前世で作ったことがあるからなのでした。
そう、自宅でお酒を作ることを『ホーム・ブルーイング』と言いまして。
日本でも、手作りビールキットなどが売っていたのでございます!
えっ、でも日本でお酒って作っていいの?と思うところですが。
日本は、お酒を作ることそのものが禁止されているわけではなく、アルコール度数1%以上のものを作るのが禁じられていただけなのでございました。
なので、それを下回れば問題なし。
そういう、自宅で作る、いわゆるクラフトビールは海外で盛大に盛り上がっていて、家庭で作ったビールがバカ売れし、プロになる方などもいらっしゃったそうです。
おっと、話が逸れました。
とにかく、こうして私は前世の記憶を頼りにビールを作って見せ、お父様を大いに驚かせたのでございます。
その味に、お父様は大満足!
まあ、それはそうでしょう。なにしろそのビールは、発展した酒造技術で作られた、いわば未来のビールなのですから。
そして父は、私のレシピを手本とし、酒造の経験がある方たちを雇い入れ、研究を続けさせていたのでした。
そしてこちら、まさに今、皆様に振舞っているのは、先ほど言った通りのラガービール。
前世の世界で、ラガービールはほぼビールの主流となっていましたが、長いお酒の歴史の中では結構な新参だったらしく。
その理由は、製造工程で冷やす必要があるからなのでした。
本来、冷却施設が整わないと量産は難しいラガービール。
ですが、我が王宮には、ばっちり冷蔵設備があるわけです!
つまり、本来、未来でしか製造できないラガービールは、この王宮で、前世の知識を持つ私と、冷蔵施設を作れる塔の魔女ジョシュアが出会うことで、奇跡的に製造が可能となっていたのでした!
そしてそれは、どうにか今日の日に間に合ってくれたのでございます。
そう……皆様を徹底的に酔わせ味方に取り込む、我が陣営の奥の手として!




