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【書籍・漫画化しました!】異世界メイドの三ツ星グルメ ~現代ごはん作ったら王宮で大バズリしました~【旧題・美食おぼっちゃまの転生メイド】  作者: モリタ


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赤くて美味しい素敵なあいつ5

「えっ、おぼっちゃま、野菜がお嫌いなの!?」


 アガタの言葉に驚いて、オウム返しをしてしまう私。

するとアガタは頷いて、しかめっ面で答えました。


「そう。どれだけ美味しく作っても、決してお召し上がりにならないらしいの! サラダどころか、甘く煮たものとかも、絶対! 混ぜて出したらそれ自体食べないから、全部廃棄することになるってシェフが嘆いてたわよ」


 それは、生産者たるアガタにとっては辛い事実でしょう。

これだけ立派なお野菜を作っても、食べていただけないなんて。


 しかし、あのおぼっちゃまがそのような偏食だとは意外でした。

そういうところは、やはりお子様なんですねえ。


 さて、となるとどうするかですが、まず言っておきます。

私は、嫌いな子に無理やりなにかを食べさせるのは大反対です。

私は大体何でも好きでしたが、学校で給食の時間に嫌いなものを無理やり食べさせられて泣いている子を見るたび、可哀相だなと思ったものです。


 楽しい食事の時間を拷問みたいにされるなんてありえない。

「おぼっちゃま! 野菜は体にいいですよ!」なんて言って無理に詰め込むなんて、私の流儀に反します。


 そう。


「嫌いなら、美味しく食べられるように工夫するのが出す側の知恵よね……!」


 なんて呟いて、ふっふっふと笑う私をアガタが若干引いた顔で見ていました。


「……あんた、なんだか私よりずっと魔女っぽいわね……」


◆ ◆ ◆


「ねえ、シャーリィ。本当にこれを使うつもり?」


 そしてメイドキッチンに戻り、貰ってきたトマトを並べる私に、アンが不安そうな顔で尋ねてきました。


「おぼっちゃまが、野菜を喜ぶとは思えないんだけど……」

「ふふふ、見てなさいって。今からこれが、おぼっちゃまぐらいの年代の子が大好きなものに化けるんだから。さーてと」


 そんなアンに自信満々に答え、そして私は冷蔵庫から例のアレを持ち出します。

そう、私が家から持ち込んだ大量の瓶の、その一つを。


「じゃ、始めましょうか。アンにも覚えてもらいたいから、一緒にやるわね」


 そう言って、コンロに火を灯しその上に水を張ったお鍋を設置。

温まるまでの間に、トマトをよく洗いヘタを取り、十字に切れ込みを入れます。


 お鍋が温まったら、そこにトマトたちをどぼん。

そしてほんの十秒程度火を通したら、すぐに掬って冷水で冷まします。


 すると皮はもう簡単にめくれるので、全部取り除き、中身を包丁でできるだけ細かくざく切りに。

終わったらボウルに移し、同様に細かく刻んだ玉ねぎとにんにくを入れたら……次は、それらを液状になるまでごりごりとすり潰す!


「ああ、またすり潰す作業があるのね……! シャーリィ、あなたの料理はこれが多すぎるわ!」

「我慢よ、アン! 美味しい料理を作るには、筋力が必要なの!」


 泣き言を言いながらすり潰し始めたアンを、一緒にごりごりしながら叱咤激励します。

私だって乙女の腕がどんどん逞しくなるのはごめんなのですが、こればっかりは仕方がありません。


 本当はミキサーがあると楽なんですが、流石にそれは高望みでしょう。

それに、カカオよりはずっと楽なのです。モノが柔らかく潰れやすいので。


 そうして綺麗に液状になったそれを、ぜえぜえと肩で息をしながら鍋に。

火にかけながら中に味付けの砂糖と塩コショウにローリエを投入し、そしてもう一つ。

私特製の瓶の中身を注ぎ入れ、煮立ったら弱火でじっくりと水気を飛ばしていきます。


 そうして完成したのは、真っ赤で粘り気のあるあいつ。

それを二人でぺろりと味見して……アンは本当に驚いた顔をして、そして私は勝利を確信した笑みを浮かべたのでした。


 準備は万端。

お坊ちゃま、明日をお楽しみに。


 ……と、自信満々なのはよかったのですが。

私達は作るのに夢中で、キッチンの向こうからこちらをじっと見つめている視線に、気づくことが出来なかったのでございます。


◆ ◆ ◆


「それでは、本日のおやつタイムを始めます」

「よろしくお願いいたします、おぼっちゃま!」


 メイド長の号令がかかり、メイド全員がおぼっちゃまに頭を下げます。

おひさまがさんさんと中庭に降り注ぎ、心地よい空気の中、今日のおやつタイムが始まりました。


 今日も各班、思い思いのおやつを作ってきていて、どれもこれも美味しそう!

試食したいなあなどと思いつつそれらをチラチラ見る私。


 ですが、ふと気づくと皆様の視線は私達五班のほうに向いているようでした。


「……シャーリィ。あなた、それはなんですか」


 ついにスルーしきれなかったメイド長が質問をいれてきます。

そこで、持ち込んだ七輪で一生懸命細長いアレを焼いている私が答えました。


「もちろん見てのとおり、フランクフルトにございます!」


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