表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍・漫画化しました!】異世界メイドの三ツ星グルメ ~現代ごはん作ったら王宮で大バズリしました~【旧題・美食おぼっちゃまの転生メイド】  作者: モリタ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

185/278

誕生会と暗躍と激映えスイーツ9

 映え。

それは、女たちの戦争、ルール無き格闘技!

激レア、ゴージャス、可愛い、綺麗。


 ありとあらゆる“特別”を一枚の写真に切り取り、それを自分は手にしたぞ、と世界中に見せびらかす、大いなる戦い。

それが映えなのでございます!


 前世の世界ではその主戦場はインターネット、そして武器はカメラ機能でしたが、どちらもこの世界には存在せず。

ですが、問題ありません。


 写真がないのならば、絵に描けばいいだけなのです!


「うそ、宮廷魔女様が描いてくださるの!? わっ、私たちもいいですわよねっ!?」

「あっ、あの方たちだけなんて汚いですわよっ! 私たちも同列に扱ってもらわなければ!」


 なんて、事態に気づいたご令嬢の皆様が詰めかけて、会場は大騒ぎ。

ですが、それにジョシュアは涼しげな顔で応えました。


「ええ、もちろんですとも! ですがこのとおり、ボクは身一つでございます。ですからどうか、順番をお待ちください。その間は、素晴らしきメイドたちが作ったお菓子をぜひ。ボクのお勧めは、こちら、きのこの山でございます。ええ、これがもう、美味しいのなんの!」


 なんて、芝居がかった言い回しでお菓子を薦め、荒れそうな状況を乗りこなすジョシュア。

ご令嬢の皆様も、自分も描いてもらえると知って安堵し、ニコニコ顔。


 穏やかにポッキーやマカロン、チョコラングドシャなど、色とりどりのお菓子を手に取ってくださいました。

そして、その間にも、素早く手を動かし彼女たちの絵を量産するジョシュア!


 さすがとしか言い様がありません。


(でも、ジョシュアは空を飛ぶなんて大仕事を終えた後なのに、働かせすぎかしら)


 なんて、ちょっと心配になる私。

絵の清書は、後で雇った画家の皆さんがやってくれる予定ですが、それでも大変なはず。


 そう思っていると、そこでジョシュアと目が合い、彼女は『大丈夫。任せておけ』とばかりに微笑んでくれました。

どうやら、私が変に心配する必要はないようでございます。


 そして、そこで白いおひげの執事さんがやってきて、そっと私に耳打ちしました。


「失礼。シャーリィ殿。そろそろ、ウィリアム様のお腹が限界ですゆえ、別室にお食事の用意をお願いいたします」


 言われて見てみると、大勢に取り囲まれているおぼっちゃまは笑顔を浮かべていますが、どこかそれはひきつっているご様子。


 まあ、それはそうでしょう。

ご自身の誕生会なのに、挨拶ばかりで自由に食べられず、周りは楽しそう。

そんなの、食いしん坊にとっては拷問に等しいですから!


「かしこまりました。すぐに美味しいものをご用意して、お部屋にお持ちしますわ!」


 ああ、何度やっても、おぼっちゃまにお食事を用意するのは楽しゅうございます。

気合いを入れ直し、私は大盛り上がりの誕生会を抜け出して、メイドキッチンへと向かったのでした。


◆ ◆ ◆


 さて、そうしてシャーリィが忙しく動き出したころ。

同じタイミングで、反ウィリアム派の貴族たちも動き出していました。


「おのれ、まさか足場を崩しても飛んでみせるとは。というか、あんなものが本当に飛ぶとは思わなんだぞ!」

「まったくだ、とんでもないものを見てしまった。人間は、飛んだりしてはいかんのだ。あのような邪悪な魔女は、本当の王が誕生した暁には、処刑していただかねば」


 誰にも聞こえないよう、ささやきあう二人の貴族。

そして、憎々しげに、盛り上がっている誕生会の会場をにらみつけます。


「阿呆どもめ、はしゃぎおって。あのような小僧に愛想を振りまいて、貴族としてのプライドはないのか」

「なに、今だけだ。すぐに笑っていられなくなる。こいつのおかげでな」


 そう言って、貴族の一人がポケットから小瓶を取り出します。

その中には、なにやら透明な液体が詰まっていました。


「特別に用意した、強力な下剤だ。無色だから、証拠も残らん。そうなれば、食い物に問題があったという話になる」

「そうなれば、このくだらん集まりも台無しだ。あのような小僧を祭り上げる馬鹿どもめ、天罰を食らうがいい!」


 邪悪な笑みを浮かべた二人はそのまま別れると、下剤を忍ばせて、そっと料理の側に忍び寄ります。

そして、男の一人がそこに下剤を流し込もうとした、その瞬間。


 ばしっ、と、その腕が何者かに掴まれました。


「なっ……」


 驚いて振り返る男。

すると、そこには……騎士団長のローレンスが、笑顔で立っていたのでした。


「失礼。なにをなさっておいでですか?」

「えっ、いっ、いや、これはっ……」


 まずいとばかりに、とっさに男は下剤入りの瓶を隠そうとしましたが、しかしそれより早くローレンスの手が、さっとそれを奪い取ってしまいました。

慌てて見回すと、もう一人の男も別の騎士に捕まって、青い顔をしています。


「不審な動きをなさっていたので、見張っていて正解でした。さて、こちら、皆様が召し上がるものに、なにを混ぜようとしていたのか。ぜひ、別の場所であなたの口から聞きたいものです」

「きっ、貴様、私は貴族だぞ! こっ、このようなことをしていいと思って……」


「もちろん、よいのです。我が王から、不審物を持ち込んだ者は、位の分け隔てなく捕らえるよう、きつく申し付けられておりますので」


 男は強弁で逃れようとしましたが、ローレンスには通用しません。

そのまま、騒ぎにならないよう静かに男を引きずっていきながら、ローレンスはささやきました。


「先ほどの不可解な足場の崩落も、調べたところ、そもそもの作りに問題があったことがわかりました。なのでさきほど、建築の責任者を捕らえたところです。さて、締め上げれば誰の名前が出てくるやら。そのあたりも、じっくりと調べさせていただきますよ。じっくりとね」 

「ひっ、ひいっ……!」


 絶望の悲鳴を上げる、貴族の男。

その手をがっちりと締め上げて、決して逃がさぬよう連行しながら、ローレンスは部下に指示を出します。


「まだ、なにかを企んでいる者がいるかもしれぬ。いっそう注意して見張るように」

「はっ!」


 まったく、足場の警備はしっかりしていたのに、まさかそもそもの作りに細工を入れてくるとは。

まんまとしてやられたが、これ以上、王の誕生会をどうにかしようなどと許せたものではない。


 ましてや、シャーリィたちの作った素晴らしい料理に悪事を働こうなどと!

これより先、彼女たちの晴れ舞台は、必ず自分が守ってみせる。

シャーリィがまるで気づかないうちに悪党を排除しながら、ローレンスはそう決意を新たにしたのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ