誕生会と暗躍と激映えスイーツ8
昨日は事情により投稿できませんでした。
ごめんなさい!
シュークリーム。
シューとはキャベツのことで、それはキャベツみたいな外見のクリーム入りお菓子、という意味だそうでございます。
プチシュークリームは以前おぼっちゃまにお出ししたことがありますが、大きいものはこれが初めて。
いつか困った時に出そうと思っていた切り札を、私は今日この機会に切ることにしたのでした。
そして、いくつかある種類の中から、その皮に選んだのは……クッキー生地!
プチシューの皮は、プチっとつぶれる感じを重視して柔らかいものにしましたが、大きいほうの皮は私的に断然これ!
カリカリと食感が気持ちいい皮の中から、甘くてとっても冷えたクリームが出てくる。
これが、最高なのでございます!
そう、それは、前世で私が大好きだったシュークリーム屋、『ビアード・パパ』の物を目指したものなのでした。
駅の構内でやばい匂いを垂れ流す、私の最大の友にして最強の敵、ビアード・パパ。
今日は駄目だ、買っちゃ駄目だと何度言い聞かせても、気が付いたら私はシュークリームの入った箱を手に、最高の笑顔で家路についてしまうのでした。
そんな、私の特別なスイーツ、シュークリーム。
これぐらい、異世界でも簡単に再現できるでしょ、と思いきや。
クリームが生ぬるいと、これがまた美味しくないのなんの。
そう、よく冷える冷蔵庫なしには、美味しいシュークリームなど作れないのでございます!
ゆえに王宮に来るまでは、ああ、もう二度とあれを味わえないのね、なんて嘆いたものでした。
「やだ、ほんと美味しい! これ、最高に素敵だわ!」
「ああ、正しく幸福だ。幸福の味だ……」
「これは、王宮でしか食べられないそうだ。今のうちに食べておかねば!」
なんて、大絶賛のシュークリーム。
まあそうでしょうねえ。
人生初シュークリームが、美味しくないわけがないのです!
それはまさしく感動の味。
そして、そんなスイーツたちだけでなく、お食事のほうもたいそうご好評をいただいている様子。
「なんと、これは、未知の味すぎるぞ! なのに、信じられんぐらい美味しい! どこの国の料理か、見当もつかんがとにかく美味い!」
なんて、太っちょ貴族様が大絶賛しながら食べているのは、お好み焼きでございました。
そう、あのお好み焼きでございます!
お祭りならこれがなくちゃ、とシェフの方に作り方をじっくりと教え、鉄板で調理してもらっているお好み焼き。
それは、キャベツがたっぷり入ったふわっふわの生地に、最上級の豚肉や、獲れたて新鮮なカキやイカなどの海鮮を加えた、超デラックス版でございます!
そしてその上にかかるのは、もちろんたっぷりのソースとマヨネーズにカツオブシ!
これで美味しくないわけがない。
じゅわじゅわと音を立てて焼ける、生地とソース。
ふかふか食感とわずかなお焦げ、そして鉄板で焼けた具材のうまみ。
ほんと、お好み焼きって、美味しい要素がとびきりの多重構造になった、最強の存在です!
(たこ焼きでは失敗したからね。最初から、お好み焼きで挑戦しておけばよかったわ)
なんて、お好み焼きに列ができているのを見て、ニコニコしてしまう私。
その隣で焼かれている焼きそばも、大好評のようでございます。
いやあ、立派な服を着た貴族の皆様が、こういう庶民的な料理を喜んでいる姿は、なかなか楽しいものですね!
「ほう、なんと。実に美味しい、これがハンバーガーですか! マクダナウ卿、あなた、こんな美味しいものを出す店を始めるのですか? ああ、羨ましい!」
「左様、左様! これは国を席巻する料理ですぞ! ああ、もちろん店のオープン記念にはお招きしましょう。もちろん、お友達もいくらでも連れてきてくだされ。ハッハッハ!」
なんて考えている間にも、向こうではハンバーガーを囲んだ皆様が大盛り上がり。
先日味方に引き込んだマクダナウ卿が、ここぞとばかりに宣伝を行っています。
他にもピザや唐揚げ、カレーパンなどなど、ここぞとばかりに出した料理はどれも大好評!
すると、ふとそこで、調理にいそしんでいるランチシェフのローマンさんと目が合い。
彼は、顔面に悔しさをにじませてこう言ったのでした。
「ええい、お前の料理ばかり人気で、わしらのものがかすんでおるではないか! うおおお、悔しい、悔しい!!」
そして、ぐぎーっとハンカチを噛むローマンさん。
相変わらず、考えていることがそのまま口から出る人です。
そうは言っても、彼が焼いているお肉もよく出ていますけどね。
「ねえ、こちらにも見たことのないスイーツがあるわ! 凄いわ、夢の中みたい!」
「あああ、どれもこれも食べたくて目移りしちゃう! どうすればいいの!」
「駄目よ、食べすぎたら後で後悔するわよ! ああ、でも食べなくても後悔しそう……!」
なんて、きょろきょろしながらお菓子の中を移動していく、着飾った一団。
クリスピードーナツにパンケーキ、いちごショートにチョコレートパフェ。
一つ一つに目を輝かせ、大盛り上がりの彼女たち。
どうやらそれが名家のご令嬢の皆様と見た私は、そこで用意しておいた作戦に移ることにしました。
すっと手を上げて合図すると、側に控えていた彼女がやってきて、ご令嬢方にこう声をかけたのでございます。
「失礼、お美しい皆様。よろしければ、今日の記念に、私めに一枚描かせていただけませんか?」
「えっ……」
突然話しかけられ、驚きの声を上げるご令嬢。
ですが、すぐにその頬が赤く染まり、感動の声が上がりました。
「まあっ! あなた、先ほど空を飛んで見せた……!」
そう、そこにいたのは、華麗に男装したジョシュアだったのです。
綺麗に化粧を施し、男性ものの服を着たその姿は、まさに絶世のイケメン。
しかも、先ほどみんなの前で凄いパフォーマンスをやってみせたという、有名人補整付き!
「えっ、嘘、私たちを描いてくださるの……?」
「ええ、ぜひ。さあさあ、どうぞお並びください。あ、どうぞスイーツはお持ちになったままで。そのほうが、今日の日の思い出になりますから。ああ、良いですね、素敵です。どうぞそのまま、少しだけじっとしておいてください」
きゃあきゃあと盛り上がる彼女たちに並んでもらい、筆を手にし、キャンバスに向かうジョシュア。
するとその手が、信じられないほど素早く、精密に動き始めました。
「……よし。後に清書いたしますが、このように描かせていただきました。いかがでしょう」
「まあっ、素敵っ……! 素晴らしいわっ!」
ものの数分でその作業は終わり、そう言ってジョシュアが見せた絵に、またもや歓声が上がりました。
それもそのはず、なにしろそこには、かなり美化されて、しかも色とりどりのスイーツを手にした皆様が、素晴らしい技術で描かれていたのですから!
「凄い、凄いわ! あの、これって、一枚だけなのかしら?」
「いえいえ、まさか。同じものを複製させていただき、皆様全員に送らせていただきますとも」
「うそ、本当!? 凄い、嬉しいっ……!」
きゃあきゃあと、大喜びの彼女たち。
それは、ジョシュアと事前に打ち合わせていた作戦でございました。
今日の日を特別にするためにと言って、スイーツとともに彼女たちを描き、渡す。
すると、彼女たちはそれを他人に見せて、大いに自慢してくれることでしょう。
そうすれば、今日この場に来なかった皆様は大いに悔しがり、次の機会には必ず、と考えてくれるのではないでしょうか。
これはそれを目的とした、いわば勝手に宣伝してくれる人を増やす策略。
前世でもネットを通じて大いに活用されていた、アレ。
そう、すなわち……“映え”にございます!




