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【書籍・漫画化しました!】異世界メイドの三ツ星グルメ ~現代ごはん作ったら王宮で大バズリしました~【旧題・美食おぼっちゃまの転生メイド】  作者: モリタ


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誕生会と暗躍と激映えスイーツ7

「チョコレート・フォンデュ・タワー……?」


 私が告げたその名を、オウム返しでつぶやくご令嬢。

そして「チョコレートは聞いたことがあるわ」「じゃあ食べ物なのね」「いえ、飲み物じゃないかしら。コップに汲んで飲むのじゃなくて?」なんて、あれこれ言い合います。


 まあ、見ただけじゃ、どうすればいいのかわからないですよね。

なんて思いながら、私はテーブルの上に置かれていた鉄串を手に取りました。


「お召し上がりいただく方法を、実演させていただきますわ! まず、こちらの中から、お好きな物をお選びください!」


 そう言って私が指し示した先にあるのは、綺麗に盛り付けられた、華麗なるフルーツたち。

ご令嬢はそれらを一望し、少し迷った後、「そうね、イチゴにしようかしら」とおっしゃるので、「はい、承知いたしました!」と応え、私はイチゴを一つ串に刺します。


 そして、皆様が見守る中、それをそっと、タワーから流れ落ちてくるチョコに浸す私。

すると……あっという間に、イチゴがチョコでコーティングされ、実に美味しそうなビジュアルに!


「こちら、こうしてお好きな物にチョコをかけて、召し上がっていただくためのものですわ! さあ、どうぞお試しくださいませ!」


 そう言って鉄串を手渡すと、ご令嬢は最初戸惑っていましたが、やがてチョコとイチゴの合わさった美味しそうな匂いに惹かれた様子で、パクリと一口。

すると、そのお顔が、あっという間にとびきりの笑みを浮かべたのでした。


「やだ、おいっしい……! イチゴとチョコの甘みが合わさって、さいっこうに美味しいわっ!」


 そのまま、チョコのかかったイチゴを、ぺろりと平らげてしまうご令嬢。

幸せそうなそのお顔を見て、ほかの皆様はごくりとのどを鳴らし、一斉にタワーへと群がったのでした。


「私もやってみたいわ、ああ、美味しそう! 私、バナナがいい!」

「私、イチゴとキウイと……いいえ、あるもの全部やってみたいわ!」

「この小さいパンもつけていいのよね? 私、これがいい!」


 なんて、子供のようにはしゃいで、大盛り上がりの皆様。

好きな物を鉄串で刺して、楽しそうにチョコに浸し、同時にパクリ。

そして、その全員が見事に頬を緩められたのでした。


「おいしーい!」


 口々にそう言い、あれが美味しい、これがおすすめと、きゃっきゃと感想を言い合う皆様。

どうやら、こちら大成功の様子。ですよね、チョコフォンデュ、楽しくて美味しいですよね!


 チョコフォンデュとは、牛乳と生クリームを合わせて柔らかくしたチョコソースを、好きな具材に絡ませて食べる、芸術点の高いお菓子。

美味しい以上に、見たらどうしてもやってみたくなる、楽しさ満点の品でございます!


 それは前世で私があこがれ、ですがろくに味わうことなく終わってしまった、後悔の残る品でございました。

だって、ねえ。チョコフォンデュをやってるお店なんて、あっても大体お高かったですから!


 ならばこちらの世界でやってしまえ、とほとんど私情で盛り込んだ品でしたが、予想以上の人気になりそうです。

なにしろ、匂いがいい! あまーいチョコの匂いがする噴水に、どんどん群がる皆様方。


 ちなみに私のおすすめは、ふわっふわのシフォンケーキをフォンデュしてしまうという、超背徳感の高いやつでございます!


「ほんと素敵だわ、これ! ……あら、でもこれ、どうやって上からチョコが噴き出してるのかしら」

「……」


 疑問を口になさるご令嬢に、私は曖昧な笑顔を浮かべただけで応えませんでした。

だって、ねえ。台無しじゃないですか。

……華やかなタワーが乗ったテーブルの下に、実は執事の方が隠れていて、グルグルとレバーを回している、なんてことを教えたら。


 そう、こちらのタワーの仕組みは、超人力。

レバーを回すと、タワーの中央にある装置が、チョコを上までくみ上げるようになっているのです。


 前世の世界では大体電気仕掛けだったのですが、こちらではそうもいかず。

どうしてもこんな、原始的なことをする羽目に。

ただ、チョコを柔らかく保つために、タワーの底には、ジョシュア特製の熱を放つ金属が仕込まれております。もう、技術があるんだかないんだか。


 なんともちぐはぐで、不思議な感じでございます。

ああ、ですが執事の方、どうぞ頑張ってくださいまし。

テーブルの下で、人知れずグルグルとレバーを回し続ける作業は、さぞかしお辛いことでしょう。


 後で、テーブルクロスの下に、飲み物と食べ物を差し入れしてさしあげなければ。

なんてやっている間に、すぐ側から子供たちの歓声が上がりました。


「すごい、これ、不思議ー! どうなってるの!?」


 名家のお子様たちが目をキラキラさせながら見つめる先には、白い糸のようなものを吐き出し続ける装置が。

そして、その前にはメイドの一人が立っていて、レバーを回しながら木の棒でくるくるとそれを巻き取っています。


 あっという間に棒に雲のような塊が出来上がり、メイドがそれを手渡すと、お子様はしげしげと見つめた後、それをパクリ。

そして、驚きの表情を浮かべたのでした。


「美味しい! 甘い! なんでー!?」


 そう、説明するまでもありませんよね? 

それは、わたあめにございます!

ザラメを熱で溶かし、遠心力で糸のように吐き出す、ジョシュア特製のわたあめ機。


 それを棒で巻き取って作る、いとも不思議なお菓子にございます。

正直、しょっちゅう食べたい品ではございませんが、お祭り感を演出するには十分すぎる品。


 子供たちが、僕も私もと詰め寄せ、大盛り上がり。

……ちなみに、それを作っているメイドは、なんとクリスティーナお姉さまでした。


 そう、ちょっと前にお嫁に行った、あのクリスティーナお姉さまでございます。


「はい、只今ご用意いたしますわ。はい、どうぞ。服につけないよう、お気を付けくださいまし」


 お子様相手に、本当に楽しそうにわたあめを配っているお姉さま。

大事な誕生会だから、と応援に駆けつけてくださったクリスティーナお姉さま。

しかしお手伝いに来てくださったのは、別に今日だけではないのでした。


 なんとお姉さまは、嫁に行った後もしょっちゅう王宮にやってきて、私たちの手伝いをしてくださっているのです。

しかし、お姉さまの領地から王宮まで、馬車でほぼ半日がかり。


 来た日は仕事の後に泊まっていって、次の日も朝からお手伝いしてくださり、夕方ごろに帰られるハードスケジュール。

とっても大変そうだし、新婚なのにいいのですか、と尋ねると。


 お姉さまは満面の笑みで、「大丈夫よ、旦那様がいいって言ってくれてるから!」と、おっしゃるのでした。

ああ、お人よしそうなお姉さまの旦那様。きっと、その笑顔はひきつっていることでしょう。


 愛しい奥さんに、ずっと側にいて欲しいでしょうに。

良い人ほど損をする、という世の無常を目撃している気分でございます。

そして、あの涙の別れはなんだったのでしょう、と思わないでもありません。


 ……まあ、また一緒にいれて凄く嬉しいですけどね。

ただ、からかうように私のことを「シャーリィお姉さま」と呼ぶのはやめてくださいまし。


「おおー、なんと、これは美味しい……! 素晴らしい、素晴らしいぞ!」


 なんてあれこれ考えていると、会場のどこかから歓声が聞こえてまいります。

何事かしら、と見に行ってみると、それは新作スイーツを取り囲む貴族様のお声でした。


「ゴツゴツした見た目から、硬いお菓子かと思ったら、中はトロトロで冷たくて実にうまい! これは、本当に素晴らしいぞ!」


 と、白い粉砂糖がかかった、茶色い岩のようなそれを絶賛する皆様。

「君、これはなんというお菓子だ!」 と興奮気味におっしゃるので、してやったりとばかりに私は笑顔でお答えしたのでした。


「はい、こちら王宮発の新作スイーツ。その名も……シュークリームにございます!」

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