誕生会と暗躍と激映えスイーツ6
「ジョシュアッ!」
ジョシュアの体が派手に池に落ちるのを見て、思わず悲鳴を上げてしまいます。
ジョシュアはそれほど泳ぎが得意ではありません。
浮き輪を操縦席に積んでいたはずですが、つけていた様子はありませんでした。
すぐに拾えるよう、兵士さんが乗った数隻の船が待機していたのですが。
飛行機が予想以上に飛んだため、そして、飛行機が落ちた衝撃で水面が大きく揺れたため、まだ近づけずにいるようです。
それでも浮く練習はしていたのですが、水面にはパラシュートが大きく広がっているだけで、ジョシュアの姿は見えません。
まさか、衝撃で気を失ったか、パラシュートが邪魔で浮き上がれないとか……!?
(いけないっ、ジョシュアを助けないとっ!)
頭の中がそれだけになってしまい、それに、走って飛行機を追いかけていた私が一番近いわ、なんて思ってしまって。
気が付くと。私は、メイド服のまま、勢いよく池へと飛びこんでいたのでした。
「シャーリィ!? あんた、なにやってるの!」
遠くでアンが悲鳴を上げているのが聞こえましたが、それどころではありません。
顔を出しながら、必死に泳いでパラシュートが浮かぶ地点に向かいますが……メイド服が水を吸って、なかなかうまく進まない!
ああ、服を着たまま泳ぐのが、こんなに難しいなんて!
(ジョシュア、ジョシュアッ!)
それでも、犬かきで必死に進む私。
ジョシュアになにかあったら、私、生きていけない!
どうか無事でいて、と願うように思っていると。
そこで、水面に勢いよく、ジョシュアの体が浮き上がってきたのでした。
「ぷはっ!」
「ジョシュアッ!」
叫んで、彼女の体にすがりつく私。
どうやら、パラシュートを外すのに手間取っていただけのようです。
すると、ジョシュアは驚いた様子で私を受け止め、そして次に笑顔を浮かべて言ったのでした。
「あははっ! 見たか、シャーリィ! 飛んだ、飛んだぞ!」
「見てたわよっ! 馬鹿、旋回は無理だって何回も言ったでしょ!」
「すまない、ついテンションが上がってしまって。あはははっ! やった、やったぞ! ついに、僕は飛んだぞおっ! あははははははっ!」
抱き合いながら、幸せそうに笑い続けるジョシュア。
これでは怒るに怒れません。
……おめでとう、ジョシュア。
そして、私たちが浮いていられる間に船が来てくれて、兵士さんたちに引き上げてもらい。
私たちは、どうにか岸へとたどり着くことができたのでした。
全身びしょびしょで、まるで濡れネズミのような私たち。
ですが、観客の皆さんは、そんな私たちを拍手で出迎えてくれたのでした。
「凄いぞ、よく飛んだ! 確かに見たぞ!」
「たいしたもんだ、感動した! 凄いぞ、魔女よ!」
「メイドもよく池に跳び込んだ! 大した勇気だ!」
興奮した様子で、全力で褒めたたえてくれる皆様。
ですが……私に対しては面白半分という感じでございます。
勝手に池に飛び込んで、ずぶ濡れのメイド服で姿を現わした私は、さぞかし滑稽に見えていることでしょう。
優雅に礼をしているジョシュアと違い、赤い顔をして突っ立っていることしかできない私。
しかもそこで、おぼっちゃまと目が合ってしまいます。
そのお顔は……予想通り、とっても怒っていらっしゃいました。
『馬鹿者、服のまま飛び込むとは、なんのつもりだ。肝が冷えたぞ!』
表情がそう語っていて、しゅんと小さくなってしまいます。
咄嗟に助けなきゃ、と思ってやったことでしたが、足手まといになっていただけのような……。
むしろ私が勝手におぼれ死ぬ可能性のほうが高かった。
そう思い、ずん、と沈みながらそっと人前を離れると、タオルを手にしたアンが駆けてきて、涙声で言いました。
「馬鹿、あんたが飛び込んでもしょうがないでしょっ! 心配かけないでよっ!」
「ご、ごめん……」
怒られっぱなしでございます。
我ながら、馬鹿なことをしたものです。
久々の大失敗。ですが、すぐにアンは表情をほころばせると、優しく言ってくれたのでした。
「成功して、よかったわね。はやく着替えてきなさいよ。これから、楽しい新作お菓子のお披露目でしょっ」
「……うん!」
そう、いよいよ誕生会本番なのです。
慌てて自室に戻り、体や頭を拭いて服を着替える私。
そして庭に用意された会場に慌てて戻ると、そこはすでに大盛り上がりで、あちこちから歓声が聞こえてきました。
「凄いわ、見たこともないお菓子ばかり! 信じられない!」
「なんだ、この奇妙な料理は? どこの国のものだ……!」
テーブルの上に並べられた、メイド特製のお菓子や料理を驚きの目で見ている皆様。
そして、特に目を引いていたのが。
茶色い何かが流れている、三段重ねの、小さな噴水のようなものでございました。
「なにこれ、何が流れているの……? これ、食べ物……?」
華麗に着飾った淑女の皆様が、それを取り囲み、頭の上に?マークを並べていらっしゃいます。
ですので、私はすっとそちらに向かい。
にこやかな笑顔とともに、こう説明したのでした。
「皆様。こちら、チョコレート・フォンデュ・タワーにございます!」




