クリスティーナお姉さまの結婚9
「私も、賛成ですわ」
「私たちも、異議ありません!」
クラーラお姉さまが、私を一班のメイド頭に、と言ったとたん、他のお姉さまたちまでもが同意の声を上げました。
私は、何が起きているのかわからず、呆然と見ていることしかできません。
「そうですか。では、そのように。異論がある者は、今のうちに申し出なさい」
「ちょっ、ちょっ……ちょっと、待ってください!?」
なんと、メイド長までもがそんなことを言い出し、そこでようやく私は声を上げました。
まずい、このままじゃなし崩し的にそうなっちゃう!
「なんですか、シャーリィ」
「なんですか、じゃありません! おっ、おかしいですよ、皆さん!? 順番的に言っても、格的に言っても、私が一班のメイド頭になるのはおかしいでしょう!?」
そう、それはまったくもっておかしい。
メイドのほとんどは、いまだに私よりもずっとキャリアが長いのです。
それを差し置いて、私が上に行くのはありえないでしょう、と説得を試みる私。
ですが、それはすべて無駄に終わりました。
「私たちがいいと言ってるんだから、いいんだ。クリスティーナの後を任せられるのは、あんたしかいない!」
「ええ、私もそう思うわ。シャーリィ、あなたこそ私たちを指揮するのにふさわしいメイドよ」
クラーラお姉さまとエイヴリルお姉さまがそう言い、すべてのメイドが笑顔でうなずきました。
アンやクロエにサラまでも。
馬鹿な……どうしてこんなことに。
「だっ、だって。そんなこと言われても、私なんておっちょこちょいだし、上品じゃないし、庶民だし。それにそれに……」
「馬鹿、そんなことはいいんだ。私たちはね……披露宴の一件で、みんなが慌てふためいてるときに真っ先に指示を出せたアンタなら、みんなで担ぐのにふさわしいと思ったのさ」
「クラーラお姉さま……」
「それに、あんたはまず自分を犠牲にすることを選んだ。そんなこと、誰でもできることじゃない。あんたは、私たちの頭にふさわしい。胸を張りな!」
まさか、そんな風に考えていてくださったなんて。
お姉さまの気持ちはとってもありがたくて、できればそれに応えたい。
でも、本当に私で大丈夫だろうか……そう考えていると、エイヴリルお姉さまが言いました。
「それにね、あなたの料理はもう私たちの代表なの。それを真似するんじゃなくて、あなたの理想を私たち全員で支える。それが、一番ベストなはず。そう判断したからこそ、あなたを推薦しているのよ」
それに、そうそう、とうなずくみんな。
信じられない思いです。
私のことを、いつのまにか、そんなふうに想ってくれていたなんて。
「それに、あなたはこれからますますおぼっちゃまを盛り立てていくのでしょう。ならば、力はあったほうがいいはず。全てを使って、それを成し遂げなさい。シャーリィ」
「メイド長……」
そして、私に信頼の表情を向けてくれるみんな。
ええ……ええ、わかりましたとも。
この期に及んで、なお食い下がるほど私も愚かではありません。
「……承知、いたしました。まだまだ至らぬ私ですが、全力で勤めます。どうか、みんなの力を貸してください!」
深々と頭を下げてそう言ったとたん、みんながわっと歓声を上げ、拍手を送ってくれました。
その顔に浮かぶ、信頼の表情。
ああ、私は、いつのまにかこんなにみんなに認めてもらっていたのですね。
ええ、やってみせますとも!
おぼっちゃまをお守りし、私たちの場所も守って見せます!
そして!
「そして、これからは今まで我慢していた、きわどい料理やお菓子も頑張っていこうと思います! 皆様、試食、よろしくお願いしますわ!」
そう言った瞬間、皆様の笑顔は凍り付き。
そして、メイドキッチンに「うげえ」「やめとけばよかった」「ありえないわ」という、失望の声が響いたのでした。
さあ、まずはおぼっちゃまの誕生会。
気合い入れて、ご奉仕させていただきますわ!
◆ ◆ ◆
シャーリィたちがメイドキッチンで盛り上がっているころ、
王宮の庭に広がる、巨大なため池。
そしてその横に組み立てられた、木製の巨大な高台。
大嵐にも余裕で耐えた、頑丈な作りのそれの上で、誰かが声を上げました。
「ああ、いよいよだ。いよいよ、時が来た」
両手を広げ、空を見上げるその人物。
それは、塔の魔女こと、宮廷魔女のジョシュアでした。
華麗な衣装を身にまとった彼女は、恍惚とした表情で、劇でも演じるように高らかに宣言します。
「いよいよ……このボクが、大空を華麗に舞う日が来た!」
そんな彼女の側には、二つの翼をもつ、木製のなにかが置かれています。
それは、ウィリアムの誕生会で披露するため、彼女が作り上げた最高傑作でした。
ウィリアムの誕生会を成功させるため、忙しく動き回る王宮の人々。
ですが、そんな誕生会には、大きな波乱が待ち受けていたのですが……それは、次のお話で。




