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【書籍・漫画化しました!】異世界メイドの三ツ星グルメ ~現代ごはん作ったら王宮で大バズリしました~【旧題・美食おぼっちゃまの転生メイド】  作者: モリタ


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クリスティーナお姉さまの結婚6

「ねえ、そろそろ時間がやばいわ! 搬送を始めないと!」


 キッチンに、時間を気にする声が響きました。

たしかに、もう時間はお昼前。

そろそろ披露宴会場に移動しないといけません!


「大変、着替えないと!」

「駄目よ、おめかししてる時間はもうないわ!」

「しょうがないわ、このままメイド服で行きましょう!」


 なんて声が飛び、そういうことになりました。

ああ、披露宴にこのままの格好で行くことになるなんて。

……いえ、むしろ私たちらしいかもしれません!


 そういうことにしておきましょう!


「カートは用意済みよ、調理が終わった物を積み込んで!」


 エイヴリルお姉さまの指示に従い、料理を積み込み始める私たち。

料理はもうほとんど出来上がっていて、後は会場で一部の仕上げと盛り付けをするだけです。


「いいかい、慌ててカートを倒したりするんじゃないよ! メイドらしく優雅に、確実に運ぶんだ!」

「はいっ、お姉さま!」


 クラーラお姉さまの指示に、気合の入った表情で答える私たち。

料理の入った容器をしっかり固定し、全員でカートを押し、いよいよ出陣です!

メイドキッチンから出て、王宮の廊下をお上品に歩き始める私たち。


 そんな私たちに集まる、清掃作業中の皆様の視線。

ああ、やはり心苦しい……と思いましたが、そんな私たちに皆さんが声をかけてくださいました。


「いってらっしゃい! 転ばないよう、気を付けて!」

「どこもピカピカにしておくわ、楽しんできて!」

「いい匂いだ、ごちそうをぶちまけるなよ!」


 ああ、なんて良い人たちなんでしょう。

王宮の皆さん、本当に優しすぎます。

ここに勤めて、本当に良かった。


 そんな皆さんに笑顔で感謝を示しながら、正面入り口を出る私たち。

ですがそこで、段差で私の押すカートが少し揺れてしまい、思わずひえっと悲鳴を上げてしまいました。


「シャーリィ、気を付けてよね! せっかく苦労して焼いたケーキが、崩れたら大変だわ!」

「うん、ジャクリーン!」


 私が押しているカートは、特別製。

他より二回りも大きいカートに、巨大な木箱が載っています。

その中には、特別製の巨大ケーキ。それを、万が一にも汚れないよう周りを囲い、固定して載せてあるのでした。


(中身のアレは繊細過ぎる作りだもの、気を付けないとっ)


 王宮内はともかく、道に出れば凹凸も多いです。

アンが一緒に押さえてくれてはいますが、こいつは本日の料理の主役。

気を付けて運ばないと!


「衛兵様、お伝えしていた通り、メイド一同外に出ますわ!」


 正門にたどりつき、そこに立ってらっしゃる衛兵様にそう声をかける私たち。

ですが、衛兵様は面食らった顔でおっしゃいます。


「ああ、それは聞いてるが……まさか、その格好と荷物で外に行くつもりか?」

「はい、時間がないので! お願いいたします!」


 必死の形相で頼むと、衛兵様は困惑しつつも道を開けてくださいました。

それ急げ、とばかりに表へと出る私たち。

すると、王宮から湧き出てきた私たちを、市民の皆様が奇怪げに見てきました。


 それはまあ、メイド服を着た集団が大荷物を運んでいるのですから。

さぞかし奇妙に見えることでしょう。


「会場はすぐそこだ。だけど、焦ってみっともないところを見せるんじゃないよ」

「はいっ、お姉さま」


 ひそひそ声で言いあい、市民の皆様の前をあくまで優雅に、おしとやかに進む私たち。

その歩みは遅く、またまるで仮装行列のような気分ですが、ここは我慢我慢。


 会場までは、王宮からほんの100mほど。

そこは貴族様御用達の大きなホールで、彫刻などが飾られた、それはもう立派な建物にございます。


 ガタガタ揺れるカートを必死に押さえて、どうにかたどりつくと、会場にはもうすでに大勢の方々が集まっておられました。


「うおっ、なんだ? なにか来たぞ」

「メイド……。ああ、今日の花嫁の同僚か」

「にぎやかなもんだ。だが、まさかメイド服のまま来るとはな」


 なんて声が飛び交う中、深々と頭を下げながら進む私たち。

いずれも立派な服を身にまとった、貴人の皆様のご様子。

若干の気恥ずかしさは拭えませんが、どうやらギリギリで間に合ったようでございます。


 さあ、後はこちらの会場にあるキッチンで最後の仕上げを……。

なんて思っていると、そこで声が聞こえてきました。


「みんな! 来てくれたのね!」

「クリスティーナお姉さま!」


 そう、そこにいたのは、白い花嫁衣裳のクリスティーナお姉さま。

綺麗に着飾ったお姉さまが、出迎えに来てくれたのです。


「うわあ、クリスティーナお姉さま、綺麗……!」


 それを見たサラが、夢見るようにつぶやきます。

それには全く同意しかありません。

元から綺麗なクリスティーナお姉さまが、今日はまさに女神のように輝いています!


「なかなか来ないから、心配していたのよ! 王宮の仕事は、大丈夫なの?」

「はい、お姉さま! おぼっちゃまが、いいから全員で行けって言ってくださいました! 大事なクリスティーナの結婚を、代わりに祝ってきてくれって!」


 駆け寄ってきたお姉さまに、笑顔で応える私。

すると、お姉さまの目元がわずかに潤みました。


「そう、おぼっちゃまがそんなことを……」

「おっと、泣くと化粧が落ちちまうよ! 披露宴はまだ始まってもないんだ、我慢しなクリスティーナ!」


 クラーラお姉さまがおどけてそう言い、どっと笑いが起きました。

気心の知れたメイド同士、暖かな空気が流れます。

ですが、そこでしかめっ面のメイド長がやってきて、お小言を始めました。


「なにをやっているのです、時間ギリギリではないですか。しかも、メイド服のまま慌てて押し掛けるとは。なんとはしたない」

「申し訳ありません、メイド長!」


 慌てて背筋を伸ばし、応える私たち。

ですが、やがてメイド長の表情がふっと和らぎ、優しい声で言います。


「最高の料理を、用意してきたのでしょうね?」

「はい、メイド長!」

「よろしい。では」


 そう言って、メイド長は会場のキッチンを指さしました。


「最高の披露宴にしましょう。仕上げに取り掛かりなさい」

「はい、メイド長!」


 号令とともに、一斉にキッチンへとなだれ込む私たち。

さあ、楽しい披露宴の始まりです!

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