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【書籍・漫画化しました!】異世界メイドの三ツ星グルメ ~現代ごはん作ったら王宮で大バズリしました~【旧題・美食おぼっちゃまの転生メイド】  作者: モリタ


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クリスティーナお姉さまの結婚5

「モップが足りないわ、予備のものも集めてきてちょうだい! そっちの汚れたカーペットは、一度剥がして奥へ! それからっ……」


 みんなにあれこれ指示を出しながら、必死に床を清掃する私。

汚れは予想以上で、雨漏りしているところや、泥水が流れ込んでしまっているところまでありました。


 この国で大きな嵐は珍しいので、そのあたりの対策が甘かったようです。

災害大国日本ならば、考えられないことですね!

……あまり誇れることでもありませんが。


(それでも、どうにかクラーラお姉さまたちだけは調理に回せてよかった)


 今頃、お姉さまたちはメイドキッチンで忙しく調理を行っている頃でしょう。

二班に三班、そして暫定的にそちらに組み込まれていた、元一班のお姉さまたち。

あの方たちには、どうしても披露宴に行っていただかなくてはなりません。


 ただ、どうしても残念なことが一つ。

それは、披露宴で出そうと思っていた大きなケーキ。

それを、諦めねばならないことでした。


(完成形を知っているのは、私一人だけだもの。誰かに任せるわけにはいかないもんね……)


 代わりのケーキを焼くようにはお願いしましたが、本当に残念です。

でも、仕方がない。とにかく、今日一日、みんなの分まで頑張らなくては。

そう思っていると、そこでよく知っている声が聞こえてきました。


「シャーリィ! 人を集めてきたぞ」

 

 それは、騎士団長のローレンス様でした。

微笑む彼の後ろには、屈強な肉体の男性たちが続いています。


「非番の者や、私の知人を集められるだけ集めてきた。ほとんどは表の清掃の応援に取られたが、この者たちは内部の清掃に回そう」

「ローレンス様! 助かります、ありがとうございます!」


「いいんだ。君には、いつも世話になっているから。どこをやればいい?」


 そう言って、チャーミングに笑うローレンス様。

ではこちらをお願いします、と地図で説明すると、わかったと答えて颯爽と行ってくださいました。


 ああ、なんて頼りになる方なんでしょう。

私じゃなければ、惚れてしまうところかもしれません!

なんてどうでもいいことを考えていると、そこでまた知っている声が聞こえてきました。


「シャーリィ! 応援に来たわよ!」

「ジャクリーン! 来てくれたのね!」


 そう、颯爽と廊下をやってきたのは、元四班のメイド頭、ジャクリーンでした。

今は街で、ネイルアートの仕事をやっているジャクリーン。

そんな彼女に、人を送って応援をお願いしていたのです。


「ごめんね、店で忙しいでしょうに」

「大丈夫よ、今日は予約がなかったから店を閉めてきたわ。それより、私はなにをやればいい?」


「うん、今、メイドキッチンでみんなが披露宴の食事を作っているの。その応援をお願い!」


 元々は、仕事を早く終わらせて、私たちも調理に加わるはずだったのです。

手が足りず、今は大変なことになっているはず。

熟練した料理人であるジャクリーンが手伝ってくれれば、かなり助かるはず!


「それはいいけど……あんたは、いいの?」

「うん。大事なのは、料理をお出しすることだもの。それだけで、お姉さまに私の気持ちは届くはずよ」


「……そう、わかった。任せておいて」


 そう言って、ジャクリーンはメイドキッチンに向かってくれました。

よし、これで清掃に集中できるぞ、と思った矢先。

そこで、さらに人がまいりました。


 なんとそれは、ローレンス様のお父様であるセドリック様!


「やあ、シャーリィ。この前はまた甘い物を送ってくれてありがとう。息子に言われてな、応援に来たよ」


 その後ろには、年配の頼りになりそうなおばさまたちが。

どうやら、セドリック様のお家に勤める方々のようです。


「セドリック様、ありがとうございます! でも、そちらのお宅も嵐で大変だったのでは……?」

「なに、うちは大した被害もなかったし、急ぎでもないからかまわん。それと、君のお父上から、掃除のプロを何人か預かってきた。後でお礼を言っておくといい」


 お父様……!

ああ、なんて気が利く大人たちなんでしょう。

ありがたくて涙が出そうです。


なんにしろ、これで手が足りました。

これでなんとか、お姉さまたちの穴は埋められることでしょう。

後は私が頑張るだけ!


 と、気合を入れていると、またもやよく知った声が飛んできす。


「シャーリィ! お主、何をしておる?」

「えっ……おぼっちゃま!?」


 そう、そこにいたのはおぼっちゃま。

執事さんと護衛を連れたおぼっちゃまが、そこには立っていたのです。


「今日は、クリスティーナの披露宴であろう。大事なお主が、こんなところでなにをしておるか」

「あっ、でも、その、おぼっちゃま……」


 慌てて状況を伝える私。

調理にはすでに人を割いていて、私はメイドの代表として王宮の維持に努めております。


 そう言うと、おぼっちゃまは珍しく怒った顔をなさいました。


「馬鹿者。何を遠慮しておるか。余の名において命じる。メイドは全員、披露宴の準備に注力せよ」

「えっ、で、ですが……」


 掃除以外にも、おもてなしなどの仕事が……。

そう考えていると、執事さんが笑顔で言ってくださいました。


「雑務は、私ども執事がなんとでも。なに、メイドの皆様のためならば、みな喜んで働きますとも」

「執事さん……」


「そういうことだ、シャーリィ。……余も、本当は顔を出したいのだが、王という立場ゆえ、そうもいかぬ。まったく、面倒なことだ」


 そう言うと、おぼっちゃまは私の手を取り、私の目を見ておっしゃったのでした。


「クリスティーナには、余も世話になった。あやつのパンやおやつは、余にとって思い出の味だ。いなくなるのは寂しいが……どうか、余の分まで存分に祝ってやってくれ」

「……はい!」


 ああ。

なんて、心優しくも頼もしい殿方たちなのでしょう。

みんなして、こうして私たちを助けてくださる。


「さすがの人徳ね、シャーリィ! さあ、お言葉に甘えていきましょう!」

「うん、アン!」


 ありがとうございます! と、声を張り上げ。

私は皆さんの微笑みに見送られながら、アンたちと廊下を急ぎます。


 クリスティーナお姉さまと何度も一緒に通った廊下を通り過ぎ。

毎日を共にしたメイドキッチンへ。


 そうして、勢いよく扉を開けると……メイドの皆が振り返り、笑顔で出迎えてくれました。


「来たね、シャーリィ! きっと来ると思ってたよ」


 クラーラお姉さまがそう言い、くいっ、と後ろを指さして続けます。


「さあ、作るんだろ……とびきりのケーキを、さ!」


 それに、私は満面の笑みを返すと、元気な声で答えたのでした。


「はいっ! 最高のケーキを作ります……みんな、手を貸して!」


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