クリスティーナお姉さまの結婚3
「うわっ、凄い嵐。本当に、明日の披露宴は大丈夫かしら……」
メイドキッチンの窓から外を見て、アンが不安そうにつぶやきました。
クリスティーナお姉さまの結婚が決まって、はや一か月。
明日は、王宮の近くにある会場で、お姉さまの結婚披露宴が開かれることになっているのでした。
かなり急な話ですが、情勢が情勢ですし、花嫁の気が変わる前にとりあえずあげてしまおう、と急遽決まったらしい披露宴。
それは、王都で一回、そして花婿様の領地で一回行うらしいです。
ですが、なんと前日である今日は大嵐!
雷鳴がとどろき、雨が激しく窓を叩く、あいにくの天気となってしまいました。
「困ったわね。明日には晴れてくれるといいのだけれど」
「クリスティーナお姉さまの門出の日に、これじゃ困るわ」
明日の仕込みをしながらも、不安そうな皆。
そんな弱気を跳ね返すように、二班のクラーラお姉さまが声を上げました。
「ほらほら、心配しててもしょうがないだろっ。明日は、日常業務と一緒に披露宴の食事まで出すんだ。ボケっとしてたら、時間がいくらあっても足りないぞ。さあ、働いた働いた!」
そう、なんと明日の披露宴。
クリスティーナお姉さまの希望もあって、お食事を私たちメイドに任せてもらえることになったのでした。
ですがもちろん、メイド全員が仕事を休むなんてことはできません。
でも、できれば全員でお祝いをしたい。
なので、協力して王宮でのお仕事を早く終わらせ、時間を捻出し、それからみんなで披露宴にいく予定になっていたのでした。
「大丈夫よ、クリスティーナの大事な日だもの。晴れるに決まっているわ。みんな、心配しないで美味しいものを作りましょう。ねっ」
三班のエイヴリルお姉さまも、不安そうなみんなを鼓舞してくださっています。そうよね、きっと大丈夫。
そう信じて、その日は大量の仕込みを終え、雨音と雷鳴にビクつきながらも眠りについたのでした。
◆ ◆ ◆
そして、翌朝。
日が昇ってみると、外は快晴!
やったわ、最高の披露宴日和!
……と、思ったまでは、よかったのですが。
「……なんじゃあ、こりゃあ!」
王宮の入口の様子を見たとたん、私はそう叫んでしまったのでした。
強風で木が倒れ、あたりは葉っぱまみれ、そして飛んできたゴミまみれ。
美しい王宮が、ひどい有様です!
しかも、それだけではありません。
あちこちから、嵐の被害を伝える声がどんどん上がってくるではありませんか!
「まっ、窓が割れて中までびしょ濡れだわ! カーペットが、台無しよ!」
「池の水があふれて、泥で汚れ放題よ! 道がひどい有様だわ!」
「馬たちがおびえて、何頭か逃げ出したって! 汚れた蹄で、あちこち走り回ってるわ!」
ひええええええっ……。
なんということ……なんということ!
ただでさえ忙しいのに、信じられないほどの被害です!
メイドたる私たちは、それらをすべて掃除せねばなりません。
もちろん、広い王宮を私たちだけで掃除しているわけではなく、執事さんや侍女の皆様以外にも、庭師や掃除係の方々がいらっしゃいます。
ですが、それを総動員しても、これを復旧するのにどれぐらいかかるか。
そして、そんな中、私たちだけが王宮を留守にするなんてことはできない……。
メイド全員の顔から、血の気が引きました。
これじゃあ……とてもじゃないけれど、クリスティーナお姉さまの披露宴に、全員で行くなんてできないわ!




