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【書籍・漫画化しました!】異世界メイドの三ツ星グルメ ~現代ごはん作ったら王宮で大バズリしました~【旧題・美食おぼっちゃまの転生メイド】  作者: モリタ


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お嬢様と宰相と、とびきりの滋養食6

 うな重を口にしたとたん、美味いぞー!と、大声を上げた宰相ティボー様。

やがてうっとりとした顔をすると、つらつらと感想を口にしてくださいました。


「肉厚なのに、なんというふんわりとした口当たり。だが柔らかすぎるわけではなく、ちゃんと噛む楽しみがあり、また一口噛みしめるごとに、うなぎの美味しさがこれでもかと飛び出してくる! それが、たっぷりとかかった謎のソースと混然一体となって、極上の味わいを発揮している……素晴らしい! 素晴らしいぞ!」


 うーん、良い反応です。

王宮の皆様は反応が大人しいことが多いのですが、この方は盛大に喜びを表現してくださって、なんだか新鮮な気分。


 王宮に上がってきた極上うなぎを炭火でじっくりと焼き、何度もたれをくぐらせ、ふっくらと仕上げたこちらの品。

それは、抜群の味わいと匂いによって人を引き付け、魅了してやまない至高のごちそう。


 うなぎのかば焼きは、異世界においても最高の破壊力を発揮してくれたのでした。


「うん……? 君、この下に敷き詰めてあるのは何かね」


 ですがそこで、うなぎの下から飛び出したものを見てティボー様が不思議そうにおっしゃいます。

ですので、私はにっこり微笑んでお答えしました。


「ティボー様、そちら、米にございます! 東方の民族が主食としている穀物で、健康に大変よろしいと言われておりますわ! うなぎと一緒に食べるためのものでございます!」

「ほう、コメというのか。何とも奇妙な見た目をしているな……」


 と、タレがたっぷりとしみ込んだお米を見て、若干困った様子のティボー様。

たしかに、パンが主食のこの国では奇妙に見えることでしょう。

ですが、そこで夢中になってうな重を食べ進めていたおぼっちゃまが、顔を上げて自慢げにおっしゃいました。


「ティボー、このコメという食べ物はとても良いものだぞ。王宮で作られたものでな、食べるととても元気が出る。余は大好きだ」


 そう、おぼっちゃまはお米が大好き。

カツカレーを食べたあの日からいたくお気に入りで、私はいくつものお米を使った料理を出させていただいたのでございます。


 ……まあ、それは嬉しいのですが。

その結果、あれだけあったお米は、ほとんどおぼっちゃまのお腹の中に消えてしまったのでした。


 ああ、次の収穫ができる秋まで、備蓄が持ってくれるか心配でたまりません。

私だって、まだまだ食べたいのでっ!


「なんと、陛下のお墨付きとあっては、ひるんでいる場合ではございませんな。では、いざ」


 そう言うと、箸でどうにかほかほかのお米をつかみ、お口に放り込むティボー様。

そして、じっくりと味わった後、またもやびっくりした顔で声を上げられました。


「これは、なんと……甘い! 一粒一粒が甘く、しっかりとした歯ごたえがあり、実に美味い! しかもそれが、ソースと絡まって実に味わい深く、ただただ気持ちいい! これは、素晴らしいぞ……! たまらん!」


 そう言って、もりもりとうな重を食べ進めてくださるティボー様。

よしっ! 無事、お米も気に入ってくださったようです!

不安材料は、これで全部クリアされました!


 実は、ちょっとだけ心配だったのです。

ご病気だというティボー様に、うなぎのかば焼きは問題なんじゃないかと。

うなぎ自体が重たいですし、食べなれないタレやお米はお口に合うかしら、と。


 宮廷料理人のヒゲも、それを心配してしぶっていたのですが、どうやら杞憂だったようです。

まあ、それも、あのヒゲが上手に調理してくれたおかげもあるのでしょうが。


 最近は、心を入れ替えたヒゲと一緒に料理の研究をする機会も多く。

今回は、まず私が用意したタレで調理して見せ、それを真似してヒゲが日々技術を鍛えるというやり方をしたのでした。


 なにしろ、うなぎのかば焼きは奥が深く、日本の職人さんも一生勉強し続けるものだとおっしゃっていたほど。

なら、焼きのプロであるヒゲことローマンさんに託したほうが良いだろうという考えだったのですが、さすがは宮廷料理人にして焼き料理のプロ。


 今では、私も目を見張るレベルでかば焼きを仕上げてくれるようになったのでした。

ご苦労、ローマン! 師匠は嬉しいです!


 後でまかないを食べにいってあげるので、私の分もちゃんと焼いておいてくださいよ!


「うーん、本当に美味い。魚臭さなどみじんもなく、うなぎの美味しさだけが引き出されている。香ばしく、皮目も最高の焼き上がりで、わずかにある焦げすら愛おしい。君、このソースはなんなのだね?」


 と、至福の表情で天を仰ぐティボー様がおっしゃるので、私は元気にお答えしました。


「はい、ティボー様。そちらは、たれと申しまして、大豆というものから作った調味料、醤油をベースにしたものとなっております!」


 醤油。

そう、醤油でございます。

ええ……私はついに、作っちゃったのでございました。

醤油を!


 宮廷魔女のアガタに大豆を栽培してもらい、それを元に、いろんな人の知恵を借りて長い時間をかけ研究を続けた私。

しかし、そこには予想以上の困難と失敗、そして青春と挫折の物語があったのですが……ここで語るのは、やめておきましょう。


 裏方の苦労など、今ここにある美味しいには関係のないことでございますゆえ。

とにかく、かば焼きのたれは、そんな醤油にいろんな調味料を加えて作ったものなのでございます。


「ほう、ショーユとタレ、か。よくわからんが、とにかく良し! おお、この奇妙な四角い箱に、未知との遭遇と、食に対するあくなき探求心が詰め込まれている! なんて美しくも素晴らしい料理だ! おお、実に美味いぞおおおお!」


 吠えるように言い、それはもう美味しそうにうな重を召し上がってくださるティボー様。

ああ……気持ちいい!


 こんなに褒めちぎられながら食べていただくこと、そうそうないですから。

なんだかとっても気持ちが良い!

まさしく、料理人冥利に尽きます!


 なんて、後ろに控えながら隠し切れずニヤニヤしてしまう私。

すると、それを見ていたおぼっちゃまがむっとした顔をなされ、そして。

小さな声で、こんなことをおっしゃったのでした。


「うっ……美味いぞー……」


 それを聞いて、「えっ」と声を上げてしまう私とティボー様。

すると、おぼっちゃまは赤い顔をして、気恥ずかしそうにうつむいてしまいました。


(……おぼっちゃま……もしかして、嫉妬してらっしゃる?)


 うっ、嘘……。

かっ……可愛いっ……!

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