赤くて美味しい素敵なあいつ2
「なーんだ。目当てのものが次、いつ採れるか聞きに来ただけなの。それなら、早くそう言えばいいのに」
と。案内された小屋で、にんまり笑顔の魔女様がおっしゃいました。
「前、無断で果物を持ってく奴がいてね。それ以来、敏感になっちゃって。ごめんね」
「いえいえ、私が悪かったです。つい、素敵な農園にテンションが上がってしまいまして」
作ってきたマフィンを皿に並べ、魔女様のティーカップに紅茶を注ぎながら私は言います。
最初はなんて恐ろしい方だと思いましたが、こうして話してみると私と同じ普通の少女にございました。
アンと二人、ほっと胸を撫で下ろします。
「しかし、もう何年も農園を任されてるけど、私におやつ作ってきたメイドなんて初めてね。あんた気が利くじゃない」
そう言って、魔女様は私が作ってきたマフィンを手に取りました。
そしてしげしげと見つめた後、ぱくりと口になさいます。
「……おいしーい! あんた、やるわね! さすが王子様つきのメイドね!」
「お褒めに預かり光栄です。こちらのジャムをつけるとまた美味しいですよ」
言いつつ、そっとイチゴのジャムを差し出します。
こちらの農園で採れたイチゴを使っているそれを、魔女様はすっとナイフで掬い、薄くマフィンに塗りました。
そしてそれをじっと見つめた後、ぱくりと口になさいます。
「うーん、いい! 甘すぎず上品な味わい! さすが私の育てたイチゴたち、いい仕事するわぁ!」
「あら、そういうのわかるのですか?」
「わかるに決まってるじゃない。ここで採れた子たちは、私の子供みたいなもんだし。砂糖を使いすぎてないのがいいわ、あんたセンス良いわよ」
そのまま大きなマフィンをあっという間に食べてしまった魔女様が、お褒めの言葉をくださいました。
作ったものが生産者に喜ばれるというのは、なんとも気持ちのいいものです。
「そういえば、まだ名前を言ってなかったわね。私は、アガタ。宮廷魔女よ。よろしく」
「はい、魔女様。私はシャーリィと申します。こちらは、アン。どうぞよしなに」
「やだ、魔女様なんて呼ばなくていいわよ。アガタでいいわ、アガタで。歳もそんな違わないだろうし敬語もやめて」
スカートを摘んで挨拶する私達に、手についたジャムをぺろぺろと舐めながら彼女が答えます。
「では、お言葉に甘えて。アガタ、よろしく」
「うん、よろしい。……しかし、あんたなんだか他の人と雰囲気が違うわねえ」
「えっ」
予想外のお言葉に、びくりと驚いてしまう私。
もしかして、私が前世の記憶を持つことを見抜いている……?
魔女だとそういうこともわかるものなのでしょうか、と私が構えていると、アガタは続けて言いました。
「お料理メイドって、良家のお嬢様ってことが多いのよね。王子様とお近づきになれるから。でも、あんたは私と同じ平民の出でしょ。すぐわかったわ」
……あ、なんだ。そういうことか。
そうなのです、お料理メイドは貴族や豪商の娘ということが多いようなのです。
なんでも一班のクリスティーナお姉様に至っては、有力貴族様の四女なのだとか。横にいるアンも、私の家とは比べ物にならないほど大きな商家の五女だと言っていました。
こう聞くと、えっ、良いところのお嬢さんがそんなことしなくちゃいけないの?と思うかもしれません。
良家の娘さんなら貰い手なんて数多なんじゃないの、と。私もそう思いました。
ですがアンによると、たしかにお金持ちの家の娘なら政略結婚とかで他の良家に嫁げるそうですが、それも長女、次女、せいぜい三女ぐらいまでで、そこから先は一気に価値が薄れてしまうそうなのです。
親も三女ぐらいまでなら手間や金をかけて習い事や教育を徹底するそうですが、数が増えてくるとそれもややおざなりになり、「自分の価値は自分で磨きなさい」なんて言われるのだとか。
もちろん黙っていても嫁げはするのでしょうが、王族と懇意にできるおやつメイドになり、その実績で自分の価値を高めたい。
そういう、いわばキャリアアップを目指してみんな必死におやつの腕を磨いておやつメイドになるのだそうです。
つまり、成り上がり商人の子供であり完全に平民な私とは、経歴も立場も比べ物にならないってわけですね。
「実はそうなの。それで、いきなりメイド頭にされちゃって、もう大変。最初は相手にもしてもらえなくて泣きそうだったわよ」
「ああ、王子様は半端なもの出すと絶対に食べてくださらないものね。私もよく果物を出させていただくんだけど、出来が悪いとそのまま突っ返されるからホント大変!」
などと苦労話を言い合い、わっと笑い合います。
アガタは明るくて話しやすくていい人です。
でも、こんな事を話しているとメイド長あたりに知られたら、きっと酷い目に遭うことでしょう。
気をつけねば。
「それで? なんの食材が切れたの。あんたらがいつも出してるのってサクルでしょ。じゃあ、それに使う乾燥果物用かしら?」
と、ようやく話が本題に移りましたので、私はうなずいて答えました。
「それがね、実は……カカオなの」




