表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍・漫画化しました!】異世界メイドの三ツ星グルメ ~現代ごはん作ったら王宮で大バズリしました~【旧題・美食おぼっちゃまの転生メイド】  作者: モリタ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

159/278

お嬢様と宰相と、とびきりの滋養食5

「……なんだ、これは。見たことのない食べ物にもほどがあるぞ。魚、の一種なのか?」


 お重の中から美味しそうな湯気を出している、茶色いそれ。

そう、開かれたうなぎのかば焼きに目が釘付けになりながら、つぶやくティボー様。

そこで、私はすかさず説明を入れました。


「ティボー様。こちら、うなぎを焼き上げた料理にございます!」

「うなぎだと? なんと、これがか。いや、言われてみればたしかに……。だが、こんな調理法は見たことがない!」


 驚いた様子でそうおっしゃるティボー様。

うなぎは、ここエルドリアでもポピュラーな食べ物ですが、その調理法はぶつ切りにして塩焼きにしたり、そのまま揚げたりする簡単なものが主流です。


 ウナギのかば焼きのような食べ方はなく、奇妙に思うのも当然でございましょう。

そして、なにより驚くべき点は。


「それに、この匂い! なんとも嗅いだことがなく、すさまじい異国感だ。遠い国の香辛料でも使っておるのかね」


 そう、まさにそれ。

香ばしい匂いを放つ、かば焼きのたれの匂いでございましょう。

前世日本では嗅ぎなれたそれも、この国ではまさしく異世界の匂い。


 驚くのも当然で、嫌いだったらどうしましょう、と思ったのですが。

ティボー様は、ごくりとつばを飲み込むと、うっとりとした目でこうおっしゃってくださいました。


「しかし、うまそうな匂いだ! 食べたことはないが、これは美味しいものだと私の胃が叫んでおる。おお、それではさっそくいただくとしよう!」


 そして、フォークに手を伸ばすティボー様。

ですがその時、その隣に置かれた二本の棒を見て、不思議そうに言います。


「見慣れぬ料理に、見慣れぬ食器とは。これはどう使うのが正解なのかね?」

「あ、それはですね……」


 慌てて説明を入れようとする私。

ですがそれより早く、その二本の棒、すなわちお箸を手にしたおぼっちゃまが、ふふんと鼻を鳴らして答えてくださいました。

 

「さすがのお主も、知らぬかティボー。これはな、オハシと言って、こうやって使うのだ」


 そう言って、器用にお箸を開けたり閉めたりして見せるおぼっちゃま。

そう、おぼっちゃまはすでにお箸の使い方を身に着けてらっしゃるのでした。


 事の発端は、去年の夏ごろ。

私が、自作のお箸で夜食の焼きそばを食べていたところ、それを見たおぼっちゃまが、たいそう興味をお持ちになられたのでございます。


 その後、私がお教えするとおぼっちゃまはあっという間に使い方を習得。

今では、豆粒すら簡単につまみ取れるほどの腕前になってらっしゃるのでした。


「なんと、なるほど! これは、食べ物をつまんで食す物ですか。なるほど、理にかなっている。これも、どこぞの国の風習ですかな。どれ、私も」


 おぼっちゃまの箸さばきを見ながら、感心した様子でおっしゃるティボー様。

そのままお箸を手になされたので、私は慌てて言いました。


「い、一応ご用意しただけのものですので、フォークでもスプーンでもお召し上がりになれますよ」


 そう、これは私のこだわりというか、そういうもの。

うな重をスプーンで食べるなんて! でも、お箸を無理に押し付けるものちょっと……。


 そんな葛藤の末、一応置くだけ置いておこう、という結論に至ったものなのでした。


「いやいや、ここは私もおぼっちゃまに習ってこれを使ってみたい。だが、どう持てばよいのかピンとこないな。君、教えてくれたまえ」


 とおっしゃるので、私は大喜びで「承知しました!」とお答えし、お箸を持つティボー様の手を握ります。

そのまま、指を動かして「ここをこうして、そっと握ってくださいまし」と、それっぽく握らせると、ティボー様がにっこりと微笑んでおっしゃいました。


「ふっふっふ、この歳になって、孫のような歳の娘に物を教わるというのも悪くないものだ。もっと優しく手を握ってくれたまえ、もっと」


 ……この人は、本当に……。

ほぼセクハラじじいですが、そこで不満そうな顔をしたおぼっちゃまが声を上げます。


「シャーリィ! 余のオハシの持ち方も、もう一度確認してくれ。これでよいか?」

「あっ、はい、ただいま!」


 慌てておぼっちゃまのそばに行き、お手手を握ってお箸の持ち方を確認する私。

まあ、いまさらおぼっちゃまにお教えすることなんてないのですが。

そしてそんな私たちを見て、ティボー様が笑顔で言いました。


「ふふ、まあそれはともかく。そろそろいただくとしましょうぞ。冷めてしまっては、もったいない」


 そう言って、うな重にお箸を差し込むティボー様。

すると、ふかっ、と箸が沈み込み、驚きの声が上がりました。


「なんと、やわらかい! まるでそこに何もないように入っていく。これは本当にうなぎなのか?」


 驚くのも無理はありません。

うなぎは、火の通し方が下手だと固くなるものですから。

特に、皮はまるでゴムのようになってしまうことすらあります。


 ですがこのかば焼きは、きちんと処理し炭火でじっくり焼き上げたもの。

ふっかふかに焼きあがっていて、そんな心配は一切ございません!


 そしてうなぎはあっさりとお箸で断ち切られ、茶色い焼き目の中から、白い身が姿を現わします。

その二色のコントラストを見て、美味しさを知る私は思わずゴクリ。


 ああ、試作で山ほど食べましたが、見てるとまた食べたくなります!

しかも、これから他人が食べるとなると、なおさら!


「どれ、ではさっそく」


 そう言って、慣れない箸でそっとかば焼きを持ち上げ、口元に運ぶティボー様。

そして、しっかりとかみしめること、数回。


 そこで、突如としてティボー様は、くわっと目を見開くと。

盛大に、声を張り上げたのでした!


「これはっ……おおおおっ、美味いぞおおおおー!!!!」


 ……この方……リアクションが、大きい!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ