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【書籍・漫画化しました!】異世界メイドの三ツ星グルメ ~現代ごはん作ったら王宮で大バズリしました~【旧題・美食おぼっちゃまの転生メイド】  作者: モリタ


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お嬢様と宰相と、とびきりの滋養食2

 オロオロする私と、慌ててお嬢様を押さえつけるミア様。

そしてミア様は、そのまま悲しげな表情で私に言いました。


「しかし、君とウィリアム陛下の仲がそれほどだったとはね……。正直、私もショックだ」

「……」


 すみません、と言うわけにもいかず、黙り込む私。

できれば、ミア様には本当のことを伝えたい。

でも、それはできないことなのです。

ごめんなさい。


 やがて、ぜえぜえと肩で息をしながらも、どうにか正気を取り戻したアシュリーお嬢様に、ミア様が諭すように言いました。


「お嬢様、時間もそれほどありません、そろそろ、本題をお話したほうがよろしいのではないでしょうか」

「うっ、ううっ、わかってるわよ。ううううっ」


 本題……?

なんでしょう、本題って。

まさか、お嬢様が私になにか用事でもあるというのでしょうか。


 なにか悪いことかしら、とちょっとビビってしまう私。

するとお嬢様は、あろうことかこんなことを言い出したのでした。


「……あんた、オーギュステ様のことは知ってる?」

「えっ。あ、えと。はい……その。王位継承権をお持ちの方で、その方を持ち上げている方々がいるとかなんとか……」


「そう、事情を知ってるなら話は早いわ。いいこと、今貴族社会は、ウィリアム様を敵視する方々が、オーギュステ様を擁立しようとして大きな騒ぎになってるの。おぼっちゃまが若すぎるとか理由をつけて! 馬鹿げてる、こんなこと王権に対する侮辱だわ!」


 苛立たしげに爪を噛むお嬢様。

ああ、綺麗に整えられた爪がもったいない。

なんて思ってる私をよそに、お嬢様はがっくりと肩を落として続けました。


「でもね、なにより許せないのは……私のお父様が様子見を選んだことよ! 状況がどうなるかわからないから、しばらくウィリアム様と距離を置きなさいっていうの! 信じられない!」

「ええっ!」


 これには、さすがの私も驚きの声を上げてしまいました。

アシュリーお嬢様のお父上といえば、国内でも有数の大貴族。

ウィリアム様にとって、最強レベルの味方なはずです。


 それが、様子見を選ぶなんて……そこまで状況は悪いのでしょうか。


「で、でも本日アシュリーお嬢様がいらしたということは、お嬢様はおぼっちゃまのお味方なのですよね?」

「当り前よ! 私はウィリアム様一筋で、あの方以外と結婚する気なんてないもの! それに、ウィリアム様はこの国になくてはならない宝よ。それぐらい、馬鹿でもわかりそうなものなのに!」


 そのお返事を聞けて、ほっと一安心。

この方まで敵になるなんて、さすがに辛いです。

と、私が胸をなでおろしていると、お嬢様が声をひそめて続けられました。


「だからね、あんたに提案があるの。ウィリアム様の寝室に呼ばれるぐらいなんだから、あんたもまあ一応信頼されてるんでしょう。だから、私たちで手を組んで、ウィリアム様の陣営を盛り上げるのよ」

 

 なんと。

それは、予想外の提案でした。

願ったりかなったりというか、とっても心強いです!


「私たちは敵同士だけど、今回ばかりは手を組むのよ。あんたは、王宮の中から手を打ちなさい。私は、外から動くわ。それで、こまめに連絡を取り合って連携するの。どう?」


 それに、私は力強くうなずいて、はっきりとお答えしました。


「はい、お嬢様。私も、よりおぼっちゃまのお力になりたいと思っておりました。私にどれほどの事ができるかわかりませんけれども、全力で当たらせていただきます」

「そう。わかったわ。じゃあ……はい。今までのことは、水に流しましょう」


 そう言って、すっと手を差し出してくるお嬢様。

なんと、この方が私に握手を求める日が来るとは!

ちょっと感激しながら、しっかりと握手を交わす私。


 しかし次の瞬間、お嬢様はキッと私をにらみつけながら、こう言ったのです。


「けど、あんたがウィリアム様の寝室に呼ばれたこと、私はまだ許してないからね……!」


 そう言って、私の手をギリギリと締めあげるお嬢様。

やだ、この方、意外と握力がある……!


「なんにしろ、味方が増えたのは喜ばしいことです。シャーリィ、どうかよろしくお願いする」

「ミア様、こちらこそ。必ず、おぼっちゃまをお守りいたしましょう!」


 言い合って、うなずきあう私たち。

こうして、私たちの協力関係が始まったのでした。


「それで、さっそくなんだけど。あんた、宰相のティボー様は知ってるわよね?」


 手を放して、そんなことをおっしゃるお嬢様。

宰相、とは王を補佐して政治を行う地位のことを言います。

王の後見人や相談役としての意味合いもあり、実力と影響力を持つ人物が与えられる役職。


 実務を取り仕切り、場合によっては王を超える権力すら持ち得る立場。

それが宰相なのでございます。


「あ、はい。何度か、お名前だけは。ただ、王宮にいらっしゃったことは数えるほどしかなかったような」


 そう、この国の宰相ティボー様は、王宮の外にお住まいで、滅多にやっては来ないのでした。

おぼっちゃまがひときわ忙しいのは、そのため。


 補佐役が来ないので、全部お一人でやる必要があるせいなのでした。


「そう、ティボー様がもっとしっかりなさってくださったら、ウィリアム様ももっと楽なのに……」

「どうして来てくださらないのでしょう?」


「簡単よ。ティボー様ももう高齢だから、体調が思わしくないらしいの。その上、いろいろと怪しい薬を乱用したせいで、ますます体を壊したとか」


 と、ため息とともにおっしゃるお嬢様。

なんと、そういう事情だったのですか。

なら、宰相の地位を誰かに譲ればいいのでは、という私の感想を先回りして、ミア様が口を開きました。


「ティボー様は、それでも強い影響力をお持ちの方。宰相の地位にいてくださるだけで、価値があるのです。ご本人も、それがわかってのことでしょう」

「なるほど」


 私にはよくわかりませんが、それが政治の世界というやつなのでしょう。

となると、お嬢様が私に言いたいこともなんとなくわかってきました。


「いいこと、メイド。そんなティボー様が、久しぶりに王宮にいらっしゃるらしいの。あんた、妙な料理が得意でしょう。料理人のローマンたちには話を通しておくわ。なにか元気が出るような料理を考えて、少しでもあの方を働かせるのよ!」


 やはり、そうきましたか。

さて、医食同源とは申しますが、早々うまくいきますかどうか。

そうは思いましたが、私はこっくりとうなずくと、こう応えたのでございます。


「了解いたしました。私の知る中でも、とびきり滋養のある料理でおもてなしさせていただきますわ!」

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