春とおぼっちゃまとピクニックランチ3
「さすがおぼっちゃま、見事なひと粒を見つけられましたね! うふふ、自分で採るとますます美味しくないですか?」
「うむ、美味しい、最高だ! どれ、もっと採ろう!」
その一つをあっという間に食べてしまうと、次にとりかかるおぼっちゃま。
やがて、取り籠にイチゴがいっぱいになりました。
「ふう、ちとよくばりすぎたか? だが、どれも美味しそうで、残しておくわけにはいかなかった」
「おっ、お疲れ様でございます、王様! もし多かったようでしたら、冷やして別の機会に出させていただきます!」
と、籠を見ながら陽気に言うおぼっちゃまと、嬉しそうなアガタ。
おぼっちゃまがお気に召してくださったようで、ホッとしたようです。
そして、イチゴをすべて綺麗に洗うと、丸太の椅子に腰掛ける私たち。
おぼっちゃまは早速とばかりにイチゴに手を伸ばし、ムシャムシャと豪快に食べ始めます。
「うむ、美味しい、美味しいぞ! なぜかはわからぬが、王宮の部屋で食べるより美味しい!」
「うふふ、おぼっちゃま。それは、環境のおかげですわ。ぽかぽか陽気の春の日に、イチゴの香りが充満した畑でイチゴを食べる。環境も、ごちそうの一部なのでございます!」
そう、それがイチゴ狩りの醍醐味。
いつもとは違う場所で、素敵な果実の匂いに包まれながら食べる。
これがたまらないのです!
「なるほどな。こういった喜びもあったとは、本当に食は奥が深い! いや、それにしても美味しい!」
お手々をイチゴの汁で真っ赤にしながら、満面の笑みでイチゴを食べ続けるおぼっちゃま。
それを逐一綺麗にしながら、私はアガタのほうをチラリ。
するとアガタは小さく頷いて、木の器を持ってきてくれました。
「おっ、王様、よろしければこちらをっ……」
「うん? なんだ、これは」
差し出された器を見て、不思議そうな顔をするおぼっちゃま。
その器の中には、白い液体が入っていました。
おぼっちゃまが見たことないであろうそれを、私は得意げに紹介いたしました。
「おぼっちゃま、こちら、練乳にございます!」
練乳。牛乳を火にかけ、濃縮したもの。
これは、それに砂糖を加えた加糖練乳でございます。
「練乳……牛乳か? これを、どうするのだ。飲むのか?」
「いえいえ、このまま飲むと少々甘すぎますわ。こちら、こうするのでございます!」
そう言ってアガタから器を受け取り、ヘタを取ったイチゴを中にドボン。
そしてよく絡ませると、フォークで突き刺し、私はそれをおぼっちゃまに差し出しました。
「このようにして、イチゴと絡めると絶品なのでございます! さあ、どうぞおぼっちゃま」
「う、うむっ」
ゴクリとツバを飲み込むと、練乳イチゴを口になさるおぼっちゃま。
すると、当然ながら、その表情がすぐにとろけていきました。
「なるほど、こうなるのか……! 良い、良いぞ、また違う美味しさだ! とても、良い!」
そのまま私から器を受け取ると、パクパクと練乳イチゴを食べ進めるおぼっちゃま。
それを見て、私はアガタと「やったね、大成功!」と、目と目で喜びを伝えあったのでした。
◆ ◆ ◆
「ようこそ、おいでくださいました王様! 本日は、ボクが貴方様を不思議の世界にお連れいたしたいと思います」
次に訪れたのは、塔の魔女ジョシュアの部屋。
長い階段を上って古ぼけた扉をくぐると、そこはいつもと違い、周囲が黒い布で覆われ、いくつものロウソクが照らし出すステージになっておりました。
ジョシュアもいつもと違い、黒いローブにシルクハットなんて被って、なんというか、インチキマジシャン感がモリモリです!
……まあ、知ってたんですけどね。
準備は私も手伝ったので。
「なんと、なにか余興をするのか? 何をする気だ、魔女よ」
「ふふ、王様。それは見てのお楽しみでございます。まずは、こちら」
そう言って、チープな作りのステッキを取り出すジョシュア。
そして、それをふんふん言いながら振り回し、そして次の瞬間。
「ハイッ!」
という掛け声とともにそれを上に向けると、ポンッとその先から花が飛び出しました。
「おおっ!? なんと、これは魔女の魔法か!?」
「うふふ、おぼっちゃま、こちらマジックですわ。タネがあって、ああなっております」
魔女がやってると結構シャレにならないので、勘違いさせないようしっかり事実を伝えておきます。
何しろ私、大魔女様の、タネも仕掛けもない物凄い魔法を見てますしねっ。
そのまま、帽子から鳩を出したり、コインを消したり。
次から次へと簡単なマジックを披露するジョシュア。
それらを教えたのは、もちろん私にございます。
前世、余興でマジックをやることになり覚えたものですが、それを冗談半分でやってみせたところ、ジョシュアは大ハマリ。
是非覚えたいというので、小道具の仕組みや騙し方などを伝授したのでございます。
まあ、この世界的にはマジックってシャレじゃすまないですから、ほどほどにしましたけども。
古い時代、こういったマジックは真に受けられ、やってみせた人が本当の魔術師として崇められたり、逆に怪しい存在として処刑されたりしたとかなんとか。
マジックを楽しむのにも、ある程度の素養が必要ということでございます。
「おお、凄い、凄いぞ! 見事なものだ! ……して、今やったことのタネとやら、余に教えてくれるのだろうな?」
手を叩き、目を輝かせてそう尋ねるおぼっちゃま。
するとジョシュアは、ニッコリと微笑んで言いました。
「王様、こういったものは知らないままのほうが趣がございます。ですが……次に行うこちらのタネならば、喜んでお教えしますよ」
そう言うと、背を向けてゴソゴソとなにか仕掛けを操作するジョシュア。
そして、置かれていた椅子に腰掛けると……なんと、すっとその体が椅子ごと宙に浮いたではありませんか!
「おおっ……!?」




